第34話 Dランク冒険者に昇格

「……これで今日3つ目のインゴットか」


 まだ100匹しか狩りをしていないにもかかわらず、既に3つのインゴットと2つのスクロールが出現していた。


 先日『アイテムドロップ率増加』のスキルをレベル5まで上げた効果に違いないのだが、これまでのドロップ率から考えると効率が圧倒的過ぎる。


 昨晩だってサロメさんにインゴットを渡したところ大層驚かれたくらいなのだ。

 今日も同じペースで狩れば数倍はドロップすることになるので、そろそろ不審がられる気がする。


「そうこうしている間にちょうど斥候が25まで上がったな」


 考えていたよりも早く到達することができた。まだ二日目の早い時間なのだ。


 全体的なステータスが底上げされているからだろうか?

 これまでは魔法で壁を張り、相手の動きに対応しながら四層のモンスターを倒してきた。

 だが、敏捷度が200を超えたあたりからまるで世界が変わったかのように感じるようになった。


 相手の動作が遅く、矢の攻撃も簡単に見切れる。


 身体が軽いので素早く動くことができ、武器が軽いので楽に振り回すことができる。


 戦士ゴブリンと戦士コボルトの攻撃をあっさりと受け止め、返す剣の一撃で斬り倒す。

 当然、前衛があっさりと瓦解してしまうので後衛はなすすべもない。

 逃げようとはするのだが、俺の方が動きが速いのであっという間に追いつき背中に一撃を見舞うことになる。


 圧倒的なステータスの前には連携が意味をなさないと思い知らされた瞬間でもあった。


「これなら戦士もギリギリ間に合うかな?」


 当初の予定だと転職できる職業すべてレベル25まで上げるつもりだった。

 途中、ドロップボックスのアイテムが出たため狩りの効率が落ちたが、それもアイテムボックスのスキルを取得することで、これまで以上にダンジョン探索が楽になっていた。


 その前に斥候のスキルを確認する。

 今回のレベルアップで『暗器術』『魔法罠感知』『罠設置』『バックスタブ』のスキルが取得可能になったようだ。


 スキルポイントを見てみると43しか残っていない。『アイテムボックス』と『アイテムドロップ率増加』に費やしたせいだ。


「ひとまず、斥候のスキルはまだとらなくてもよさそうだな」


 罠に関しても今潜っている層ならば十分対応できるし、攻撃系のスキルにしたって集団戦の際に紛れて攻撃するスキルなので必要ない。


 俺は戦士に転職する。


「うっ、身体が重くなったきがする」


 斥候による職業補正は『敏捷度』『体力』『器用さ』なのだが、戦士は『筋力』『体力』だ。


 レベル25だと『敏捷度』の補正が50もある。これはスピードアップで得られる補正とあまり変わらないので、職業を切り替えることで支援が切れた時と同じ現象が起きたのだろう。


「狩りの効率は落ちそうだが仕方ないか」


 俺は気持ちを切り替えると狩りを続けるのだった。





「あっ、お帰りなさいティムさん」


 ダンジョンから戻るとサロメさんが笑顔で迎えてくれる。

 最近はいつもこう言ってくれるので、この言葉を聞くと帰ってきた実感が沸き、気が緩む。


「それで……今日の収集品は……?」


 サロメさんが恐る恐る俺に視線を向けてきた。


「今日も倉庫でお願いします」


「あっ、はい」


 俺たちは倉庫へと向かった。




「これが今日の成果です」


 床にはインゴットと魔石が大量に積み上がっている。


「い、いつもより滅茶苦茶多いじゃないですかっ⁉」


 スキルレベルを上げたお蔭でインゴットの数がえげつないことになっていた。


 『アイテムドロップ率増加』の効果が凄く、前日の数倍のドロップをしたからだ。


 サロメさんは俺に顔を近づけると、


「それにしても、本当にアイテムボックスって凄いじゃないですか」


 そう耳元で囁く。


 目の前にはアイテムボックスが開いた状態になっている。


 アイテムを買い取ってもらう関係上、俺は彼女だけにはこのスキルについて説明をしておいた。


 周囲はカーテンに仕切られているので外部から盗み見られることはなく、彼女が小声で話すのもこの秘密を誰にも漏らさないためだ。


 サロメさんは「ティムさんが情報公開するまではギルドマスターにも言いません」と言ってくれていたが、この慎重さを考えると本気のようだ。


「やっぱり、初出のユニークスキルですかね?」


「私が調べたところ、情報はありませんでしたね」


 スキルを明かすついでに、この『アイテムボックス』を使える人間が過去に存在したか調べてもらったのだが、今のところ有力な情報はないらしい。


 それだけに、俺がこの情報を公開したら多くの注目を集めることになるだろう。


 彼女がアイテムボックスに手を伸ばす。だが、触れようとしたところですり抜けてしまった。


「やっぱり私には触れることができないみたいですね……」


 どうやら、アイテムボックスに出し入れできるのはスキルの持ち主だけらしく、開けさせて中の荷物を強奪することはできないようだ。


 そのことに安心していると……。


「今回の買い取りで、ティムさんはDランクに昇格します」


 サロメさんがそう言った。


「えっ? この前Eランクになったばかりじゃあ?」


 あれから、そう経っていないのに昇格と言われて驚いた。


「最近のティムさんが冒険者ギルドに落としている利益を考えれば当然です」


 ギルドランクの昇格には依頼達成のほかに貢献度というものがあるとサロメさんが説明してくれた。


 俺はここ最近、不足しているインゴットを持ち込んだり、大量の魔石を納めていたので、いつの間にかDランク冒険者と同等以上の貢献をしていたらしい。


「ちなみにDランクからは買い取り査定額が5%アップします。本来なら今回は対象外になるんですけど、私の方できっちり計算して貢献度が越えた瞬間にランクアップしたということで買い取り金額に乗せておきますね」


「いいんですか、そんなことして?」


 話を聞く限り、黙って買い取り査定をしてしまえばそれで済むはず。ギルド職員なのだから冒険者ギルドの利益を優先すべきではないだろうか?


「いいんです、ギルドマスターからもティムさんを最優先と言われてますし。それに……」


「それに?」


 俺が聞き返すと、サロメさんは俺に笑顔を見せてくると、


「それに、私を信用してアイテムボックスを見せてくれたティムさんに誠意を示しただけですから」


 そう言葉にするのだった。

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