第56話 「黄金井爪は涼しい場所に行きたい④」
おいおいおいおいおいおいおいおいおい……。
冗談じゃねぇぞ。ここに来て闇乙女族の幹部がお出ましとか、洒落になんねぇっての!
てか何で闇乙女族がこんなところでビラなんか配ってんだよ! しかもさっきの伝説厨のことを探しているみたいだし。
一体全体、コイツは、っていうかコイツらは何がしたいんだよッ! ワケわかんねぇよッ!
「教えてください! イニム様の居場所!」
「居場所ってか、何ていうか……」
「さっきそこで会ったよ。でもイニムなんて名前じゃなかったっけ。白龍くん、って名乗ってた」
――だあああああかああああああああああああああらああああああああああああああッ!
何でこの天然は正直に答えちゃうかなぁ? 普通怪しいとか思いません? キャッチセールスとか絶対引っかかるタイプだよな、コイツ。
「そうですか、ありがとうございます!」
「お、おう……」
礼儀正しくお辞儀をする闇乙女族。なんだか調子が狂うな。
どうも漢気を集めているような感じでもなさそうだし、ここはスルーしておくのが正解かも……。
「あ、どうせならついでに……」アメジラと名乗った闇乙女族は咳ばらいを挟み、「そこの貴方」
と言って、俺を指さした。
「俺?」
「そう、貴方です」もう一度咳ばらいをして、「なかなか凄い漢気を感じます。もののついでなので、それ頂戴いたします」
――は?
もののついでって、そんなノリで漢気を奪うのか?
これまた今までにないタイプの奴が出てきたぞ。組織に一人は必ずいる真面目系クズのタイプか? 仕事やっている風を出しているだけでほとんどサボっている奴いるよなぁ。不良の俺が偉そうに言うなって話だが。
って、そんな場合じゃない。
「さぁ、出番です! ペガサスアクジョさんッ!」
そう言って、道の奥から何やら影がこちらに近付いてきているのが見えてくる。
ノシ、ノシとゆっくりやってくるそいつに、俺らは固唾を呑んでそのまま硬直していた。
「ジュッデエエエエエエエエエエエエエエエムッ! ボクとワルツを踊ってくれるというお姫様は、君かなぁ?」
現れたのは、何か馬面の女。いや、馬面というよりも馬そのものだ。二足歩行だが。
白い肌(毛?)も、目元も、王子様のような服も、やたらキラキラと輝いている。どこかの歌劇団に所属していたのかと思うほどのハスキーボイスだが、闇乙女族というからにはコイツは女なのだろう。
「な、な、なななな、なんか気持ち悪いの出てきたああああああああああああああああああああああッ!」
この幹部にして、この部下ありといったところか。久しぶりにこういう奴が出てくると、なんていうか精神衛生上よろしくないな。
「あ、お馬さんだぁ!」
――忘れてた。
そういえば幼女がいたんだった。このまま戦闘に入ると、コイツまで巻き込んじまう。
ったく、しゃあねぇな……、と俺は頭をポリポリ掻いた。
「おい、翼」
「ん?」
俺ははぁ、っとため息を吐いて、
「コイツは俺が何とかする。お前はそこの幼女を連れて逃げろ」
翼は戸惑い気味に、
「え? 僕もたたか……」
「いいからッ! 逃げろって言ってんだろッ!」
そこまで言って、ようやく翼は「う、うん……」とはにかみながら幼女の手を握った。
「行こ、やなちゃん」
「行くって? それに、あのお馬さんってなんなの?」
幼女は良く分からないという表情を浮かべながら、翼に手を引かれて道の向こう側まで走り去ってしまった。
「これでよし、と。足手まといがいなくなったおかげで思う存分暴れられるぜ」
「随分と威勢がよろしいのですね。まぁ、貴方の漢気だけ頂ければそれでよろしいので」
「ほざいてろッ! 今日の俺はすこぶる機嫌が悪いんだッ!」俺は左手のブレスレットを右手で握りしめて、「ただでさえ暑いのに、一段とむさっくるしい怪物を連れてきやがって。とっとと片付けてやんよッ!」
俺は、ふぅ、っと深呼吸をした。
「そのブレスレット……。なるほど、おおむね噂には聞いていましたが、貴方が例の……」
「オトメリッサチャージ・レディーゴーッ!」
アメジラが言葉を発する間もなく、俺はブレスレットを高く掲げた。
淡い光がじわじわと俺の身体に纏わりついてくる。未だにこの感覚は慣れない。
胸元がどんどん柔らかくなっていく。本当に気持ち悪い。っていうか、全身が無駄にむず痒い。
服も上下のセパレート状に分かれていく。そして、俺の髪型は長いツインテールに変貌を遂げていく。
そうこうしているうちに、淡い光は消え去り、
「悪を切り裂く爪、オトメリッサ・クロー! 魔法少女オトメリッサ、参上! 奪われた漢気、取り戻させてもらうぜ!」
