02
カタカタとキーボードの上を走らせていた手を止めて、いつもお世話になっている炭酸の抜けたエナジードリンクを片手に出来上がった書類に不備はないか目を通し、メールへ添付して社長へと送る。
真っ白な壁に掛けてある飾り気なの時計に目を向けると時刻は23時40分。
なんとか……なんとか今日中に間に合った!
終電にも間に合った!!
今日は家で寝れるし明日は土曜日、仕事だけどゆっくり出勤できる。
急いでパソコンの電源を落としてデスクの上を片付け、オフィスの電気を消して戸締りを確認してオフィスをでる。
駅まで徒歩10分弱。現在23時45分。
余裕で間に合う。何なら1本前の電車に乗れるかもしれない。
鉛のように重い疲れた身体に鞭打って、カツカツとヒールを鳴らしながら駅へと向かう。
駅に近づくと先ほどまでそのあたりの居酒屋で飲んでいたであろうサラリーマンや大学生らしき集団いる。楽しそうにほろ酔いだったり千鳥足で次に行く店を決めているのか、とても楽しそう。
今日は華の金曜日、世間様きっと明日はお休みだから朝までだって飲めるよね、本当にうらやましい。
できることなら私も飲みに行きたい。飲んでこのストれるを発散させたい。
本当に何にが悲しくて華の金曜日にこんな時間まで働いて――しかも他人の仕事を片付けて、明日も仕事だなんて本当に嫌になる。
上司や社長たちは私のメンタルが強かったことに感謝してほしい。
豆腐メンタルならきっとだいぶ前に飛び降りてたわ。
賑やかな集団の横を虚しくなりながら通り過ぎて、改札口へと向かう。
改札の手前で定期を入れている財布をカバンから取り出そうとしていつも入れている場所に財布がないことに気が付く。
いやいやいや、ウソでしょ?そんなことって……。
改札口から少し離れた場所でガバッと勢いよくカバンを開いて中を確認する。
がさごそとカバンの中を探すがお目当て物は一向に見つからない。
……やらかした‼オフィスに財布忘れた、マジで最悪。
スマホのロック画面を見ると23時53分。
終電まで残り20分、めちゃくちゃ急げばギリギリ間に合う時間。家に帰るにしてもネカフェに泊まるにいてもオフィスに戻るのは確定。できることなら家で寝たい。
私は、ぐるりと先ほど通ってきた道へと振り返り駆け出した。
しんと静まり返ったオフィス街にカツカツカツと私の履いているパンプスの音が響く。出来る限りの速度でオフィスの入っているビルへと向かいながら、こういう時ヒールの無い靴で出勤していたら走れたのにと思ったりする。
流石に、今のコンディションで全速疾走するとぶっ倒れる自身しかないけど。
少し息が上がりながらビルが見える距離まで来た時、ふと目に入ってきたのはビルの向かい側に停まっているフルスモークの黒い高級車。
こんな時間にオフィス街に停まっているのは明らかに不自然な車。
たしか、私がオフィスを出るときには止まってなかったはずなんだけど……私と同じ忘れ物したとか?いやこんな時間に取りに来るかな普通。
……まぁいいか。さっさと財布とって駅まで急ご。
私は黒の高級車のことは無視することにして、ビルの裏口へと向かうことにした。
静まり返った薄暗いビルの中にジー…ジジ……と切れかけた非常口誘導灯の音が聞こえる。
ここで働きだして2年以上たつけど、いまだにこの何とも言えない深夜のビルの薄気味悪さには慣れない。幽霊とかそんなものは信じてないし、何なら生きてる人間が一番怖いと思っているけど、不気味なもは不気味だ。
不気味さをを振り払うように足早にエレベーターホールへと行き”上“のボタンを押す。しばらくすると、エレベーターの到着音が鳴って扉が開いた。
少し年季の入ったエレベーターに乗り込んでオフィスがある5階のボタンを押す。
ふと、違和感に気が付き背筋に寒いものが走る。
……このエレベーター、上から降りてこなかった?
この時間、このビルにいるのは私だけのはず。
そもそも、エレベーターは最後に停まった階にいるはずなのだ。ついさっき私がエレベーターで下に降りたのだから1階に停まっているはず。私以外に人がいたとしても金曜日のこの時間に出社してくる人はいない。もし、人がいたのだとしても退社する人だけだからエレベーターは1階に停まってないとおかしい。唯一、深夜でもいるだろう警備員はエレベーターを使わず階段を使う。
なのになんでエレベーターは上の階に停まっていた?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます