第75話 ガーネット『取得スキルポイント増加』取得

「はぁはぁはぁ、次です」


 モーニングスターを振り下ろすとプチゴーレムが倒れる。


 今日だけでガーネットが屠ったモンスターの数は100を超えているだろう。


「ガーネット、今日のところはここまでにしておこう」


 俺はステータス画面を見るとそう呟く。

 現在、彼女の見習い冒険者レベルは12だ。レベル10に達したところで、新たに『取得スキルポイント増加』のスキルを取得できたのだが……。


「……はい」


 一日中モンスターと戦っていたせいか、返事に元気がない。

 無理もない……。


 普通の職業であればこれだけ戦えばレベルも上がり、難易度が落ちてくるはず。

 だが、見習い冒険者のステータスの上昇値は本気で少ない。


 なのでどれだけ倒しても成長の実感を得られることがなく、疲労となって降りかかってきているのだろう。


 明日になってレベル15で『取得ステータスポイント増加』が出現してくれれば良いのだが、スキルを取得した後はやはり一度職業を変えるべきだろう。


 俺はそう判断すると、彼女を連れてダンジョンを出た。





「すみません、買取をお願いできますか?」


「はいよっ! これは凄い量だな。あんたら二人で狩ったのかい?」


 ガーネットが声をかけると、中年の男が驚きながら聞いてきた。


 ここは王都にある冒険者ギルドの支部、その野外倉庫前だ。


 買取る品が多かったり、馬車で売りに来た場合はこちら側に直接行くことになっている。


 俺は、今日の冒険の前にあらかじめ馬車を借りておき、冒険者ギルドに入る前のところでアイテムボックスを開いて本日収集したアイテムを出しておいた。


 物が鉄鉱石なので、数人の男が次々と運び出していく。


「……なんだか、大変そうで申し訳ないです」


 そんな男たちをみたガーネットが顔を近付けると耳打ちをしてきた。


 鉄鉱石は1つ3キロ程なので、本日の狩り分に加えて俺が先日狩った分もいれて100個。300キロとなるので、それを馬車から下す作業はなかなかに大変そうなのだ。


「仕方ないさ、スキルを見せるわけにもいかないし」


 サロメさんになら打ち明けているので問題ないが、こんなところでアイテムボックスを見せて目立つのは本意ではない。


「それにしても『アイテムボックス』って便利なのですね。これがあれば着替えや身体を拭くための水なども運べて身だしなみを整えることができますね」


 かさばるアイテムを運べて便利な点はその通りだが、ガーネットも女性ということか、使用目的が俺と異なった。


「これは商人レベルが25で手に入るから。ガーネットが欲しいならどこかで上げておかなきゃならないな」


「図々しい注文で恐縮です」


 俺が計画について話すと、自分がおねだりをしたから答えたのだと彼女は勘違いしたようだ。


「そんなことはないから、気にするな」


 ガーネットとパーティーを組むことで俺のスキルについて色々検証できる部分もある。

 例えばドロップボックスの出現だったり、スキル取得の条件だったり。


 彼女を一人前にして送り出すのは俺が決めたことなので、こうなったら徹底的に強くして周囲に文句を言わせない存在にしてやろうと思っている。


「お待たせしました、馬車のレンタル代を差し引いて銀貨180枚になります」


 そうこうしている間に精算が済み、中年の男がお金を渡してくる。トレーには袋が2つあり、半々に分けてくれるように頼んでいたのだ。


「ほら、ガーネット」


 俺は受け取った袋の片方を彼女へと差し出した。


「いえ、受け取れません。荷物を運んでいただいたのはティム先輩じゃないですか」


「それを言うのなら倒したのはガーネットだろ」


「それは、ティム先輩ならもっと早く倒せましたから……」


 受け取ろうとしないガーネット。


「確かに今は俺がガーネットに教えている立場だが、パーティーを組んでいるからには仲間でもある。俺は自分の仲間から搾取するようなことはしたくない」


 彼女が何と思おうが、今日一日努力していたのを俺は知っている。真剣な目で見ていると、彼女はじっと俺を見つめ返してきて、やがて……。


「そこまでおっしゃるのでしたら受け取らせていただきます」


 銀貨が入った袋を受け取った。だが彼女は頬を赤らめると、


「私などを仲間を認めていただけたことには感謝します。だけど、やはり感謝の気持ちを忘れることはできません。なので、今回のこれは借りということで覚えておきますので」


 意外と頑固な一面を見せるガーネット。俺はなんだか可笑しくなってしまい……。


「そうだな、俺が危険になった時に助けてくれればいいさ」


 いつかそんな日が来てもおかしくないなと想像して笑うのだった。

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