第73話 『見習い冒険者』出現

「ティム先輩。おひさしぶりです」


 冒険者ギルドに顔を出すと、ガーネットが走り寄ってきた。

 いままでガーネットと話してたであろう若い冒険者の男が四人、眉をひそめてこちらを見ている。


「ひさしぶりと言ってもたった一週間だろう……」


 昨日までが研修だったのだが、余程退屈だったのだろう。解放されて嬉しそうな顔をしている。


「あっちのやつらは?」


「研修期間を御一緒しました方々です。今日ここでティム先輩を御待ちしておりましたら『一緒に冒険しよう』と誘われまして……」


「別に行ってきても良かったんだぞ?」


 今の内に新しい人脈を作ることは悪いことではない。ところが……。


「頑張って研修しましたのに、そのようなことおっしゃらないでください」


 ガーネットは不満そうな顔をした。


 その可愛らしい顔をみて、そう言えば男連中から交際を迫られてパーティーを抜けたことを思い出した。


「悪かった、あとで渡す物があるから受け取ってくれ」


「えっ、なんでしょう。楽しみです」


 ガーネットが俺に笑いかけている間に、男たちは依頼を受けて出て行く。


 流石に自分たちよりランクが上の相手に絡む身の程知らずではないようだ。


「それは着いてからのお楽しみだな」


 すっかり機嫌を直した彼女を連れて、俺は歩き出した。





「……これ、なんでしょうか?」


 ダンジョンに入って、アイテムボックスを開いた俺は早速買っておいた武器を彼女に渡した。


「何って【モーニングスター】だが?」


 先端に尖ったスパイクが付いていて対象に振り下ろして使う打撃武器だ。


「いえ、それはわかりますけど。どうしてこのような武器を私に?」


 首を傾げる彼女に説明をする。


「それはこれからこのダンジョンでゴーレムを倒すためだ」


 色々試したが、ゴーレムを倒すのに剣では効率が悪い。かといってガーネットに魔法を使わせるつもりもないため、こうして効果が高い武器を用意したのだ。


 受け取った彼女はなんとも微妙そうな顔をする。

 そして少しして表情を取り繕うと、


「わ、わー、嬉しいですー」と演技を始めた。どうやら俺は何かを間違ったらしい。彼女に気を遣わせてしまったようだ。


「そうだ、狩りをする前にパーティーを組みなおそう」


 研修期間中はパーティーを解散していたので、俺はふたたび彼女にパーティー申請をした。

 冒険者カードを重ねてパーティー登録を終え、俺がステータス画面をみると……。


「よしっ!」


「どど、どうされたのですか!?」


 突然拳を握って声を出した俺にガーネットは怯えていた。


「実はだな。今まで選べなかった職業が選択できるようになったんだよ」


「はぁ、おめでとうございます?」


 俺の勢いに押されてガーネットはそう言いつつ首を傾げる。

 どうやら今回の発見がどれだけ素晴らしいものなのか理解していないようだ。


 なにせ今出現している職業は……。


「ガーネットにはこれから『見習い冒険者』になってもらうことにする」


 最も効率の良い成長手段を手に入れたからだ。


「も、もしかして。また違う場所に預けられてしまうのでしょうか?」


 俺の言葉を深読みしたガーネットは不安そうな表情を浮かべ見上げてきた。


 俺は彼女に『見習い冒険者』の素晴らしさと取得できるスキルについて説明をした。


「なるほど、そう言うことだったのですね。もしかして、ティム先輩はこの職業を出現させるために私に講習を受けさせたのでしょうか?」


「その可能性について考えなかったわけじゃないが、そもそも基礎知識をおろそかにすると良くなかったからだよ」


「私のためにそこまで考えていただき、ありがとうございます」


 ガーネットは嬉しそうな顔をすると俺に頭を下げた。


「それで、職業を『見習い冒険者』に変更するとこれまであった『剣聖』の職業補正がなくなるから、動きが随分鈍くなるはずなんだ」


「ええ、わかりました」


 俺が先に注意しておくと彼女は即座に頷く。


 俺はガーネットの職業を『剣聖レベル6』から『見習い冒険者レベル1』へと変更する。


「うっ……なんか急に……武器が重くなりました」


 無理もないだろう彼女の『筋力』が115。剣聖の補正が30あったので、いきなり筋力が大きく減ってしまったのだから。


「そういえば、スキルとステータスの振り方どうする?」


 王都に着くまで判断を保留にされていたので聞いてみた。


 レベルも上がっているのでスキルポイントとステータスポイントも溜まっている。


 残念ながら『取得系』スキルはまだ出現していないのだが、俺が初めてステータス画面を見た時は『見習い冒険者レベル20』だったことから、レベルを上げていけば解放されるのだろう。


「ティム先輩の好きなようにお振りいただけないでしょうか?」


「いいのか?」


「毎回私に伺いを立てるのも手間でしょうし、なにより、あなた様は信頼できますから」


 無垢な笑顔を向けられた俺は心臓が激しく脈打った。彼女が心の底から俺を信じてくれているのがわかったから。


 この期待を裏切ることはできない。


「わかった、今後は俺の方でステータスを振らせてもらう。だが、振る前に目的を含めて説明はするつもりだ」


「私を、あなた様の望むままに育ててください」


 彼女は右手を胸の前に添えると恭しくお辞儀をするのだった。


 名 前:ガーネット

 年 齢:15

 職 業:見習い冒険者レベル1

 筋 力:115

 敏捷度:115

 体 力:115

 魔 力:28

 精神力:30

 器用さ:100

 運  :100

 ステータスポイント:0

 スキルポイント:20

 取得ユニークスキル:無し

 取得スキル:『アイスアローレベル1』『ヒーリングレベル1』『オーラレベル2』

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