第46話 ダンジョン五層

「それにしてもバッサリ断りましたねぇ」


 翌日、サロメさんは顔みせるなりそう言って呆れてみせた。


「本当はそこまで言うつもりはなかったんですけどね……」


 グロリア一人ならなるべく傷つけないように言葉を選ぶこともできた。


 だが、そうすると他の冒険者たちは、自分たちがいかに都合の良いことを述べているのか気付かず、彼女の誘いを断ったあとで勧誘を続けただろう。


「それにしてもどうするんですか?」


 サロメさんはジト目で俺を見てくる。


「どう……とは?」


「ダンジョンの五層のボス部屋はパーティーじゃないと入れないって言ったじゃないですか。あんな宣言しちゃったら簡単にパーティーなんて組めませんよ?」


 あんな宣言をした後であっさりと他の冒険者とパーティーを組んでしまったら悪評が立つのは流石に理解している。


「そもそも、先輩冒険者や同期と組むのはちょっとな……」


 サロメさんの指摘はもっともなのだが、やはり心の整理がつかないでいる。


「私としては無理にと言うつもりはありません、あのスキルを考えると慎重になるべきでしょうから」


 彼女だけが俺の秘密を知っている。

 今回のウォルターたちとの冒険もそうだが、下手な相手と組んだ場合、秘密の露見を恐れて力をセーブしなければならなくなる。


 そうすると誰の得にもならないと理解しているのだろう。


「まあいいです、五層を突破するための方法は私の方で探しておきますから」


「よろしくお願いします」


 サロメさんはじろりと視線を向けてきた。口では文句を言うが彼女に任せておけば問題ない。


「……ところで今日はお休みされるんですか?」


「いや、少しだけダンジョンに潜ろうかと思っていますけど……」


 道中あまりモンスターと戦わなかったので少し身体を動かしておきたいと思ったのだが……。


「……いいですけど、あまり無茶はしないでくださいね。レッサードラゴンを倒したなら問題ないと思いますが、旅の疲れも残っているでしょう?」


「ええ、今日のところはちょっと潜る程度にしておきますから」


 心配した様子で見つめられたので、安心させようと言葉がでた。


「ならいいです。今日は夕方までに仕事終わらせますから、あとで飲みに行きませんか?」


 二週間ぶりに会ったのでお互いに積る話もある。そう考えた俺は提案を受けることにした。


「わかりました」


 俺はサロメさんとの飲みを楽しみにしつつ軽く狩りに向かうのだった。




「とりあえず、今日は五層のお試しってことでいいかな?」


 四層まではウォルターとの勝負前に散々籠っている。

 往復の間に討伐したモンスターとレッサードラゴンのお蔭で全体的に底上げがされているので、今の俺ならば五層でも問題なく立ち回れると判断した。


「ドロップボックスも欲しいから職業はこのまま商人を継続させるとするか」


 オークやリザードマンとも戦えたので構わないだろう。


 しばらく歩きながらダンジョンの様子を探る。五層はこれまでの層に比べると道の幅が広くて天井が高い。


 少し先に進むと部屋があり、そこにモンスターが溜まっていたようで一斉にこちらを見た。


「事前に話に聞いていた通りだな……」


 この層は大きめの通路とその先にある広いフロアがほとんどで、フロアにはモンスターが最低で数匹、多ければ十数匹湧いていることもある。


 五層にあまり人がいないときは放置されているらしく、たまに酷い数を同時に相手にしなければならないことがあるので注意が必要だ。


「初見のモンスターもいるから、ひとまずは突っ込みすぎないように立ち回るとするか……」


 俺が入ったフロアにいたモンスターの数は8匹だ。

 編成としては『戦士コボルト』『戦士ゴブリン』『コボルトアーチャー』『ゴブリンメイジ』『コボルトウォーリア』が1匹『ゴブリンタンク』が2匹いて、一番後ろには一際身体の大きな『ホブゴブリン』が立っている。


