第50話 「妖精メパーはオトメリッサどもを信じているメ④」

 なんだかんだで二人が魔法少女に変身すると、

「さぁ、どこからでも掛かってこい! 先生は受け止めてやるぞ!」

 インセクトのほうがやたらと暑苦しく青春熱血教師ムーヴかましてきやがったメ。見た目はロリっ子のクセに。

「……うっぜ」

 クローのほうはすっごく冷ややかな視線で見ているメ。そりゃあそうなるメ。

「バカなことしている暇があるならとっとと戦え! 漢気、解放ッ!」

 二人を余所目に、マリンは漢気を解放したメ。そして、青いGODMSの粒が周囲に集まってきて、やがてマリンの右手に巨大な槍が形成されていったメ。

「おおっと、イカンイカン! 漢気、解放ッ!」

 今度はインセクトの周囲に黒いGODMSの粒が集まり、どんどん掌に集中していくメ。

 そして二人は、クローを挟むようにして素早く近付いてきて――、

「ヤベッ!」

 呆けている間に、二人の攻撃がクローに直撃……、

 したかと思いきや。

「ふぅ、危ない危ない……」

 クローの身体は上空に飛んでいったメ。その上にはウィングが羽ばたきながら、クローの身体を持っていたメ。

「は、離せッ!」

「まぁまぁ、助かったんだから」

 ウィングはクローを宥めながら、ゆっくり地面へ着地していったメ。

「避けたか」

「はっはっは! なかなかやるな!」

 クロスカウンターを外したかのように、この二人の立ち位置は見事に逆転しているメ。

「このクソ教師とクソインテリがッ!」クローが目を尖らせて怒ってきているメ。「もう怒ったッ! お前らも纏めてぶん殴ってやんよ!」

「ちょっと、クロー……」

「よおしッ! それじゃあ、先生も本気出してやるぞッ!」そう言って、インセクトもまた懐からリップを取り出して、それを塗りたくったメ。「漢気奮発ッ! “蟻地獄アントライオン”!」

 インセクトの拳にGODMSの粒が集中し、その拳を地面に叩きつけていったメ。

 それまでぬかるみだった地面が、突然渦巻いていったかと思うとクローとウィングの足首が半分ほど徐々に沈んでいったメ。

「なっ……」

「ふむ、流石蟻地獄だな。俺の戦い方の流儀には反するが、まぁこれも実力よ」

「ぐっ、足が……」

 地面に足首が吸い込まれて動けないようだメ。もがこうと太ももを振り上げようとしているのは伝わるけど、まるで意味がないようだメ。

「ふっ、こちらも自分の主義に反する代物だが……」マリンもまたルージュを取り出して塗りたくり、「漢気奮発ッ! “旗魚ソードフィッシュ”!」

 今度はマリンの槍にGODMSの粒が集中し、メキ、メキ、とどんどん大きくなっていくメ。一見重そうに見える槍だメが、マリンはいともたやすく持ち上げているメ。

「なんだそりゃあああああああああああああああああッ!?」

 流石のクローも唖然とした表情で素っ頓狂な声を挙げてしまったメ。

「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 まさかのマリンからの力任せな振り回し。足が取られている状態ではクローも避けきれない、と思いきや、

 ――ガコン!

 と、クローの一センチ横に、攻撃を外したメ。

「チッ、やはり力任せな攻撃は性に合わんな」

「あ、あぶねぇ。外してくれたのはせめてもの思いやりか? 重い槍だけに、なんつて……」

 引き笑いを浮かべながらギャグを飛ばすクロー。ちょっとだけ上手いメ。

「そんなわけあるか。次は当てる」

 やっぱそんな洒落た言葉は効かなかったようだメ。

 マリンは再び重くなった槍を上段に振りかぶり、明らかに当てようとクロー目掛けて……、

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 ヒュンッ!

 と、マリンの頬を掠めるかのように、一筋の矢が飛んできたメ。

 マリンは後ろにのけ反って、よろめいたまま槍を地面に落としてしまったメ。

「ウィング!」

「そんなので殴ったら洒落になんないでしょッ! いくらなんでも、限度ってものを考えてよね!」

 ウィングは上空から弓を構えて叫んだメ。

「よ、余計なことすんじゃねぇッ!」

 クローも素直じゃないメ。今のは感謝する場面だメ。

「漢気、大解放ッ!」間髪を入れず、ウィングが叫ぶとクローの背中に羽が生えていったメ。「これで抜けられるでしょ」

「馬鹿にすんじゃねぇよ!」

 と言いつつも、クローは空高く舞い上がって剣を思いっきり構えたメ。そして一目散にマリンのほうへと上空から振り下ろし、

 ガキン――!

