03
しんと静まりかえったオフィス街にカツカツと自身の履いているヒールの音が響く。出来る限りの速度でオフィスの入っているビルへと向かう。
流石に、今のコンディションで走るとぶっ倒れる自信しかない。
少し息を上げながらビルが見える距離まで来た時、ふと目に入ってきたのはビルの向かい側に停まっているこんな時間にこんな場所に停まっているの不自然な明らかに場違いな黒い高級車だった。
お向かいのビルの人とかかな?私と同じで忘れ物したとか?いや、でもこの時間に取りにくるか普通。
……まぁいいか、さっさと財布取って駅まで急ご。
今日こそは自分のベッドで寝る。流石に疲れたから電車に間に合わなかったらタクシーで帰る。
ビルの正面玄関を通り過ぎ、ビル横の路地から裏口へとまわってカードキーで扉を開けて中へと入ると、静まり返ったビルの中にジー…ジジ…と切れかけた非常口誘導灯の音が聞こえる。
もう3年はここで働いているけど、いまだにこのなんとも言えない深夜のビルの薄気味悪さには慣れない。幽霊とそんなのは信じていないし、なんなら生きている人間が一番怖いと思っているけど、不気味なものは不気味だ。
足早にエレベーターホールまで行って“上”のボタンを押す。しばらくすると、エレベーターの到着音がなって扉が開く。少し年季の入ったエレベータに乗り込んで、オフィスのある5階のボタンを押す。
ふと、違和感に気づき背筋に寒いものが走る。
……このエレベーター、上から降りてこなかった?
この時間、このビルにいるのは私だけのはずだ。そもそもエレベーターは最後に停まった階にいるはずだから、ついさっき私がエレベーターで下におりたのだから1階に停まっているはず。私以外に人がいたとしても、この時間に出社とかありえないから、もしも人がいたとしても退社する人だけだからエレベーターは1階に以外に停まることはない。それに深夜に見回りに来る警備員はエレベーターは使わず非常階段を使う。
なのになんでエレベーターは上の階に停まっていた?
チンっと目的の階についたことを知らせる安っぽい音が鳴ると、エレベーターの扉が開く。真っ暗だろうと思っていた廊下は、オフィスから漏れる仄かな光で薄らと明るい。
……あれ?私電気消し忘れてた?
いやいや、そんなはずはない。しっかり、戸締りと消灯の確認をしてオフィスを出た。
だったら警備の人とか?警備の時って電気つけてみまわるか?懐中電灯であたりを照らしながら見回りしていなかったか?
何となく、そう何となく嫌な予感がした。
こういった直観的なものはよく当たる方だ。特に嫌な予感の方。
足音を立てないようにそろりそろりとあかりの漏れているオフィスへと近づくと、
……——ガシャンッ
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