第77話 採取依頼『きよみず石』
「今日からは俺も戦闘に参加するからな」
「はい、よろしくお願いします!」
ガーネットの成長を受け、俺たちは冒険者ギルドで依頼掲示板を見ていた。
「ダンジョン産ドロップアイテムの納品依頼で良いんですよね?」
「ああ、難易度Eの依頼から好きに選んでいいぞ」
王都では街の中でこなす依頼、街の外でこなす依頼、ダンジョンドロップの買い取り依頼などがそれぞれの掲示板がわかれている。
『取得系』スキルが充実したので、いよいよ冒険者ランクを上げていこうと依頼を受けることにしたのだ。
それぞれの収集依頼には難易度が振られている。例えば難易度Eの『黄色い砂10キロ』だったり『青い苔5ビン』だったり。
「これってどっちも植物系モンスターダンジョンですよね?」
『黄色い砂』は水を混ぜて高温で焼くと固まる建築材料で『青い苔』は料理の調味料に使われるアイテムだ。
どちらも特定のモンスターを倒した際、一低確率で出現するドロップボックスから入手可能だ。
野外での採取でもときおり花を愛でていたので植物は好きなのだろう。悩む様子からしてどちらかの依頼を受けると思い見ていたのだが……。
「決めました、こちらにいたします」
彼女が選んだのは『きよみず石1キロ』の依頼だった。
「ここは随分と涼しい場所ですね」
ガーネットは振り返ると笑顔を俺に向けてくる。
ここは水棲系モンスターが出現するダンジョンで、ダンジョンの入り口よりずっと前から川が続いている。
王都の水源は井戸や魔導具から出す水があるのだが、水棲系ダンジョンから流れる水も生活には決して欠かせないものなのだ。
「水棲系モンスターは俺も戦ったことがないし、足場が悪いから思わぬ不覚を取るかもしれない。お互いに油断しないようにしよう」
依頼を受けた『きよみず石』というのは綺麗な水色をした石だ。
浄化作用を持っていて、汚水に使えばある程度綺麗になるし、料理やポーション作成に使うなど、利用できる幅が広い。
そして、このアイテムはドロップボックスからではなく、ダンジョン内に落ちているので戦闘をしなくても入手が可能となっているのだ。
「そうですね、動きやすい格好にしてきたので平気だとは思いますが……」
水場のダンジョンと言うこともあって濡れることを想定した彼女は普段よりも短いスカートを履いている。
そのせいで太ももが露わになっており、ダンジョン内ですれ違う他の冒険者もガーネットの姿を盗み見ていた。
「どうされたのですか、ティム先輩?」
俺が黙っていると、彼女は近付いてきて俺を見上げてくる。
ガーネットは同期連中に恋心を抱かれたせいもありパーティーに居場所がなくなったのだ。
俺はそのことを思い出すと気を引き締める。
「いや、何でもないから……。先に進むか」
ガーネットは魔性とでも言うべきか、無垢な顔を向けると並んで歩き出した。
「やあっ!」
ガーネットが『イエロートード』を斬りつけて倒す。
「【ウインドアロー】」
俺が魔法で風の矢を放つと『ジャイアントリーチ』がズタズタになり地面へとしみ込んでいった。
「ううう……。ティム先輩が一緒で良かったです」
その様子を見ていたガーネットが微妙な表情を浮かべた。
「確かに、あの大きさで『吸血』されたらいやだよな……」
ジャイアントリーチは禍々しい赤い身体をしたモンスターで鍛えられた戦士の腕くらいの大きさをしている。
地面を這って進んでくるのだが、標的を前にすると身体を縮め一気に飛びついてくるのだ。
その時に開く口から生えた歯と嫌でも見えてしまう臓器が気持ち悪く、近接戦闘職からは嫌悪されていた。
「ガーネットが前衛を引き受けてくれるからこそ、安心して魔法を使えるからな」
これまでは複数のモンスターが相手の場合は、すべてのモンスターを封殺するための動きを意識しなければならなかったが、彼女が近接モンスターを抑えてくれるお蔭で標的に集中することができる。
「私たちって相性が良いんですかね?」
「かもしれないな」
前衛と後衛という理想的な組み合わせであることは間違いないので俺は返事をする。
そうこうしている間に『イエロートード』からドロップボックスが出た。
「【トード油】でした」
この油はロウソクを作る際に使われたり、怪我などの止血にも用いられることがある。
「それにしても、先日までと違って随分とやりやすくなりましたよ」
水棲系モンスターダンジョンに入ってから既に二層に突入している。
それまでの間に倒したモンスターは俺とガーネットそれぞれ30匹程になる。
「レベルが上がっているし、ステータスをどんどん振っているからな」
彼女と話し合った時にまずは『筋力』を先行して300まで上げようということになっていた。
『魔力』と『精神力』は最低限にして剣聖の能力が生かせるステータスを優先する。
そのお蔭もあってか、彼女は今成長を実感しており、昨日までと違って最高のモチベーションを保ちながら狩りを続けていた。
「あっ、あそこにも『きよみず石』が落ちてますね」
ガーネットはそう言うと見つけたアイテムを拾い袋へと入れる。
そんな彼女を見ながら俺は、誰かと一緒に冒険するのも楽しいものだなと思い始めていた。
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