第27話 『アップ』の効果

「さて、今日は二層で狩りをするか……」


 翌日、俺は一度狩場を二層まで戻していた。それというのは……。


「新しく手に入れたスキル『スピードアップ』に慣れないといけないからな」


 サロメさんに用意してもらった資料でスキルについての説明を読んだ際、バフ効果がある『アップ』について書かれていた。


 これは支援魔法を掛けることでそれぞれの項目を上乗せしてくれるものなのだが、スキルレベルが高くなると支援の効果が高まるので体感が結構変わるらしいのだ。


 今回『スピードアップ』と『スタミナアップ』のスキルを得た俺は、戦闘スタイルをここらで武器主体に戻そうと考えている。


 そのために筋力を優先して200まで上げておいたのだ。


「魔法での戦闘に慣れ過ぎてて最近は武器を使ってなかったからな、ウォルターとの勝負で武器を使う可能性が高いし鍛えておかないと」


 俺はショートソードを抜くと支援魔法を自分に掛ける。


「【スピードアップ】【スタミナアップ】」


 筋 力:200

 敏捷度:105(+60)

 体 力:116(+60)

 魔 力:224

 精神力:202

 器用さ:171

 運  :200+10


 ステータス画面を開いていると数字の横に(+60)と表示された。

 これが恐らく支援効果なのだろう。


「敏捷度だけでもかなり上がってるな、この変化は確かに慣れる必要があるか……」


 ステータスを急激に振った時とは違う感触だ。自分の身体に馴染むというよりは何やら浮ついている感じで落ち着かない。


「『支援魔法は使う人間次第で効果の差があり接続時間も変わります』」


 説明に書いてあった文を思い出し言葉にする。

 恐らくはスキルレベルのことを指しているのだろうが、レベルが1上がることに+10されると考えるとスキルレベルが高い人間ほど優秀な支援を掛けられるということになる。


 今の俺でもオリーブさんよりは効果が高いらしい。


「早速、コボルトを倒して周るかな」


 俺は効果を体感するため二層を周回しはじめた。





「っと! 急にガクンときたな……」


 あれからどれだけの時間が経ったのだろうか? 夢中になって狩りをしていたのだが、コボルトと戦っている最中に急に速度が遅くなった。


「確かにこれは慣れが必要だな」


 相手が格下のモンスターだから良かったが、支援魔法込みで同格の相手と戦っていた場合、敵は俺の動きが落ちた瞬間を見逃さないだろう。


「使うとしたら支援がどのくらいで切れるか把握しておく必要があるな」


 支援をかける時に時間を計りたいので、サロメさんに頼んで懐中時計でも買うことにする。


「それで慣れてきてから三層に降りるとするか……」


 今は確実に一つずつ積み重ねていくべきだろう。俺は気を引き締めると一度ダンジョンを出るのだった。




「はい? 懐中時計ですか?」


「ええ、手に入りませんかね?」


 早速冒険者ギルドに戻った俺はサロメさんに頼んでみる。


「勿論手に入りますが、そんなもの何に使うんですか?」


 どうやら問題なく手に入るようだが、用途が気になったようだ。


「ダンジョン内って時間の感覚が狂うじゃないですか、そのために持っておこうかと思って」


 俺が支援魔法を使えることはまだ内緒にしておいた方が良いだろう。

 彼女を信頼していないわけではないが、短期間に次々とスキルを得ているのは目立つだろうし、ウォルターとの勝負までできるだけ手の内を見せたくなかったからだ。


「わかりました。そういうことでしたら明日までお待ちください。用意しておきますので」


 急なお願いだったのでもっとかかるかと思ったが流石はサロメさんだ。俺はお礼を言い、まだ時間もあるのでダンジョンに戻ろうと考えていると……。


「ティムさんお待ちください」


「はい?」


 サロメさんが呼び止めてきた。


「まさか、またダンジョンに戻られるつもりじゃないですよね?」


「……そのつもりですけど?」


 サロメさんは険しい視線を俺に向けてくる。彼女は真剣な表情で俺に何かを言おうとしていた。


「ティムさん御存知ですか?」


「……何をですか?」


 いつにない声に俺は喉をゴクリと鳴らす。


「かれこれ二週間。ずっとダンジョンに潜りっぱなしだということに」


「!?」


「いいですか、ティムさん。熟練の冒険者でも週に二日は休みをとるものなんですよ?」


 指をピッと立てたサロメさんは俺に言い聞かせるようにそう告げる。


「いや、でも……。そんなに強いモンスターと戦わなければ……」


 レベルが上がり、新しいことがどんどんできるようになっていくのが楽しくてついつい休みを取るのを忘れていたのを思い出す。


 安全な階層ならばよいのではないかと思い口にするのだが……。


「駄目です。そう言って無茶をして戻ってこなかった人もいるんですよ?」


 彼女自身が体験した話のようで、少し悲しそうに俺を見た。


「わかりました。今日のところは休みますから」


 彼女は俺をサポートしてくれている存在だ。

 俺のためを思って言ってくれている以上、無碍にできない。


「わかってくれればいいんですよ」


 サロメさんの笑顔に見送られながら、俺はギルドをあとにするのだった。





「それにしても暇になったな……」


 ギルドを出て街を歩いている。目的もなく歩き始めてしまったがこのままでは数分もすれば宿に着いてしまうだろう。


「そもそも休暇っていってもなぁ……」


 スキルを得るまでは本気で余裕がなかったので、俺にとっての休暇は安宿のベッドで一日寝て過ごすことだったのだが……。


「今はそんなに疲れてないんだよなぁ」


 今日はほとんど狩りをしていなかったのもあるが、ステータスが上がってからあまり疲れなくなったのだ。


「適当に街をぶらぶらするか……」


 そんなことを考えていると、


「あら、ティム君じゃない?」


「本当だ、こんなところで奇遇ですね」


 ミナさんとオリーブさんに話し掛けられた。


「こんにちは。お二人は今日は休みですか?」


「うん、ユーゴとリベロが装備を修理に出してるからね。二日間休みなの」


「ティムさんは?」


 オリーブさんが不思議そうな顔で俺を観察する。

 昼時にこんなところをうろついているからだろう。


 俺はギルドでサロメさんに休むように言われたたことをそのまま伝えた。


「てことはティム君も休みなんだ?」


 面白いことを思いついたようにミナさんが笑った。


「だったらティムさん、私たち一緒に遊びませんか?」


 胸に手をやりオリーブさんがそんな誘いをしてくる。


「いや、俺は……」


 ただでさえ、どう時間を潰してよいのかわからなかったのに、一緒に遊ぶとなるとハードルが高すぎる。俺は断ろうと考えたのだが……。


「まてよ……?」


 彼女たちは僧侶と魔道士の魔法を持っている。話をすれば何か情報を聞くことができるのではないだろうか?


「勿論無理にとは言わないけど、女二人で歩いていると声掛けられちゃって、落ち着けないのよ」


 ミナさんの困った顔とオリーブさんの苦笑いが目に映る。

 確かにこの二人が歩いてたら男なら声を掛けずにいられないだろう。


「俺で良かったら付き合いますよ」


 宿に帰るよりは良さそうなので、俺は二人についていくことにした。

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