第71話 王都に到着

「それじゃあ、またどこかであったらよろしく頼むよ」


 そう言うと手を振って馬車で同乗していた人たちが歩き去っていった。


 馬車を降りた俺たちは、他の客共々出口へと案内されていた。


「楽しい旅でしたね、先輩」


 隣ではガーネットが笑っている。途中の街で何度もダンジョンに潜ったのだが、流石に慣れてきたのか、スムーズに動けるようになり、少しレベルも上がった。


 移動中は良く寝て、フローネの料理を食べ、ダンジョンで狩りをする。

 確かに充実した旅だったと言っても良いだろう。


 だけど俺の感想はガーネットと少し違う。不満があるのだ。


 追手の気配がなかったので、一時的に『指定スキル効果倍』のスキルを『取得増加系』へと付け直してみたのだが、彼女にモンスターを倒させてみてレベルが上がるのを見届けたが、スキルポイントやステータスポイントは増えていなかった。


 レベル上げにもそれなりに一層のモンスターを討伐しなければならなかったことから『見習い冒険者』で取得できるスキルは個人のみに効果を及ぼすものらしい。


 『アイテムドロップ率増加』がなまじパーティー仕様だったので期待してしまった。


「残念だったな……」


 スキルが適用されるのならガーネットの成長も促せるのに。そんなことを考えていると……。


「そうですね、最後にフローネさんに御挨拶がしたかったです」


 俺が呟いた言葉をガーネットが違う意味に受け取った。


 馬車は俺たちを降ろすと別な場所へと移動してしまった。そのせいで、フローネと顔を合わせることもできなかった。


 ガーネットは旅の間、特によくフローネと仲良くしていたので残念そうにしている。


「また帰りもここの馬車を利用すればいいさ」


「……そうですね、是非そういたしましょう」


 俺がそう言うと、彼女は返事をし、笑うのだった。





「ここが……王都か?」


 外に出ると様々なものが一斉に視界に映り込んだ。


 客引き声から、金属を打ち付ける音。誰かに呼び掛ける声に何かよくわからない魔導具が動く音など。

 とにかく、一目ですべてを把握することが不可能なほどに様々な物が溢れていた。


 食べ物の匂いも凄い。甘い匂いや辛い匂い、中には臭いと感じる食べ物もあるのだが、その店の客は美味しそうにその臭い食べ物を口にしていた。


 見る者すべてが新鮮で、どれもこれもが気になる。

 俺は王都へときた実感が湧き、身体がそわそわした。


「もう、先輩。そんなにキョロキョロされますと、スリにお金を盗まれますよ?」


「ああ、そうだな……」


 ガーネットが口元に手をやりクスリと笑う。

 彼女は元々王都に住んでいたのでこのような人の多さにも慣れているのだろう。


「しかし、こんな混み方。うちの街じゃ祭りの時くらい目にしないぞ」


 祭りの時でもここまでではなかったかもしれない。


「王都ではこの光景が普通ですから。祭りともなると国中から観光客が押し寄せてきますので、もっと賑やかになりますよ」


「これ以上に人が増えるのか……」


 ガーネットの言葉に驚きを覚えると、俺はしばらくの間この光景を見ていた。




「さて、ようやく王都に着いたわけだが」


「はい、到着いたしましたね」


 俺とガーネットは近くにあったカフェへと入店した。

 そこでティーセットを注文して向き合って座っている。


 周囲はカップルと女子同士がほとんどで、男だけという組み合わせはまったくない。


 一応、周囲を気にかけてから俺はガーネットに話し掛けた。


「ここでの行動についてだが、まずはこれまで通りダンジョンに潜ろうと考えている」


「えっ? 私の実家に赴き、両親に御挨拶されるのではないのですか?」


「……挨拶じゃなくて、ガーネットが冒険者を続けるための口添えだな」


 肝心の説得は彼女に頑張ってもらうしかない。あくまで俺は部外者に過ぎないのだ。


「ガーネット。今のお前の冒険者ランクは?」


「……Fです」


 実際の実力ならコボルトも余裕で討伐できるのでEランクはあるのだが……。


「戻って『冒険者を続けたい』と言ってその娘が冒険者で下から2番目のランクだったらどうなると思う?」


「問答無用で部屋に閉じ込めて、次に出られるのは結婚式でしょうか?」


 首を傾げながら想像を言葉にする。


「ああ、そうだろうな。半年冒険者をして目が出ていない人間がそんなこと言ってきたら当然そうなる」


 貴族の家と言うことを考えればそれでも手ぬるいくらいだ。


「だから、両親を説得する前に冒険者ランクをDまでは上げておこうと思っている」


 王都の依頼やダンジョンで実績を作っていけば平気だろう。

 何せ、ガーネットは剣聖なのだ。無理をしなければ余裕でこなせるはず。


「そうすると、今後は、……先輩と御一緒にダンジョンへと潜るわけですね?」


 妙に嬉しそうに言うガーネットに首を横に振る。


「いや、違うな」


「と言うと?」


「金貨3枚払えばベテラン冒険者が引き受けてくれるらしい」


「…………話が見えないのですが?」


 ガーネットは形の良い眉よ歪ませると首を傾げた。


 俺は今のガーネットにもっとも必要なことをやらせることにした。


「ガーネットにはこれから一週間、ベテラン冒険者に師事してもらい冒険の基本を覚えてもらう」


「ええっ!?」


 彼女は驚くと大声を出すのだった。

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