第51話 「妖精メパーはオトメリッサどもを信じているメ⑤」

 雨はすっかり上がっていったメ。太陽が微妙に顔を出していて、ちょっとだけジメっと気持ち悪い感じだメ。

 翼たちは変身を解除して、まだ濡れているコンクリートの斜面に座り込んでいるメ。

「うわ、やっぱりこれマズ……」

「ほら、これ」

 あさりしぐれプリンパイを頬張る翼に、爪がペットボトルを差し出してきたメ。中身は至ってありふれた緑茶みたいだメが……。

 翼はそれを口に含むと、

「あれ? さっきまですっごくマズかったのに、緑茶と一緒だとすっごく美味しい!」

 瞬時に明るく目を見開いたメ。

「本当か?」

「どれどれ……」

 半信半疑な様子で、海と兜もパイと緑茶を口に含んだメ。

「これは……」

「うむ、これは悪くないッ! 意外とイケるぞッ!」

「だろ? へへっ、この組み合わせを生み出すのに一晩掛かったんだぜ」

 ――んな下らないことに一晩掛けていたのかメ。

 まぁ、その努力は凄いと思うメが。

「なんていうか、これって僕たちみたいだね」

「あん? どういう意味だ?」

「ほら、このパイひとつだけだとすっごくマズいけど、緑茶と組み合わせると不思議と美味しくなる。それと同じように、クセが強いみんなも思いがけない組み合わせで不思議な力が出せるってこと」

 ――どういうことだメ?

「意味が分かんねぇよ」

「つまり、このパイが爪くんで、緑茶が僕、みたいな」

「あん!? てめぇ、このクソマズパイが俺だってかッ!?」

 ――メ! やめるメ!

 折角仲直りしたのに、また喧嘩の火種になりそうなことを……。

「はっはっは! なるほどな! まぁ、俺たちの場合は全員が全員、このパイぐらいクセが強すぎるがな!」

「……俺も強いのか、クセ」

 兜の言葉に、海は意気消沈したメ。まぁ、その言葉のおかげで喧嘩しそうな雰囲気はなくなったメが。

「ったく、まぁいっか。個性が強いことぐらい自覚してっからな」

「あはは、ごめんね」

 翼の苦笑いを聞き届けた爪は、再びパイを口に含んで緑茶で一気に流し込んだメ。

「それで、これからどうするよ、お前は」

「どうって……」

「やんのか、オトメリッサ」

 ド直球に爪が尋ねると、翼は俯き気味になりながら、

「え、でも、いいの……。僕は、その、指名手配……」

「知らねぇ。まぁその姿じゃバレねぇんじゃねぇの?」

「けど、爪くんは……」

 爪は呆れ気味にペットボトルの緑茶を飲み、

「知らねぇっつってんだろ! 俺はその窃盗事件とやらを目撃していたわけじゃねぇし、あの手配写真とやらだって胡散臭いにもほどがあるだろ。もうその話は知らん。後はてめぇの好きにしろ」

 そう言って、爪は黙り込んだメ。

 翼は首を傾げて少し考え込んだ後、

「……やるよ、オトメリッサ」

 小さく、そして力強くそう呟いたメ。

「戻って来てくれるのか、桃瀬」

「うん、やっぱり闇乙女族を放ってはおけないから」

「あっそ」爪は少しだけそっけない態度を見せた後で、「だったら俺もやってやんよ」

「えっ……」

 爪はもう一口緑茶を飲んで、

「闇乙女族みてぇな連中をのさばらせたくねぇのは俺も一緒だからな。それに、その、さっきみてぇな連携、やっぱお前とやるのが一番しっくりくるんだよ。癪な話だがな」

 照れくさそうに頬を掻く爪の顔は、どことなく赤かったメ。

「あ、あ、あ」翼はまたもや嗚咽を漏らし始め、「ありがとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 大声で泣きじゃくって、爪の胸に顔を埋めたメ。

