第25話 僧侶に転職

「ふぅ、そろそろ慣れてきたから職業変えてみるか……」


 四層に籠もること丸一日。俺は狩りの仕方を確立することに成功した。

 まず【アイスウォール】を出して次は【ファイアーバースト】を前衛に当てる。すると衝撃で吹き飛ばされて前が完全に開けるのでそのまま後衛に【ファイアーバースト】を打ち込んで倒してしまう。

 後は治癒を受けられなくなった前衛を順番に【ファイアアロー】で仕留める。


 強力な魔法の存在により、面白い様にモンスターを狩れるようになった。

 お蔭で魔道士レベルが27まで上がったのだが、このまま上がり辛い職業を続けるよりは他の職業のレベルを上げた方がステータスの底上げになると判断したのだ。


 そんなわけで、良い流れを断ち切らないようにしつつ転職先を考えた結果……。


 名 前:ティム

 年 齢:16

 職 業:僧侶レベル1

 筋 力:119

 敏捷度:102

 体 力:102

 魔 力:175+1

 精神力:130+2

 器用さ:122+1

 運  :108

 ステータスポイント:53

 スキルポイント:164

 取得ユニークスキル:『ステータス操作』

 取得スキル:『剣術レベル6』『バッシュレベル6』『ヒーリングレベル5』『取得スキルポイント増加レベル5』『取得ステータスポイント増加レベル5』『取得経験値増加レベル5』『ライト』『罠感知レベル5』『罠解除レベル5』『後方回避レベル5』『アイテム鑑定レベル5』『短剣術レベル5』『ファイアアローレベル6』『アイスアローレベル6』『ウインドアローレベル6』『ロックシュートレベル6』『瞑想レベル6』『ウォールレベル6』『バーストレベル6』『魔力集中レベル6』『祝福レベル5』『キュアレベル5』


 次に選んだのは同じ魔法職である僧侶にした。

 これならば四層で狩りをするのに必要なステータスをすぐに取り戻すことができるからだ。


 魔法の威力をあまり落とさないようにするため【魔力】に30程振っておいた。


 早速、モンスターを探し回ると直ぐに発見する。

 四層は狩りをする冒険者パーティーが少なく、湧き出すモンスターの数が多い。


 効率よく狩りをできるなら三層以上の討伐数を叩きだすことも可能だろう。


「【アイスウォール】」


 自分の手前に氷の壁を張り、


「【ウインドバースト】」


 風の力で戦士ゴブリンと戦士コボルトを吹き飛ばす。


「やっぱりちょっと威力が落ちてるか……」


 ゴブリンメイジの治癒魔法が飛び、起き上がろうとしてくる。

 感触からして大ダメージを受けているようには見えない。


「だけどまぁ、接近されなければ問題ないか」


 俺はショートソードを構え魔力を高めると次の魔法を用意する。


「【ロックバースト】」


 岩が飛び、前衛に当たると爆発した。



「ゴブブッ!」


「コボボッ!」」


 その一撃で戦士コボルトと戦士ゴブリンは倒された。


「下手に編成が変わらないぶん楽かもしれない」


 確かに威力は落ちているが、どのくらいで倒せるかを感覚として覚えているので相手との間合いが取りやすい。


「とりあえず、持ってきたマナポーションを使い切るまで頑張るか」


 俺はマナポーションを口に含み、魔力を回復させると次の獲物を求めてダンジョンの四層を歩き回るのだった。





「お疲れ様です、ティムさん。だいぶ四層で狩れるようになってきましたね」


 翌日。消耗品を受け取りに冒険者ギルドを訪れると、サロメさんがニコニコしながら話し掛けてきた。


「お陰様で。壁を用意してしまえば遠距離攻撃は防げますからね、接近される前に魔法で倒せればそれほど恐れる相手でもありませんから」


 連携を取ってくるモンスターということは、逆に言えばその連携の崩し方を知っていればそれまでということ。


 同じ動きしかしてこなければ、こちらも同じ動きで対応できてしまうのだ。


「簡単に言いますけど、ソロでの攻略はパーティーでいうなら三層下まで通用する強さなんですよ?」


「そうなんですか?」


「ええ、つまりティムさんの今の実力はパーティーでなら七層で通用するレベルということになりますね」


 昨日も僧侶のレベルが上がったからもっと余裕が生まれている。だが、いくらパーティー単位での話をされたところで俺はソロ。


 五層でも苦戦する可能性があるので素直に喜ぶわけにはいかないのだ。


「昨晩の魔石の買取金額は金貨1枚と銀貨45枚です。そこからポーションにマナポーションなどの消耗品代を引かせて頂きますね」


 提示された金額は銀貨60枚になった。

 休みなく狩りをするためにはマナポーションが必要なのだが、これを飲むと経費がかさむので仕方ない。


「どうしたものか……」


 いまから武器での戦いに戻そうとしてもステータスが魔力に寄っている現状では効率が激減してしまうので不可能だ。


「何かアドバイスが必要ですか?」


 俺の呟きが聞こえたらしく、サロメさんが首を傾げた。


「いえ、赤字になってないならやっぱりいいです」


 短期的に見ると収入減だが、魔法一発で倒せるようになれば状況をひっくり返すこともできるだろう。

 現状、ウォルターに勝つためレベル上げを優先しているのだからこればかりは仕方ないと割り切るしかない。


「そう言えば、赤字で思い出したんですけど……」


「ん、どうかしましたか?」


 俺が聞き返すとサロメさんは口元に手を当てて考え込む。


「ティムさんってすごく一杯魔石持ってくるじゃないですか?」


「ええ、まあ……」


 ほぼ休まずにダンジョンを周回してモンスターを狩っている。運も100を超えたので魔石も普通に落ちるようになったからだ。


「ドロップアイテムとかは自分で貯めこんでいるでしょうか?」


 ダンジョンの魅力の一つはモンスターが吸収された時に現れるドロップボックスだ。

 中にはレアアイテムが入っていることがあり、運が良ければそれ一つで大金を得ることも可能なのだ。


「それが……一つも出なくて」


「本当ですか?」


 疑わし気な視線を向けられるがこればかりは本当なのだ。


「やっぱりあの噂は本当なんですかね?」


「あの噂って?」


 口元に手をあて考え込むサロメさんに俺は問いかける。


「あくまで噂なんですけど、ドロップボックスはパーティーを組まないと出ないというのがあるんです」


「そんな馬鹿な……」


「実際、高ランク冒険者がソロでダンジョンに潜った話もときおり聞くんですけど、その人たちも一人で潜った時にはドロップボックス出していないんですよ」


 サロメさんが言うならその情報は正確なのだろう。

 今度は俺が口元に手をやり考え込む。


 魔石のドロップには運が関係していたことは間違いない。

 そして現在の俺の運はユーゴさん達と比べてもそんなに悪くはない。


 パーティーを組まなければドロップボックスが出ないというのはいささか疑問が浮かぶところだが…………。


「もしかして!?」


「えっ? 何かわかりましたか?」


「いえ、何でもないです」


 俺はサロメさんに手を振って否定するが、頭に浮かんでしまった考えを払しょくできない。

 いまだ納得しない顔をしたサロメさんから背を向けてダンジョンへと向かいながらポツリと呟く。


「もしドロップボックスを落とす条件が考える通りだとしたら……」


 俺は自分の運の数字とステータスポイントを見る。


「ソロで落とすには色々な犠牲が必要になるかもしれない」


 馬鹿けた自分の思い付きを否定したくて乾いた笑みを浮かべるのだった。

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