第76話 グロリアとマロンの決意

          ★


「ティム君の容態はどうなったんですか?」


 ティムとガーネットが王都へ出発してから数日。グロリアはサロメへと詰め寄っていた。


「今のところ彼の意識が戻ったという報告はありませんね」


「そんな……ティム君」


 グロリアがよろけて後ろにいたマロンにぶつかる。


 ティムがダンジョン内で襲撃にあったという話が冒険者の間に広がっているが、彼の容態については伝わっていなかった。


 一月近く姿を見せないことから、グロリアはしびれを切らせて質問をしたのだ。


 中には「調子に乗っていたからこうなった」「言う程の実力ではなかったらしい」などと笑う連中もいた。


 ティムを襲った犯人は結局見つかっておらず暗殺の危険があることから、ティムは冒険者ギルドが特別に管理している病棟へと移され、面会謝絶…………と言うことになっている。


「グロリア、大丈夫?」


 足の力が抜け、今にも崩れ落ちそうなグロリアをマロンが支える。


「あんたがしっかりしないでどうするのよ! ティムを助けてあげられるのは私たちだけなんだからさ」


 ティムのために行動をしている人間は冒険者ギルドに存在しない。以前の「パーティーを組むつもりがない」発言が尾を引いており、わざわざ助けを申し出る者はいなかった。


「うん……そうだよね。こんな時こそしっかりしなきゃいけないんだ」


 ティムに拒絶されてからも、グロリアはどうするべきか答えを探し続けていた。


「私が力を得て【タリマモの実】を入手すれば……」


 街のダンジョンの下層で極まれにドロップボックスから入手できる【タリマモの実】。これはエクスポーション以上の回復効果を持つ。


 このアイテムならば意識不明の重体のティムを回復させられるとグロリアは考えた。


「マロン、お願い! 付き合って!」


 そのためには下層に籠るための力が必要になる。


 グロリアの表情に元気が戻るのを見て安心したマロンは、それをおくびにも出さず、


「仕方ないから、あんたの惚れた相手を救うのに手を貸してあげるわよ」


「そっ! そんなこと言ってないでしょ!」


 からかい気味に返事をした。


 どうにか元気を取り戻した二人がサロメの前から去っていく。


「本当に、ティム君って女泣かせなのね……」


 ギルド職員の先輩がサロメに話し掛けてきた。


「彼の場合はそれに無自覚ですからね」


 サロメが知る限り、彼に好意を寄せる女性は複数いる。


 Dランク冒険者のオリーブとグロリア。他にもサロメが教育を頼んだガーネットも多少であるが気を許し始めていた。


 マロンやミナは今のところティムを恋愛対象として見ている様子はないが、他の男と接するのに比べて好意的なので未来はわからない。


「頼むから……女性関係で刺されて死ぬのは止めてよね」


 専属サポートとしてもプライベートの面倒までは見切れない。言葉にしたことで現実にありえそうだなとサロメは険しい表情をする。


「そう言えば、今日は彼、あなたのところにこないのね?」


 先輩職員のからかうような視線がサロメに向く。彼と言うのはAランク冒険者のニコルのことだ。

 彼は元々サロメとパーティーを組んでいた人間で、パーティーが解散になった際、サロメはギルド職員に。ニコルはそのまま冒険者を続けた。


 彼は冒険者時代からサロメに惚れており、王都で成り上がって戻ってきてから毎日彼女を口説いていたのだが……。


「ニコルならこれです」


 サロメは悪戯な笑みを浮かべると一枚の紙を先輩職員に見せた。


「これを見せて一言をつぶやいたら出掛けて行ったので、少なくとも一月は戻って来ないかと思いますね」


 その内容を読むと先輩職員は引きつった顔をする。


「あんな優良物件他にないでしょうに……。それにしても可哀想に……」


 先輩職員は紙から目を離すと、惚れる相手を間違えたニコルに同情するのだった。



          ★


「よし、少し休憩だ」


「はい、ティム先輩」


 一日が経ち、ふたたびダンジョンに潜った俺たちは一層で狩りをしていた。


 昨日と同様に、ステータスが上がらず苦労しながらプチゴーレムを倒していたガーネットだったが、夕方手前になると見習い冒険者のレベルがようやく15まで上がった。


「予定通り『取得ステータスポイント増加』が出現した。これで基本的な条件は整ったな」


 俺は早速スキルを取得してやる。


「これで最初の目標を達成だな。ここからは楽になるぞ」


「良かったです」


 ステータス画面が見えない彼女には実感が湧かないようだ。倒すのにそれなりに時間が掛かるプチゴーレムとの連戦続きで疲れている。


「今日はもう止めておくか?」


 俺の問いに彼女は首を横に振る。


「一刻も早く成長して両親に意思を告げなければなりませんから」


 その言葉の裏にはふたたび俺が狙われることを危惧しているのが伝わってくる。


「そうだな。商人に職業を変更して『オーラレベル3』にしたから、これからは成長を実感できるはずだ。一気にDランクまで駆け上がろう」


「はいっ! ティム先輩」


 名 前:ガーネット

 年 齢:15

 職 業:商人レベル1

 筋 力:164+1

 敏捷度:129

 体 力:129+2

 魔 力:28

 精神力:30

 器用さ:100

 運  :100+1

 ステータスポイント:0

 スキルポイント:28

 取得ユニークスキル:無し

 取得スキル:『アイスアローレベル1』『ヒーリングレベル1』『オーラレベル3』『取得経験値増加レベル5』『取得スキルポイント増加レベル5』『取得ステータスポイント増加レベル5』


 ここからは彼女も自分の成長を実感できるようになるだろう。俺はやる気をみなぎらせているガーネットと一緒にダンジョンを進むのだった。




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