第74話 プチゴーレム

「一層はモンスターと遭遇することが少ない。この一匹に専念していいから慎重に戦うんだぞ」


「はいっ! ティム先輩っ!」


 ガーネットは返事をすると真剣な顔で目の前のプチゴーレムへと向き合った。


 モーニングスターを両手で握り、近付いてくるのに合わせて武器を振るうタイミングを計っていた。


「えいっ!」


 プチゴーレムが右腕を伸ばしてくるのを見ながら身体を右側に動かし、距離をとると武器を叩きつける。


 ――ガンッ――


「か、硬いです……」


 衝撃で手がしびれたのか、ガーネットは手を開閉して感覚を取り戻そうとしていた。


 流石に攻撃力が足りていないのだろう。一層とはいえ難易度が高いダンジョンだ。

 武器はそこそこの物を用意したが、このダンジョンにずっと籠るわけでもないのでそこまで金をかけていない。


 俺がガーネットを補助しようと考えていると……。


「こうなったら……『オーラ』です」


 彼女の身体が黄色い光に包まれる。暗い洞窟の中で彼女の存在感が一気に増す。


「うん。軽くなりました」


 ガーネットは頷くとモーニングスターを持ち上げる。そして……。


 ――ガガンッ――


 先程よりも大きな音を立ててモーニングスターがプチゴーレムに当たる。


「もう一発、です!」


 プチゴーレムの動きは元々鈍い上、彼女は剣聖として動きのセンスもあるのか、敏捷度以上に立ち回りが上手い。


 たくみにプチゴーレムの攻撃をかわし、背後に回り込むと……。


「これでお終いです」


 次の瞬間、プチゴーレムが崩れ落ちる音がした。


「どうしょうか、ティム先輩?」


 戦闘が終わり、振り返った彼女が聞いてくる。


「ああ、やっぱりプチゴーレムは他のモンスターよりも経験値が良いな。今のでレベルが一気に2もあがって見習い冒険者レベル3になったぞ」


「……そうですか。良かったですね」


 聞いてきたので教えてやったのだが、何やら不満げな様子だ。


 とりあえず会話を繋ぐためにも今の戦闘を評価しておこう。


「それに動きも良かった。正直今のガーネットなら同期のエリートに混ざっても活躍できるだろう」


 最初は生き物を殺すことにためらうガーネットだったが、最近では気負うこともなくモンスターへと向かって行く。

 このまま成長していけば、彼女を手放したパーティー連中はさぞ悔しがるに違いない。


「も、もう……。落としてから上げるのはずるいです」


 そんなことを考えていると、ガーネットが何やら嬉しそうにしている。


 だが、取得スキル欄にはいまだ『取得経験値増加』『取得スキルポイント増加』取得ステータスポイント増加』が出現しない。


 取得できたら一気に楽になるのだが……。


「とりあえず、問題なさそうだな。このまま狩りを続けよう」


 俺はそう促すとガーネットと一層を歩き回った。




「…………ガーネット、ちょっと休憩にしよう」


「はい? まだそんなに疲れてませんけど?」


 彼女が怪訝な顔をして俺を見つめてくるが、そんなことには構っていられない。


 あれから、ガーネットと一層を回っていたのだが、プチゴーレムを十数匹倒したところ……。


「ついに出た……」


 取得可能スキル欄に『取得経験値増加』が追加されていた。


「もしかして、先程言われていたスキルが出現されたのですか?」


「ああ、まだ1つだけだけどな」


 実際に出るまでの間不安だった。

 俺が得られたスキルだからと言って必ずしもガーネットが得られるとは限らなかったからだ。


「見習い冒険者レベル5。これが出現の条件だったんだな」


 そうなると他の二つ『取得スキルポイント増加』『取得ステータスポイント増加』もおそらくレベル20までに発現するはず。そこから30まで上げればさらに『指定スキル効果倍』だって見えてくる。


 もっとも、そこまで上げるには今の彼女のステータスでは無理があるので、他の職業に変えて『筋力』などの数値を上げていく必要があるだろう。


 それにしても、やはり『取得系』スキルがないと、振ることができるステータスとスキルポイントも足りないのだな……。


 俺は振り終わったステータス画面を見た。


 名 前:ガーネット

 年 齢:15

 職 業:見習い冒険者レベル5

 筋 力:119

 敏捷度:119

 体 力:119

 魔 力:28

 精神力:30

 器用さ:100

 運  :100

 ステータスポイント:20

 スキルポイント:23

 取得ユニークスキル:無し

 取得スキル:『アイスアローレベル1』『ヒーリングレベル1』『オーラレベル2』『取得経験値増加レベル5』


「とりあえず『取得経験値増加』をレベル5まで上げたから、ずいぶん効率が変わるはず。この調子でどんどんやっていこう!」


「はい、ティム先輩!」


 俺が檄を飛ばすと、ガーネットは気持ちよい返事を返すのだった。

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