第72話 ダンジョンの種類
「さて、久しぶりに一人だな」
王都にある冒険者ギルドで手続きをして元冒険者の講師にガーネットを預けてきた。
彼女には一週間かけて冒険者の基礎を学んでもらう予定となっている。
昨日そのことを話したら「それでしたらティム先輩に今教わっています。私、ティム先輩に教わりたいです」と先輩冥利に尽きる可愛いことを言われたが、今回は他にも目的があった。
渋るガーネットを「きっと君のためになるとおもうから」と言って送りだしたのだ。
「それにしても……」
知り合ってから一ヶ月以上、ずっと一緒にいたので隣に誰もいないのは何とも寂しい気がするのは気のせいだろうか?
だけど、ここできっちり冒険者の基礎を覚えておけばいずれ一人立ちした時に他の冒険者とパーティーを組みなおす場合に必ず役立つはず。
「それに、もしかしたら……」
今回の研修での副次効果を期待してしまい、考えを振り払う。先日のスキル効果の件でがっかりしたのを忘れてはいけない。
意識を目の前へと戻す。
「それより、今日はこのダンジョンに潜ってみるとするか」
俺は王都にあるダンジョンマップの中から特に潜ってみたいと考えて選んだダンジョンを見ると、楽しみにしながら奥へと入っていった。
「一層の作りは大体どこのダンジョンも同じなんだよな……」
『ライト』で周囲を照らしながら進む。
壁が岩でできていて天井がそれなりに高く直線の通路が多い。
これらは今日まで潜ってきた様々なダンジョンの一層すべてが同じだった。
これはダンジョンが生物から生命力を得て成長しているからだと言われている。
一番最初の層は難易度を下げて人が入りやすくしておき、多くの人を呼び込もうとしている。
結果として、同じような作りになるんだとか。学者が発表したことで広く世間に知れ渡っていた。
基本的に、それぞれのダンジョンでは出現するモンスターの系統が違っている。
俺が住んでいる街では亜人系モンスターで、その隣り街が獣系モンスター。他には水棲系モンスター、植物系モンスター、竜種系モンスター、悪魔系モンスターなどなどのダンジョンが存在している。
ダンジョンの深層や、高難易度ダンジョンなら低層でも複数の系統のモンスターが出現するのだが、そちらにはある程度確かな実力がなければ入ることができないので今は置いておく。
そんな中俺が選んだのはやや難易度が高めのダンジョンだった。
「おっ、早速現れたな」
目の前には身体が岩でできたモンスターがいて、こちらに向かってくる。
これは『プチゴーレム』と呼ばれる物質系モンスターだ。
体格は俺とほぼ変わらず、むしろやや大きいくらい。なぜこれでプチなのかと言うと、普通のゴーレムだと高さが3メートルを越えたりするからだ。
「さて、まずは小手調べ」
俺は剣を抜くとプチゴーレムと距離を詰める。一層に出るだけあって動きが遅い。
プチゴーレムが腕を振りかぶったので俺はそれをあえて受けた。
――ゴツッ!――
ダメージはないがガードした腕にそれなりの衝撃がくる。
俺は剣を横に振るいプチゴーレムを攻撃した。
次の瞬間、鈍い音を立ててゴーレムの身体が崩れた。
「ここのダンジョンは剣だと相性が悪そうだな……」
一撃で倒せたが、これまでのダンジョンに比べて身体が硬い。
ここは物質系モンスターが出現するダンジョンなのだが、一層に湧くわりにモンスターが強い。
「お、ドロップボックスがでた。【鉄鉱石】か……」
このダンジョンで手に入るドロップアイテムのほとんどがインゴットだったり鉱石だったりする。
「人気がないわけだな……」
先程の一撃の威力もそうだが、駆け出し冒険者がこのダンジョンに潜るのはまず厳しい。
武器にしたって最初に習うのは剣が主流だし、鈍器は武器の取り扱いに余裕ができたら覚えるから有効な攻撃方法がない。
さらに得られるドロップアイテムが問題だ。
深層に行けばレア金属のインゴットも得られるのだが、何せ重たい。
この【鉄鉱石】でも数キロはするので、ドロップするたびに持ち帰っていては時間の無駄になる。
ましてやここは王都なのだ。
他に魅力的なダンジョンがいくらでもあるせいか、俺が今潜っているダンジョンは完全に外れ判定をされており訪れる人間も少なかった。
考えている間にもう一体プチゴーレムが出現する。
鈍い足取りでこちらに近付いてくるので、俺は右手を挙げると……。
「『ファイアバースト』」
威力を押さえた魔法を放つ。
火の玉がプチゴーレムに着弾して爆発を起こすと、本体がバラバラになった。
「ここは爆発系の魔法と相性がよさそうだな」
俺はアイテムボックスを開き鉄鉱石を回収する。周囲には相変わらず人がいないので楽なものだ。
「とりあえず、ガーネットには鈍器でも持たせるか」
この層のモンスターはどれも硬く初心者が相手にするには強いのでその分経験値も高そうだ。
俺とガーネットが籠るには都合が良いだろう。
「せっかくだし、もう少し奥も見ておくかな……」
アイテムボックスがあるお蔭でこのダンジョンと相性が良い俺は、レア金属が出るのを楽しみに下の層を目指すのだった。
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