9



本当にナイスタイミングだけど、私は非常に眠い。早く帰って寝たい。

明日休みになるなら、猶更早く帰って寝たい。

久々の何も仕事のこと気にしないでいい休日を満喫したい。


「じゃあ、もう夜も遅いんで家に帰ってもいいですか?正直めっちゃ眠いんで家に帰って早く寝たいです」


「おいブス、この状況で俺らが返すと思うか?」


私の漏らした本音に、黒髪の男ではなくいつの間にか電話を終えていた銀髪の男がこちらを睨みながら答えた。


「そうしてくれるととっても嬉しいです。正直、私はその書類は作ったけどいまいち状況の把握してないんで!」


「無理だなぁ」


ですよね。でもさ、もしかしたらってことはあるじゃん。私、ちゃんと証拠全部渡したし、お話とかなら後日でもいいじゃん。後日、この2人とまた会うのは正直なところ控えたいけど。


銀髪の男の言葉に笑顔で返すと今度は黒髪の男が、さっきと同様に小さい子に言って聞かせるような感じでにっこり笑いながら答えた。

銀髪の男は銀髪の男で何故か私を奇妙なものを見るような視線を投げかけてきた。


私は小さくため息をつくと近くにあったデスクチェアへと腰を下ろした。

そんな私の態度に黒髪の男は何とも言えないような視線をよこしてくる。


「おまえさん、本当に一般人か?」


「え、一般人ですけど」


「一般人なわけねぇだろ、こんなイカレ女が」


黒髪の男の問いに何言ってんだというような顔をして答えると、間髪入れず銀髪の男からとても失礼な言葉が飛んでくる。


失礼な。私は歴とした一般人だしイカレてもなんだが?

一般的な家庭で育ってこの会社で社会の歯車の一つとしてこき使われてきましたが?常識もちゃんと兼ねそろえているともいますが?いかれた要素なんて皆無だろう。


銀髪の男の言葉に眠気で回らない頭で文句を考えているとそれが顔に出ていたのか、んだよ?と美人から怖い一睨みをもらった。

そんな私たちのやり取りに黒髪の男は、苦笑いを漏らした。


「普通のヤツはこんな状況であんなモン向けられたら、おまえさんみたいにそんな冷静じゃないんだわ」


あんなと言った黒髪の男が指差したのは、銀髪の男が持っている怪しく黒光する銃だった。


あー・・・・・・あれかぁ。

あれは、水鉄砲とか運動会で使うやつとかそんな感じの物じゃないかなと思うんだけど。

だって、ここ日本だし銃刀法違反とかになるじゃん。そんな日本で銃を持っている人なんて普通に考えて一般人にはいない。仮に、私がこの会社でこき使われている間に日本が銃社会になったとして、だ。会社に住んでんのかってくらい残業しまくっていて世間の情勢に疎くなってても、流石に気がつくだろう。

百歩譲って、この男たちが一般人じゃなかったとして、こんな所で本物なんて出すわけないでしょうよ。

というか、こんなに簡単そっちの住人に出会いたくなんてない。


なんてうだうだと思考を巡らせていると、ついつい眠気で頭の回転が鈍っている私はにっこりと笑顔を浮かべた。


「それ、水鉄砲ですよね?」


「は?」


私の言葉に黒髪の男は何言ってんだコイツといった表情を浮かべる。

そんな男を無視して、眠気で思考回路が鈍くなっている私は先ほど考えていたことをつらつらと口にしてしまう。


「だって、今の日本は銃の所持、禁止されてますし、私がほとんど会社に住んでるんじゃないかってくらい残業しまくってて世間の情勢に疎いからって言っても流石に銃社会になってたら気がつくだろうし、だから水鉄砲かなって・・・・・・あ、それか運動会で使う」


やつ、と続くはずだった私の声は、突如響いたパンッという乾いた音にかき消された。


「え?は?」



水鉄砲じゃない?火薬の臭いがするし・・・・・・運動会に使うやつ?にしては煙?が出てるとこが銃の先だし、いやその前に、上司が撃たれた?


目の前の光景に先ほどまでの光景は一気に吹き飛が、今の状況を上手く処理できない。

バクバクと心臓が飛び出るんじゃないかってほど音を立てているし、手はほのかに震え指先が冷たくなる。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る