 と、剣尖の鈍い音が響き渡ったメ。

「クッ、やるな……」

 マリンの槍とクローの剣が互いに拮抗しているメ。二人とも険しい顔で、力任せにどちらかが折れるタイミングを見計らっているメ。

「力が強いな、インテリ野郎の分際で……」

「貴様こそ、喧嘩馬鹿のクセに……」

 歯を食いしばりながら、二人は顔をしかめているメ。

「はっはっは、こりゃあいい! そのままやれ!」

「全然良くないですよ! 何煽っているんですかッ!」

「いや、これでいい! おい、クロー! この際だから、お前が心の中で思っている不満を、全部思いっきりぶちまけろッ! 勿論、俺にもだッ!」

 メ……。

 インセクトが呼びかけると、クローは更に険しい顔になったメ。

「あぁ、だったらお望み通りぶちまけてやんよッ!」

 クローは剣で槍を弾き飛ばし、再び斬りかかったメ。勿論、マリンもすぐさま槍でマリンを剣を受け止め返したメ。

「まずマリン……、いや、海さん!」もう一度マリンの槍を弾いた後、瞬時に後ろにのけ反っていったメ。「顔合わせるたびに『勉強しろ』だの『宿題やったか』だの、うっせえんだよッ! てめぇは俺のオトンかっての! こっちはてめぇほど脳味噌の情報量多くはねぇんだよッ!」

「うっ、それは貴様の成績が……」

 と言い訳を聞く間もなく、クローは空高く飛び上がり、今度はインセクトのほうへ向かっていったメ。

「それから、黒塚ッ!」剣を上空から斬りつけるが、クローに難なく躱されて、「てめぇ、いつも宿題出し過ぎなんだよッ! てめぇの馬鹿体力基準でムチャクチャさせてんじゃねぇッ! それと、イチイチその笑い方が余裕ぶっこいているみたいでムカつくんだよッ!」

「むぅ、すまない……」

 インセクトが少し低めのトーンで謝るメ。

「それから、やっぱり……、ウィング、てめぇだッ!」再び上空に飛び上がったクローは、おもむろに剣を振りかぶったメ。「いつもいつもいつもいつもいつもいつも、ヘラヘラしやがってッ! 最初にこの河原で会った時も平然と俺たちの喧嘩の邪魔をしやがってッ! んで、いかにも俺TUEEEEEEE! みたいな態度でクラスの人気をかっさらいやがってッ!」

「後半ただの嫉妬だよね!」

 上空で羽ばたきながら、ウィングはクローの剣を避けていくメ。

「それだけじゃねぇッ! てめぇは、正義面しているクセしやがって! なのに、実は犯罪者でした、だとかふざけんじゃねぇッ! てめぇはッ! 絶対ッ! そんなことする奴だとはッ! 思っていなかったのになぁッ!」

 ――そうか、メ。

 クロー、いや、黄金井爪は、普段悪ぶっているメが、本当は誰よりも正義感が強かったんだメ。そこだけは爪も、翼も……、いや、海も、葉も、兜も、みんな心がひとつだったんだメ。

 だからこそ、許せなかったんだメ。例え、本当に翼が記憶を失くしていたとしても……。

「……ごめん」

 少しだけ、ウィングのスピードが落ちてきたメ。

「謝ってッ! 許されることじゃッ! ねぇッッッッ!」

「でもッ! それでもッ! 僕は謝りたいッ!」

「うるせええええええええええええええええッ!」

 今までになく大きく振りかぶった剣が、ウィング目掛けて斬りかかったメ。

 一瞬――。

 だけど、その切っ先は、ウィングの身体に当たることもなく、

「え、えっと……」

 ウィングの脇腹数センチのところで、剣は止まっていったメ。

「……チッ、やっぱ甘ちゃんだな、俺も」

 クローは俯きながら、静かに地上へと降りていったメ。そして、ウィングも一緒に地上へ降りていき、二人同時に羽を引っ込めたメ。

「クロー?」

「許すとか、許さねぇとかじゃねぇ。ただ、てめぇが本当に闇乙女族を倒す漢気があるのか、俺はずっと疑問だった。だから試した。そんだけだ」

 ――メ。

 クローは静かに、剣を引っ込めて、GODMSの粒へと昇華させていったメ。

 まさか、クローはそのために果たし状を――。

「……見せてもらったぜ、お前の本気と、漢気」

「うむ、それじゃあ仲直りというわけだなッ!」

「そんなもんじゃねぇよ。ただ……」

 と、クローが言いかけた瞬間、


「あ、あ、あ……」ウィングが突然嗚咽を漏らし始め、「わあああああああああああああッ!」

 物凄く、泣き始めたメ。

「おいおい、女を泣かせるんじゃねぇよ」

「まぁ、今は俺らも女になっているがな」

「いやいやいや、何で泣くんだよッ!」

「だって、だって、だってぇッ! ずっと爪くんに嫌われたかと思っていたんだよッ! この半年、ずっと不安で不安でッ! 謝りたくても謝れなくてッ! うわああああああああああああッ!」

「わーった! 俺が悪かったって! だから泣くなッ!」

 そう言って、クローは必死でウィングを宥め始めたメ。


 ――やれやれ、だメ。

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