06
ハッとして自分のデスクを指さすと、男は私の二の腕を掴んだままツカツカとデスクまで歩いて行き、ぽつんとデスクの上に置かれていた私の財布を手に取った。
「いや、誰だよ?」
されるがまま男の行動を見ていた私の耳に突然目の前の男の声とも上司の声とも違う声が聞こえてきた。声の方に目を向けると上司の横に黒髪を緩く結って肩に流した、これまた美形が立っていた。
銀髪の美人とはまた違うタイプの美形だ。キリッと切長の目は黒く、右の目元に涙ボクロがある線の細い儚い感じの美形。
ただこの美形、目の下におっきなクマを飼ってらしゃる上にどことなく疲れている感じがする。それ故に儚い印象を持ってしまうのかもしれな。
「あ゛?外で盗み聞きしてやがったんだよ」
「違います。財布を取りにきただけです」
「は?財布?」
あらぬ疑いをかけられそうになったから咄嗟に否定すると、銀髪の男は大きな舌打ちをすると私の財布を黒髪の男に向かって投げた。なんなく私の財布をキャッチした黒髪の男は躊躇うことなく勝手に私の財布を開けて未だ本人確認や年齢確認にしか使われたことのない免許証を取り出した。
「清水あやは?」
「彩葉って書いていろはです」
「……清水彩葉、199×年7月7日生まれ。住所は、」
名前の読み間違えを訂正すると、男2人から何とも言えない視線をもらった。この状況で個人情報を自分から言うなんて馬鹿だとでも思われたのだろう。
でもね、そもそももう私の個人情報は住所まで貴方達にばれちゃってんだわ。しかも、貴方達の手で。
今、本名がバレなくてもこの人達なら簡単に調べれそうだし、嘘ついたとか後から色々言われるのは面倒だ。
「で、何でこの時間に忘れ物取りに来てんの?」
「はぁー……俺らがここに来る少し前までここで残業してたんだと」
「ちなみにこの3日、家には帰れてないです」
黒髪の男の問いに私が答える前に、大きなため息を吐きながら銀髪の男が答える。そして、それに付け足すように私は今の私の状況を付け足した。その答えに、黒髪の男は何とも言えないような同情するようなそうでもないような視線をよこした。
あぁ、もしかしなくとも、この男は私と同じで社畜的なアレなのだろうか。
きっと、この男から見た私は目の下に大きなクマを飼った、くたびれた女に見えるだろう。だが、私から見た貴方もそうなんで、そんな名とも言えない視線をよこさないでほしい。ただこの男、元の顔がいいのでクマもくたびれた感じもただただ儚い雰囲気を醸し出している。
何とも言えない空気が漂ってきた時、すっかり存在を忘れていた上司が声を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます