10

「部長は知らなかったともいますけど毎回期日ギリギリにモリモトさんに息子のお迎えに間に合わないからとかって理由で押し付けられるんですよ。なので最近の帳簿は全部私が作ってました……そう言うことなんで資料出しますからて離してください」



そう銀髪の男の目を見ながら伝えると、チッと舌打ちしながらも手を離してくれる。離された腕はじんじんと痛む。きっとくっきりと手形がついているんじゃないかと思うが、今が暑い季節じゃなくてよかった。暑さを我慢してこの腕を隠すことにならずに済んで少しほっとしながら、私は自分のデスクのパソコンの電源をつけカバンからキーケースを取り出し、そこにつけてあるUSBメモリをパソコンへと接続する。


何でそんなところにと思うかもしれないが、小さなUSBメモリを持ち歩くにはキーケースに付けておくのがカバンのどこにいったか探さなくていいし無くすこともないから安全だと私は思っている。



USB内のフォルダの中から一番新しいものを選択してこれであってるか見てもらおうと振り返ると、いつの間にか気配もなく私の後ろへと来ていた2人が両サイドから私越しに画面を覗いていた。

思わぬ距離にびくりと肩を跳ねさせてしまったが、そんなことはお構いなしと言った様子で黒髪の男がマウスを使って画面に映し出されている内容を確認している。



「ビンゴだわ……で、これはアンタが作ったわけ?」


「そうですけど……何か問題でもありましたか?」


「いや、スゲー見やすくていいわ」



だした資料は男達が探していたものだったらしいが、黒髪の男は何かを考える素振りを見せると画面を指差しながら問いかけてきた。

何か問題でもあっただろうかと内心焦りながら肯定すると、うんうんと何故か満足そうな表情を浮かべる黒髪の男に私の作った資料が褒められた。


一体何なんだろう。考えても仕方ないことだろうけどすごく気になる。が、そんなことを気にしている場合ではないことを思い出し、私は一通り目を通しただろう資料のファイルを消して次に帳簿のファイルを開けた。



「……もしかして、この入力フォームもアンタが?」


「はい。今までのは見づらし作業効率が悪かったんで自分が入力しやすいものに作り替えたんですけど……」



勝手に入力フォームを変えたことで何か言われるのかと身構えるが、黒髪の男はへぇとどこか意味深げに頷くだけでなにも言わずに帳簿の確認をしていく。


粗方、帳簿の確認が終わるとこちらを振り向きなが、これUSBごともらえうかと聞いてくる男に大丈夫だと答えると、私は開いていた画面を消してUSBの接続を解除してパソコンから抜き、キーケースから外して手渡した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る