05

今の状況整理とこれからのことを考えるのに必死で、中の話し声が止んでいることとこちらに人が近づいてきていることに気づかなかった。

ゆっくりと振り向くと、鈍く黒光りする銃がこちらを向いていた。


私の知らない間に、日本は銃の所持がOKになったの?

それともいつの間にアメリカにでもきてた?

そんなまさか。あ、この人警察か?いや、警察が何で一般市民に拳銃向けてんの?



「あ、水鉄砲とか?」


「テメェの頭ぶち抜いてやろうか?」



予期せぬ出来事に動揺してしまったのか、思ったことをつい口に出してしまうとけん銃を持った相手に恐ろしい声で恐ろしいことを言われた。


立てと言いながら私の二の腕をグイッと引っ張り上げた恐ろしい声の主と向き合うような形で立たされる。相手の顔はオフィスから盛れる明かりで逆光になっていてわからないけど、身長が高くてスタイルがいい。一般人には到底着こなせそうにないスリーピースのスーツを着こなしている。



「それでぇ?んなところなにしてんだ?」


「えっと、オフィスに財布忘れたんで取りに来ました?」


「はぁ?こんな時間に?」


「30分くらい前までここで残業してんで」



こんな時間に財布を取りに来たことに男は訝しげな声をあげるが、あんたらもこんな時間にオフィスでなにしてんだよお互い様だろって感じだ。


男はしばし考えを巡らせているようだったが、チッと盛大な舌打ちをかますと私に向けていた拳銃を下げてついて来いと二の腕は掴んだまま私を引きずるようにオフィスの中へと入っていく。


オフィスの中に入って一番最初に目に飛び込んできたのは、私の二の腕を掴んでいる男の髪だった。光にあたってキラキラしている綺麗な銀髪だ。次に目についたのは、いつもキチッと着込んだスーツにセットされた髪型とはかけ離れた姿の上司だった。スーツは着崩れボロボロでセットされていたであろう髪はボサボサに、極めつけは顔にっできた大きなアザに腫れ上がった瞼、切れて血の滲む口。明らかにここで何かありましたよと上司の姿が物語っている。



「な、なぜお前がここに……」


「でぇ?どれだよ」



男に連れられて入ってきた私を見て、驚いたのか目を見開きながら少し喋りづらそうに話す上司をガン無視して、男は私を振り向き顎でデスクが並ぶあたりを指す。

だが、私にはそんな男の声も仕草も気にせずただただ驚くしかなかった。



白いすべすべな肌、スッと通った鼻筋に薄い唇。マッチじゃなくて綿棒が乗りそうなバッサバサのまつ毛に縁取られた瞳は少し紫がかったブルーだ。



そう、あんなに恐ろしい声を出して口が悪いのにこの男超絶美人なのだ。外を歩くと10人中10人が振り返るような美人なのだ。何だこのギャップは、おかしいだろ。スタイルいいしいいスーツ着てるなって思ったからそこそこイケメンかな強面イケメンとかか?って思ったけどまさか女も羨むような美人だとは誰も思わないじゃん。



「おい!聞いてんのかよブス」



男の容姿とギャップに思考を飛ばしていた私を美人にはあるまじき極悪人な表情で私の額に銃を突き付けながら凄んでくる。

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