第36話 オークと遭遇

「逃げずに来るとはいい度胸だな」


 二日あった休日をミナさんとオリーブさんと過ごした俺は、気分よく冒険者ギルドを訪れたのだが……。


「度胸も何も、一緒に依頼を受けるだけだろう?」


 ウォルターとレッドの顔を見た瞬間テンションが下がった。


「言っておくけどよぉ。俺らの仕事の邪魔するんじゃねえぞ?」


 眉間に皺をよせ、俺を睨みつけてくるレッド。こいつはいつもこうして他人を威嚇してから話しかけてくるのだ。


「今日からしばらくの間、よろしく頼む」


 勝負とはいえ、同じ依頼を受ける仲間だ。最初からいがみ合っていてはもたないと思った俺はレッドを無視すると皆に挨拶をした。


「その急成長っぷりをあてにしてるから……」


「うんっ! よろしくね、ティム君」


 マロンは相変わらずの態度だが、グロリアは嬉しそうに返事をする。


「そんじゃ、早速出発するぞ」


 ウォルターがそう言うと俺たちは動き出すのだった。




「はぁ、移動だっる。馬車とか借りられないわけ?」


 依頼先まで徒歩で移動を開始して数時間が経過した。

 これまで順調に進んでいた俺たちだったが、マロンが気だるそうな声を上げた。


「馬車を借りるほどじゃねえだろ、依頼料を5人で分けたら残んなくなるしよ」


「だったらよぉ。一番役に立たなかった奴の報酬をなしにして借りればよかったんじゃね?」


 ウォルターとレッドが俺を見る。


「そういうこと言わないのっ! 同じ依頼を受ける仲間じゃない!」


 二人の言葉をグロリアが咎めた。


「そうね、そう言うことならこの前、罠の解除をミスってモンスターを誘発したレッドの報酬も山分けにしていいんでしょ?」


「抜かせっ! そっちこそ、魔法を誤射したせいで俺の頭を焦がしたことは忘れねえぞ」


 道中この調子だ、俺がためいきを吐いていると、


「ごめんねティム君。普段はもう少し静かなんだけど……」


 グロリアがこそこそと寄ってきて耳元で囁いた。


「別に、仕事さえちゃんとやれば構わないんじゃないか?」


 冒険者は結果がすべてだ。


 気を抜いているように見える四人だが、ウォルターもレッドも周囲の警戒を怠っている様子はなく、マロンも悪態を吐いてはいるがいつでも魔法を放てるように杖を構えている。


 やはり、たった一年でBランク冒険者に上り詰めたのは伊達ではないようだ。


「お前ら、ふざけてんのはそこまでだ」


 俺が剣を抜くと同時にウォルターがそう言った。


「あん? 一体何を……」


 レッドが言いかけて言葉を止める。


「モンスターね」


 俺たちの前にモンスターが現れた。



「レッドは俺の援護、グロリアは支援魔法、マロンは魔法をばらまいて妨害しろ」


 目の前には十数匹に及ぶオークの群れがいた。


 ゴブリンやコボルトなどとは違い、はち切れんばかりの筋肉に急所を防具で固めている。

 これまで俺はダンジョンの浅い層で戦士コボルトや戦士ゴブリンなどとしか戦闘経験がない。

 目の前にいるオークに上位種はいないが、それでもダンジョンで俺が戦ったモンスターより強いことは間違いない。


「ウォルター、俺はどうすればいい?」


 名前を呼ばれなかったのでこちらから確認する。一応今回の依頼のリーダーはウォルターなので勝手な行動をせず顔を立てるつもりだった。


「てめぇの世話をしている暇はねえ、勝手に動け」


 ところが、ウォルターは俺に何かをさせるつもりはないらしい。

 それはそれで好都合、好きにさせてもらうとしよう。


 ウォルターが中央から、レッドが右側からオークの群れに突撃するのを見た俺は、左側から攻めることにした。


「はっ! 俺らに対抗するつもりかっ!」


 その動きを見たレッドが早速軽口を叩いてくる。


「支援しますっ! 『パワーアップ』『スタミナアップ』」


 グロリアから支援魔法が飛んできた。『スピードアップ』を掛けなかったのは、俺が支援魔法に慣れていないと踏んでバランスを崩させないためだろう。


「助かるっ!」


 俺は短い言葉でグロリアに礼を言う。


「左側は任せろっ!」


 奴らのお手並みを拝見するチャンスだ。

 初めて戦闘するモンスターだけに緊張があった。


 少数のオークを相手にすればよい今が慣れるチャンスなので、俺は慎重に動くことを決めた。


『ブフゥーーーーーーーー!』


 鼻息を荒くし、オークが俺に向かってくる。

 オークの脅威は何よりそのパワーだ。生半可な鍛え方だとパワー負けして押し込まれてしまう。