 『ゴブリンタンク』は身体よりも大きな盾を持っており、ホブゴブリンの前に立ちはだかると遠距離攻撃を警戒していた。


「……あれがこのフロアの中ボスか」


 五層に湧くモンスターの中には他のモンスターに指示を出す奴がいる。

 全体を統括して逃げられないようにしつつそいつも攻撃に参加してくるので、連携をとられると厄介な上、倒すのに多大な労力が必要となる。


 ウォルターとの対決前に入らなかったのは、実力が足りていない場合、数の暴力で圧殺されることがあり得たからだ。


 あの時の俺では各項目の数字も心もとなかったので、今目の前にいる編成で来られたら無事に帰れたかわからない。


「五層を攻略するコツは敵に回復する間を与えない……だっけかな?」


 ちまちまと戦っていたらその間にゴブリンメイジが回復魔法を使うらしいので、いつまでたっても数を減らせないから注意するように。サロメさんの攻略手引きに書かれていた。


「ひとまず『魔力集中』はやってる暇はないな……」


 ホブゴブリンが叫ぶと奴らは一斉に攻撃態勢に入っている。

 遠距離攻撃はコボルトアーチャーとゴブリンメイジしかいないはずだが、四層の時より強くなっているのは間違いない。


 ここで先手を許してしまうと相手に主導権を握られてしまう。


「『ファイアバースト』」


 スキルレベルが8まで上がったうえ、威力が倍になった攻撃魔法がモンスターの集まっている場所へと向かう。


 —―ドゴオオオオオオオオオオオオンッ――


 俺が放った魔法は奴らの中心で爆発すると衝撃でフロアを揺らした。


「ひえっ! フロアが広くて良かった……」


 戻ってくるだけだったので、道中使うタイミングがなかったのだが、大量のスキルポイントを消費しただけはある。

 『魔力集中』していないにも関わらずかなりの威力だ。


「さて、どれだけ残ったか……?」


 煙がはれるとモンスターが姿を現す。


『ゴブウウウウウウウウウ』


 生き残っているのはホブゴブリン・ゴブリンタンク2匹・ゴブリンメイジだ。



『ゴブウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ』


 ダメージが浅いのかホブゴブリンが向かってくる。ゴブリンメイジを倒すためにはこいつを倒してからゴブリンタンクもどうにかする必要がある。


「まともに相手をしてもらえると思うなよ?」


 俺は取り出した『スピードアップ』のスクロールを使用する、そしてホブゴブリンをギリギリまで引き付けると、敏捷度の差を利用して位置関係を入れ替えた。


『ゴブウウウウウウウウウウッ!!』


 入れ替えたとはいえ無理をしたため、俺はホブゴブリンの足元にいる。

 ホブゴブリンはチャンスと思ったのか笑みを浮かべると重そうな大剣を横に振った。


「くらうかっ! 『後方回避』」


 飛びのくと同時に地面を転がる。少しだけ見誤って間合いが近かった分回避に焦ったからだ。


「『アイスウォール』」


『ゴブウウウウウウウウウウウウウウウウ!』


 氷の壁によってホブゴブリンを遮る。もっとも、広いフロアなので回り込まれるのだが、この隙で十分だ。


 俺はダッシュでゴブリンタンクへと接近する。


「『ファイアアロー』」


『『ゴブブブッ』』


 盾で阻もうとして火の矢を受け止めて焦っている。


『ゴブウッ!?』


 その間を抜けてゴブリンメイジに到達した俺は……。


「悪いが先に倒させてもらう」


 ゴブリンメイジをショートソードで斬り捨てた。


「後は……順番にだな」


 続いてゴブリンタンクを1匹始末したタイミングでホブゴブリンが追い付いてきたが、攻撃力のないゴブリンタンクは脅威ではない。


 敏捷度を生かして間に入れることで逆に盾として利用しつつ『アイスアロー』などの魔法で応戦した。


『ゴブッ……』


 若干時間はかかったが、一撃ももらうことなくホブゴブリンは崩れ落ちた。


「ふぅ、これだけ立て続けに魔法を使うと流石に疲れる」


 ゴブリンタンクを倒すと、俺は一息吐くのだった。

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