オトメリッサに変身した俺は高らかに名乗り口上を挙げるのだった。
「別にまだ漢気は奪ってはいないのですが……。まぁよろしいでしょう。ペガサスアクジョさん、オトメリッサを倒しなさい!」
「ウィー、ムッシュ! さぁ、素敵なハニー、気品溢れるボクと素敵なワルツを踊ろうじゃないか!」
「うっせー馬面! なぁにが気品だ! 馬は馬らしくヒヒンと鳴いとけ!」
俺は脚を踏み込んで、適度に間合いを取った。
「ふふふ、随分と元気なお姫様だねぇ」
「漢気、解放ッ!」
淡い光と共に、俺の手に剣が形成されていく。
俺は両手で構え、上段に振りかぶって一気に間合いを縮めた。
「ジュッデエエエエエエエエエエエエエエエムッ! ボクの麗しい格闘技を見るがいい!」
「なっ……」
近付いていった俺の目の前に現れた、馬面女の拳。一瞬、そこにビビッて脚が止まりかけるが、時は既に遅く――、
「ペガサス・流れ星パンチ!」
無数の拳が、俺を目掛けて素早い動きで打ち込んできた。
「ぐあああああああああああッ!」
ひとつひとつは決して重くない。が、マシンガンのようにコンマ数秒の間に何発も撃ち込まれていけば俺をのけ反らせるには充分すぎるほどの威力になっていく。
「どうだい? ボクのワルツは」
――つ、つぇえ。
「チッ、ギリギリアウトな技名を繰り出しやがって……」
打撲痕を抑えながら、俺はゆっくり立ち上がった。
「おやおや、まだいけるかい? 思った以上にしたたかなハニーみたいだ」
再び構えのポーズを取る馬女。
スピードはやたら早いが、重さはない。翼や蒼条さんみたいな遠距離攻撃タイプや、葉の防御シールド、それに黒塚のようなパワーだったら押し切れるかも知れない。
俺がコイツに唯一勝てる方法としては――、
スピードで、上回るしかない。
「漢気、大解放ッ!」
もう一度高らかに叫んで、俺は剣を構えて馬女に近付いた。
さっきよりもスピードが上がっている気はする。
「ははッ! いいよ、またワルツを踊ろう!」
もう一度、馬女は拳を突き出してくる。
――今度は見切れる!
拳の一発一発が、先ほどとは比べ物にならないくらいにゆっくりと見える。左、上、右、下、と無数の拳が俺を目掛けてくるが、断然避けれるし、いくつかは剣で弾ける。
――これなら。
「うおおおおおおおおおおおおッ!」
俺はまたもや剣を大きく振りかぶった。
「オトメリッサ・ビーストスラ……」
「ペガサス・昇天馬拳ッ!」
――なっ!?
馬女は間髪を入れずに、下からアッパーを繰り出してきた。
見切れなかったわけじゃない。拳自体は簡単に避けれると思っていた。
が、拳と共に放たれる真空派が一瞬俺の身体を浮かせたかと思うと、避けていたはずの一瞬の隙を奪って、その間に俺の腹に強烈な一撃を叩き込んだ。
「うごおおおおおッ!」
俺の身体は大きく上空へと飛ばされ、そのまま地面に叩き込まれた。
「ははは、お転婆さんめ!」
――つ、つえぇ。
今のは正直、かなりのダメージを喰らった。身体も、思うように立ち上がらない。
「どうです? ペガサスアクジョさんのお力は?」
最早ぐうの音も出ない。悔しいが、今までの闇乙女族とは比較にならないほど強い。こんなパクリ技のオンパレードの癖に、しっかり使いこなしていやがる。
「ち、ちくしょう……」
腕に力を入れようとする。だが、痛みに耐え切れずにすぐに力が抜ける。
――ダメ、か。
やっぱカッコつけずに翼にも変身してもらうべきだったか。
後悔の念と共に、俺の背中にチリチリと太陽の熱が当たっていく。暑い。俺はロクに涼むこともできずにこのままやられてしまうのだろうか?
――クソ、クソ、クソクソクソクソクソクソクソオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!
立ち上がる気力が段々と失せていく。心の中ではひたすら悔しさで叫び続ける。
が、それも段々と意識が遠のいていく。最早、ここまでか……。
と、諦めかけていた、その時。
「なんだ、この騒ぎは?」
朦朧とする意識の中、俺の耳に聞き覚えのある声が届く。
「おやおや、新しいハニーかい?」
「いえ、あれは……」
敵たちの会話の間、俺は最後の気力を振り絞って顔を挙げる。
そこにいたのは――、
「い、イニム様ッ!?」
突如現れたその男――。
てか、なんでここにお前がいるんだ?
「イニム? 誰だそれは。人違いも甚だしい」男はポケットに手を突っ込みながら、敵たちを睨みつけた。「俺の名は伝説、またの名を白龍 説だッ! 覚えておけッ!」
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