「ば、バカ! だから泣くなっつってんだろ!」

「だって、だってええええええええええッ!」

 うう、と涙を流しながら、翼は爪の顔を見上げたメ。

「全く、傍から見れば完全にバカップルだぞ」

「いや、コイツは男……」

「はっはっは! ま、クセの強い者同士、上手くやっていこう!」

「うるせぇッ! てめぇが一番濃ゆいんだよ!」

「おっ、担任に向かってそれ言うか? まぁ、少なくとも俺もお前も桃瀬も大概個性強いがな、このパイみたいに」

 いい加減そのパイの例えやめろメ。てか、海のこと忘れんなメ。

「ケッ、いいよ。俺はどうせクソマズパイですよ!」

「そう考えると緑茶と呼ぶにふさわしい存在は他にいるかもな」

 そう言って、海はふと土手の上の方を眺めたメ。それに釣られて、他の面々も見上げたメ。

「あれは……」

 閉じた傘を手に持ちながら土手の上に呆然と立ち尽くしているのは、葉だったメ。ランドセルを背負っているところを見るに、学校帰りのようだメ。

「……何しているんですか?」

「あぁ、いやちょっとな。男同士の語らいを少々」

「意味が分からないんですけど」

「まぁ、まだ小学生には早い話だ」コホンと兜は咳ばらいを挟んで、「それよりも聞いてくれ! 翼と爪がオトメリッサに復帰するそうだ!」

「ふぅん、そうですか……」

 淡白な返事で、葉は目を逸らしたメ。

「お前はまだ戻らないのか?」

 海が尋ねると、葉は俯いて黙り込んだメ。

「メ……」ボクはいてもたってもいられなくなって、ようやく声を発したメ。「葉、無理はしなくていいメ。でも、ボクは……、ううん、ボクたちは葉が戻って来てくれることを願っているメ。いつか、気分が落ち着いたら……」

「……僕も戻りますよ」

 葉はやっぱり……。


 ……。


 …………。


 えッ?

「葉、くん?」

「戻って来てくれるって……」

 葉はこくり、と頷いて、「僕も、戻ることにします」

 小さく、呟いたメ。

「本当か!?」

「だから言ったじゃないですか。決心はもうつきましたよ。絶対に、僕は……、パールラを、倒したいんです」

 握りこぶしをプルプルと振るわせて、小声ながらも強く言い放つ葉。

 ――なんだ、メ。

 どことなく、葉の顔つきがこれまでにないほど怖いメ。事情が事情だから無理もないメが、想像を遥かに超えるほど……、暗い影を落としているように感じるメ。

 本当に無理していないのだろうかメ……。

「そうかそうか! 戻って来てくれるのか!」

「うん、よろしく頼んだよ!」

「これでオトメリッサも元通りってことだな」

 喜ぶ面々だメが……。

「……本当にいいんだな」

 爪だけは眉間に皺を寄せて葉のことを睨みつけているメ。

 もしかして、爪もボクと同じように感じているのかメ。

「……はい」

 葉はまた、小さく強く頷いたメ。

「ならいい。お前も好きにしろ」

「もう、爪くんは素直じゃないんだから!」

 にっこりと微笑む翼。

 爪ははぁ、とため息を吐いて、

「ったく、まずお前は記憶を取り戻せ。んで、男に戻ったら速攻で警察に突き出してやっからな。いいか、お前が男に戻るまで、だぞ!」

「うん!」

 微笑みながら頷く翼を見据えて、爪は頭をポリポリ掻いたメ。

「記憶取り戻したらきっちり説明してもらうからな。それまで……、いや、闇乙女族を倒すまでは、その、俺たちは共犯みたいなもんだからな」

「そうだね、共犯……」その一言を発した瞬間、翼の目が見開いたメ。「共犯、共犯……共犯……、あれ?」

「ど、どうした桃瀬!?」

 メ。様子がおかしいメ。

「大きなお屋敷……、金庫、宝石……、もしかして……」

「オイ、まさか何か思い出したのか?」

 海が尋ねると、翼はこくり、と頷いたメ。

「あのさ……」

「お、おう……」

 翼はごくりと唾を飲み込んで、

「もしかしたら、僕、本当に窃盗犯かも知れない」


 ――え?


 和気藹々となりかけていた空気が、一瞬にして冷え込んだメ。

「ま、じか……」

「なんか、それっぽい記憶が頭の中に浮かんできたんだよね」

 淡々と話す翼。

「おい、やっぱてめぇ……」

「それだけじゃなくて」翼は爪の怒りを遮って、「何か、もう一人……、僕以外にもいたような記憶があるんだよね」


 ――僕、以外?

「どういう意味だよ、そりゃ」

「うん。なんか大きなお屋敷で金庫から宝石を盗んだ記憶はあるんだけどさ……、僕以外に、もう一人一緒になって盗んだ人がいたような記憶があるんだよ」

 つまり……。

「えっと……」

「その……」

「え……」

「単独犯じゃ、ねぇってことか?」

「そういうことになるね」

 てへっ、と笑みを浮かべて誤魔化す翼。


「て、て、ててめぇ……」爪が思いっきり翼を睨みつけたメ。「それを早く言ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!」

「し、仕方ないじゃん! 今思い出したんだし!」

 胸倉を掴まれた翼は、冷や汗を垂らしながら慌てふためいたメ。


 ――なんていうか。

 問題が一つ解決したかと思えば、また新しい問題が発覚したメ。

 翼の共犯者って、一体……。

 それに、葉のことも心配だメ……。


 まだ煮え切らないことが多々あるメが、


 バラバラになったオトメリッサたちがまたひとつに戻った。それだけでもよしとしておくメ!

 魔法少女オトメリッサたちの戦いはこれからも続いていくってことメ!


 不安だらけだけど、ボクは信じているメ!

 オトメリッサどもはきっと、闇乙女族を打ち倒して、平和を取り戻してくれる、と。


 さぁ、魔法少女オトメリッサども!

 これからもどんどん、漢気を取り戻していくメ!

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