第35話 勝負方法
「ふぁ……ゆっくり寝た」
俺はベッドから身体を起こすと腕を伸ばした。
今日は休みなので、気が抜けたのかぐっすりと眠りに落ちていたようだ。
ダンジョンに潜っていて、知らず知らずの間に疲労がたまっていたのだろう。サロメさんの言うように休暇を取ったあとの冒険は身体の動きの切れが違う。
この2日の休暇で万全に戻せればと俺は考えていた。なにせ休み明けには……。
「ウォルターとの勝負がある」
今から一月前、あいつらは俺の努力をあざ笑った。
ウォルターはいつもの冷たい目で、レッドは見下すように。
勝負の方法については既にレッドから知らされている。
「今回の勝負は今までにないモンスターとも戦う可能性がある」
ウォルターたちはBランク冒険者だ、決して一筋縄ではいかないだろう。俺は拳を握りしめるとステータス画面を見る。
名 前:ティム
年 齢:16
職 業:戦士レベル25
筋 力:261+50
敏捷度:279
体 力:325+50
魔 力:224
精神力:202
器用さ:246
運 :446
ステータスポイント:284
スキルポイント:78
取得ユニークスキル:『ステータス操作』
取得スキル:『剣術レベル6』『バッシュレベル6』『ヒーリングレベル6』『取得スキルポイント増加レベル5』『取得ステータスポイント増加レベル5』『取得経験値増加レベル5』『ライト』『罠感知レベル5』『罠解除レベル5』『後方回避レベル5』『アイテム鑑定レベル6』『短剣術レベル5』『ファイアアローレベル6』『アイスアローレベル6』『ウインドアローレベル6』『ロックシュートレベル6』『瞑想レベル6』『ウォールレベル6』『バーストレベル6』『魔力集中レベル6』『祝福レベル6』『キュアレベル6』『ハイヒーリングレベル6』『セイフティーウォールレベル6』『スピードアップレベル6』『スタミナアップレベル6』『アイテムドロップ率増加レベル5』『アイテムボックスレベル4』
「だけど、俺だって遊んでいたわけじゃない」
この一ヶ月の間、毎日ダンジョンに籠って必死に狩りをしてきたのだ。その成果はステータスにも表れている。
「あいつらがあんな勝負方法を提案してきた理由はわかっているが……」
目の前で俺に絶望感を植え付けるつもりなのだろう。
「そう簡単に思い通りになると思うなよ?」
俺は決意をするとステータス画面を消した。
「あっ、おはよう、ティム君」
「お、おはようございます、ティムさん」
食事を摂りに宿の食堂に降りるとミナさんとオリーブさんがいて、軽食をつまんでテーブルを囲っていた。
「奇遇ですね、俺この宿に泊まっているんですよ」
ミナさんに手招きされたのでそのまま席に着く。俺は給仕の娘に朝食を注文した。
「うんうん、偶然だね」
テーブルに肘を乗せてニコニコと笑って見せる。その視線はオリーブさんへと向いていた。
「ミ、ミナっ!」
彼女の様子を観察する。
「その服、この前買ったやつですか?」
「へぇ、ちゃんと気付くなんて中々ポイント高いわよ?」
「買い物の時見ていて似合っていたので覚えていたんですよ」
「に、にあっ……!」
何故か顔を赤くして慌てるオリーブさん。その姿は年上とは思えないほどに可愛らしかった。
ひとまず俺は給仕が持ってきた食事を摂ることにする。
「それで、二人はどうしてここに?」
俺が改めて質問をするとオリーブさんが答えた。
「ティムさんがDランクに昇格したと聞いたもので。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
お祝いの言葉を投げかけられて頭を下げる俺とオリーブさん。傍から見ると何をしているのかと思われそうだ。
「おめでとう、ティム君」
「ミナさんもありがとうございます」
サロメさんから聞いてわざわざ訪ねてきてくれたのだろうか?
「もしかしてそれを言うために訪ねてきてくれたんですか?」
俺が疑問を口にすると、
「Dランクになると街のいたるところで優遇が受けられるんですよ。もし良かったらティムさんに案内して差し上げようかと思ったんですけど……」
最後の方は言葉が小さくて聞き取れない。
「私たちも休みだからね、有望な後輩のために街を案内してあげようかと思ってね」
「……その代わりまた荷物持ちさせたりしないです?」
俺の突っ込みにミナさんが顔を逸らした。
これで謎が解けた、先週に続いて俺を男避けに使うつもりなのだろう。
「ど、どうでしょうか?」
オリーブさんが真剣な顔で見てくる。
とはいえ、案内するという言葉も本心なのだろう。
部屋に一人引きこもっていても勝負のことを考えてしまい落ち着かなさそうだ。俺はそう考えると……。
「二人さえ良ければ是非お願いします」
「ま、任せてください」
俺の返事にオリーブさんは胸を張るとそう言うのだった。
★
「ウォルター君、考え直してもらえませんか?」
一方その頃、冒険者ギルド内ではテーブルを囲んで四人の人間が話し合いをしていた。
「考え直すって何をだよ?」
「ティム君との勝負です。こんなことをしても何もならないじゃないですか!」
いよいよ勝負の時が迫ってきた中でグロリアはこの勝負の無意味さを説いていた。
「最近の彼の噂を知っていますか? わずか一ヶ月でDランクまで昇格しています。彼が努力をした証拠はこれで十分じゃないですか!」
ソロでダンジョンに潜っているティムが専属サポートを受けてDランクに昇格した話はウォルターも小耳に挟んでいる。
「そんなのコネに決まってるだろっ! あんな美人職員が専属だぁ? どうやって誑し込んだんだあの野郎?」
レッドは口汚くティムを罵る。
「私としては変にいがみ合うのが面倒なだけだから」
マロンはどちらでも良いというスタンスで問いかける。
「いや、俺は考えを変えるつもりはねえ」
あのティムがたった一ヶ月で成長したと言われても信じられなかった。
「じゃ、じゃあ……」
グロリアは眉根をしかめるとウォルターの言葉の続きを待った。
「あいつには俺たちが請ける依頼に参加してもらう。そこで冒険者の厳しさを思い知らせてやる」
ウォルターはそう呟くと依頼書へと視線を向ける。その依頼書にはこう書かれてあった――
『レッサードラゴン群討伐依頼』
――と。
★
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