第61話 新スキル取得済み
「……うっ」
目を開けると眩しさのあまり声が漏れた。
頭が重たく思考しようにもモヤがかかっているように考えが定まらない。
しばらくするとモヤがはれ、意識が覚醒してきた。身体が軽く、ゆっくりと休んだ後のように力が溢れ出していた。
「……腹へったな」
意識すると腹の音がなりそうになる。俺は身体を起こして周りを見た。
ベッドが幾つかと薬品が置かれた棚、その他に治療のための道具が目に映る。
どうやらここは治癒ギルドの入院施設らしい。
「そうか、どうにか生き延びたんだな……」
最後にダンジョンで倒れていた状況と聞こえた声、すべて思惑通りになったと判断すると、俺はほっと息を吐いた。
「……まさかこのスキルを取得する羽目になるなんてな」
意識を失う直前に間に合うかわからないが取得したスキル。効果を信じるのならこれが俺の命を繋いでくれたということになるだろう。
俺はステータス画面を見た。
名 前:ティム
年 齢:16
職 業:戦士レベル36
筋 力:365+72
敏捷度:323
体 力:392+72
魔 力:339
精神力:302
器用さ:366
運 :502
ステータスポイント:90
スキルポイント:223
取得ユニークスキル:『ステータス操作』
指定スキル効果倍:『取得スキルポイント増加レベル5』『取得ステータスポイント増加レベル5』『取得経験値増加レベル5』『アイテムドロップ率増加レベル5』『バーストレベル8』
取得スキル:『剣術レベル7』『バッシュレベル6』『ヒーリングレベル6』『ライト』『罠感知レベル5』『罠解除レベル5』『後方回避レベル5』『アイテム鑑定レベル6』『短剣術レベル5』『ファイアアローレベル6』『アイスアローレベル6』『ウインドアローレベル6』『ロックシュートレベル6』『瞑想レベル6』『ウォールレベル6』『魔力集中レベル6』『祝福レベル6』『キュアレベル6』『ハイヒーリングレベル6』『セイフティーウォールレベル6』『スピードアップレベル6』『スタミナアップレベル6』『アイテムボックスレベル4』『指定スキル効果倍レベル5』『スキル鑑定』『眠る』『食べる』『ダブル』『深く眠る』
・『深く眠る』⇒体力が一割を切ると強制発動、その場で深く眠り短時間で体力を回復させることが出来ます。
背中から刺された時点で、まるで命が流れ出ているような感覚に襲われた。
今思い出すだけでもぞっとする。スキルを取得した瞬間、俺は眠りに落ちてしまったのでそこからは体力の消耗が緩やかになったのではないだろうか?
「一か八かの賭けだった」
『深く眠る』を取得したところで死んでいたかもしれないし、微かに声が聞こえた気がしたが実は幻聴でモンスターに殺されていた可能性もある。
あの場で完璧に生き残る方法はなかったので、生き残った幸運を俺が喜んでいると……。
――ガシャン!!!――
「ん?」
考え事をしていると背後で何かが割れた音がしたので振り返った。
「ティム……さん?」
「オリーブさん?」
やはりあの時聞こえたのはオリーブさんとミナさんの声だったようだ。
俺は改めてお礼を言わなければと彼女の顔を見たのだが、オリーブさんは両手で口元を覆い、目に大粒の涙を浮かべていた。
「うっ……もう……本当に……駄目だと……ううっ……ティムさん。生きて……良かった……」
「え、えっと……?」
まさか泣かれるとは思っていなかった。身体に傷一つないことからあっさりと治ったと思っていたのだが、思っていたよりもヤバい状態だったのかもしれない。
「ティムさんっ! ティムさんっ! ティムさんっ!」
彼女が走り寄って俺に抱き着いた。もう放さないとばかりに背中に手を回し強く抱きしめてくるせいで、彼女の身体の柔らかさをこれでもかという程に感じてしまい、こんな状況だというのにドキドキしてしまう。
純粋に俺の無事を喜んでくれているオリーブさんに申し訳ない。
俺が彼女の肩に手を置くと、オリーブさんは顔を上げる。
涙に濡れた顔を俺に向けるとそっと目を閉じた。
「え、えーと……?」
どうすればよいのだろうか?
目の間で女性に泣かれた経験もなければ、目を閉じられた経験もない俺は自分が取るべき行動がわからない。
次第にオリーブさんの顔が赤く染まるのを観察していると、少しして彼女が目を開いたので見つめ合ってしまった。
俺は首を傾げると彼女の様子を窺うのだが……。
「は、早とちりしました……」
彼女はそう言うと、そそくさと離れていく。一体何を早とちりしたのかだろうか?
俺は聞き返すのだが、彼女は不機嫌そうに顔を逸らすと無言を貫くのだった。
「一週間も眠っていたのか……」
あれから、今回の件で面倒を見てくれたメンバーが病室を訪れた。
「そうですよ、ティムさん。一時期は絶望的な状況までなったので、今こうして話ができるのは奇跡なんですからね」
サロメさんが毅然とした態度を見せる。目元が若干赤いのは最初に部屋に入ってきた時に涙を見せたからだ。
「ガーネットもありがとうな。貴重なエクスポーションを俺に飲ませてくれたと聞いた」
「い、いえ。あの状況なら誰だってそうします。普通のことですから気になさらないでください」
そう言ってすました顔をするのだが、他の人間が諦めかけていた時にも彼女だけは俺の生存を諦めなかったと聞いた。
実際、俺の傷口が塞がったのはエクスポーションのお蔭らしく、もし飲ませるのが遅かったら『深く眠る』で保っていた体力回復が間に合わず死んでいた可能性も高そうだ。
「エクスポーションは必ず弁償するから」
後輩にアイテムを使ってもらっておきながら返済しないというのはありえない。
サロメさん経由で入手してお返しをしなければ。
ふと目の前に立つ人たちをみる。
縁あって挨拶するようになり、たまに一緒に飲むようになったユーゴさん、リベロさん、ミナさん。
休日も一緒に過ごす気の合う友人でもあるオリーブさん。
常に俺のサポートをしてくれていたサロメさん。
付き合いこそ短いが、俺のために必死になってくれた後輩のガーネット。
気が付けば、俺の周りにはこれだけの人が集まっていた。
「皆、ありがとうございます」
俺は改めてお礼を言う。
「なんだよ……水臭え。俺たちは仲間だろ?」
「ティムにはまだまだ悪い遊びを教えてやらないとな」
「本当に、もう。心配したんだからね」
ユーゴさんとリベロさん、ミナさんがそう言う。
「心臓が止まるかと思いました」
「こいつ、泣きながらティムに治癒魔法掛けてたんだぜ」
リベロさんがからかうような口調でオリーブさんの行動を教えてくれる。
「もうっ、仕方ないじゃないですかっ!」
俺は顔を赤くするオリーブさんをつい目で追ってしまうのだった。
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