 前衛が崩れるようでは後衛も安心して魔法を唱えることはできない。


「はっ!」


 俺は振り下ろしてくるオークの剣を横から弾いて起動をずらしてやる。

 斥候並みの敏捷度と器用さがあればこのくらいの芸当はお手のものだ。


 俺はバランスを崩したオークに斬りつける。斬りつけられたオークはたたらを踏み、後ろへと下がった。


『ブウウゥーーーー!』


 前にいたオークが下がったことでその後ろに控えていた4匹のオークも動きを止める。後ろで魔法の準備ができている気配を感じた俺が射線を譲ると……。


「ナイスよっ! 『ファイアバースト』」


 マロンが魔法を放ったので、俺はその場を離れる。

 魔法が俺が対峙していたオーク5匹に当たり爆発した。


『ブブブゥーーー!?』


 これまで見た中で一番の破壊力だったのだが、オークはまだ健在だった。


「もう一発撃つからっ! そのまま抑えてっ!」


 マロンからの指示が飛んでくるが、


「『ファイアアロー』」


「「「「なっ!」」」」


 態勢を崩した今、待つという選択肢は俺にはない。

 俺が放った『ファイアアロー』を受けたオーク5匹は魔法を受けて倒れた。


「そっちの援護をするっ!」


 自分の受け持ちを片付けた俺はウォルターを援護しようとするのだが……。


「こっちは必要ねえっ!」


 流石と言うべきか、短時間でオーク数匹を剣で倒していた。


 俺はオークの背を回り込むとレッドの援護を開始した。


「レッド、とっとと片付けろっ!」


「ちっ! てめえら雑魚はどいてろっ!」


 苛立ちながらオークの相手をするレッド。形勢は完全にこちらに傾いていたので、ほどなくしてモンスターは全滅した。





「流石オーク、経験値がこれまでとは比べ物にならないな」


 戦闘が終わり、俺がステータスを見るとレベルが上がっていた。


 名 前:ティム

 年 齢:16

 職 業:戦士レベル26

 筋 力:264+52(+70)

 敏捷度:281

 体 力:327+52(+70)

 魔 力:224

 精神力:202

 器用さ:246

 運  :446

 ステータスポイント:294

 スキルポイント:85

 取得ユニークスキル:『ステータス操作』

 取得スキル:『剣術レベル6』『バッシュレベル6』『ヒーリングレベル6』『取得スキルポイント増加レベル5』『取得ステータスポイント増加レベル5』『取得経験値増加レベル5』『ライト』『罠感知レベル5』『罠解除レベル5』『後方回避レベル5』『アイテム鑑定レベル6』『短剣術レベル5』『ファイアアローレベル6』『アイスアローレベル6』『ウインドアローレベル6』『ロックシュートレベル6』『瞑想レベル6』『ウォールレベル6』『バーストレベル6』『魔力集中レベル6』『祝福レベル6』『キュアレベル6』『ハイヒーリングレベル6』『セイフティーウォールレベル6』『スピードアップレベル6』『スタミナアップレベル6』『アイテムドロップ率増加レベル5』『アイテムボックスレベル4』


 ダンジョンでの狩りに慣れ、緩やかにしかレベルが上がっていなかったが、強いモンスターを倒せばあっさりと上がる余地がまだあるらしい。


 このまま行けば、依頼中に結構レベルが上がるのではないだろうか?

 ある程度のモンスターを引き受けてもらえるというのはありがたい。せっかくの機会なのでウォルターたちを利用させてもらおうと考えていると……。


「ちょ、ちょっと……。あんた今の何なわけ?」


 マロンが聞いてきた。


「ティム君、剣を使ってたよね? えっ? ファイアアロー?」


 グロリアも混乱している。


「これだよ」


 俺は『ファイアアロー』のスクロールを取り出して見せる。


「ソロ冒険者だからな。色々なスクロールを揃えて備えているんだよ」


 アップ系も含めてウォルターたちに見せつけてやる。こうしておけば俺が魔法を使ってもおかしくはない。

 手札を見せるたびにいちいち勘繰られるのは面倒なので用意しておいたのだ。


「それにしたって威力が……」


 魔力が低い者が使っても威力は低い。マロンはそのことに気付いたようだが……。


「マロンの魔法で死に掛けていただけだろっ! たまたまトドメを刺したくらいでいい気になるんじゃねえぞ」


 珍しくレッドの悪態が役に立った。


「討伐部位を取ったら先に進むぞ」


 ウォルターはそう言うと会話を打ち切った。

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