04

「っ……」



突然、何か物がぶつかるような大きな物音にびっくりして出そうになった声を咄嗟に口を自分の両手で塞いで我慢する。スカート履いているのも構わず、オフィスの入り口横の壁に背をつけるようにしゃがみ込んで耳を澄ませると、中からは数人が何かを話している声が聞こえてくる。



泥棒とか?

いや、でもうちのオフィスに泥棒に入って盗るものなんてあったか?



「——は、——で……だろ?」


「俺——……い!」



入り口から離れた場所で話しているのか、聞こえてくる声は途切れ途切れで何を話しているのか全然わからない。ただ、一人だけ聞いたことあるような声がするのは気の所為かな?



「俺じゃない!俺はしらながっ」



聞いたことある声の主が一際大きな声で何かを訴えかけている途中で、人を殴るような鈍い音が聞こえた。多分、声の主が殴られたんだろう。



というか今話して殴られた人、いつもセクハラとパワハラがうざい上司の声だ。



どう言う状況?

いつも私や同僚たちに怒鳴っている偉そうな上司からは想像もつかないいる偉そうな上司からは想像もつかない怯えたような切羽詰まった声で叫んでいるし、殴られたのか蹴られたのかわからないけど何かしらの暴力を受けているようだ。



これは警察に通報案件?

でも今警察に通報したとして、事情聴取とかされたとしたら帰れるの何時?最悪オールで明日も仕事しないといけなくなる可能性がある。


それはちょっと……いや、かなりしんどいし面倒くさい。明日は社長と取引先との商談に同行予定。資料は今日の定時前に仕上げて社長にメールで送ったから明日の朝に直しが入る可能性もある。オールして悪いコンディションで行くのは絶対にダメだわ。だから警察に通報はなしで。



普段、あれだけセクハラもパワハラもお手の物な上司だ。この状況は自業自得因果応報なやつじゃないだろうか。それに大人なんだし自分で何とか出来るでしょう。



うん、見なかったことにしてさっさと財布を取って帰ろう。


でも、今あの場に入るのは無理。絶対に面倒くさいことになりそう。もう時間的に終電には間に合わないからネカフェに泊まるかタクシーで帰ることになる。



よし、トイレで時間潰して財布取ってタクシーで帰ろう。ネカフェで寝るのはしんどい。家に帰ってふかふかのベットで寝て今日のことは忘れよう。



壁に背をつけしゃがんでいた状態から入り口に背を向けてゆっくり立ち上がろうとした時、突然後頭部にに何かを押し当てられた。驚いて振り返るよりも先に、低い凄むような声が後ろから発せられる。




「誰だテメェ……ここでなにしてやがる」

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