第48話 「妖精メパーはオトメリッサどもを信じているメ②」

 翌朝、登校する生徒たちが溢れる学校前。

 昨日は結局爪の姿を見失ってしまったので、今日こそは、と爪が通る道に待ち伏せしていたメ。目論見通り、爪はしっかりと他の生徒達に紛れて道を歩いてきたメ。相変わらずきちんと登校だけはするあたり、不良なのか怪しいメが……。

「おはようだメ」

 ボクは姿を現すけど、爪は驚く様子もなく、

「なんでついてくるんだよ」

 かなり苛ついた様子で、ボクを睨みつけてくるメ。

「メ。やっぱり心配で……」

「心配せんでいい!」

「でも、翼と早く仲直りしないと……」

「大きなお世話だッ!」

 爪はボクを怒鳴ると、ブンッ、と鞄を振り回されて払われたメ。ボクのことを虫みたいに扱わないで欲しいメ。

「分かったメ。しばらくはそっとしておくメ」

「しばらくじゃねぇ。ずっと、だ」

 ――あれ?

 なんだか爪の顔がどことなく影を落としているメ。普段仏頂面なことが多いけど、今日は一段と暗い感じがするメ。なんていうか、悲しそうな……。

 あと、手に紙袋がふたつぶら下がっているメ。これって、昨日影子が渡した……。

「メ……。それじゃあ、ボクは翼のところに行ってくるメ」

「勝手にしろッ!」

 そう言って、爪はとぼとぼと学校の方へ向かっていったメ。なんだかいつも以上にピリピリと怒り心頭みたいだメが、やっぱり急に話しかけたのがいけなかったのかメ。


 仕方がない、翼のところに向かうとするメ。


「……そっか、葉くんがそんなことに」

 学校で、ボクは翼にこの前起きた出来事を説明したメ。

 今日は翼が日直らしく、先生から貰ったプリントを運びながらボクの話を聞いてくれているメ。爪の後だからか、話が進みやすく感じて助かるメ。

「そろそろ戻って来て欲しいんだメ。お願いだメ」

「うん、僕としてもオトメリッサに復帰したいのは山々なんだけど」翼はため息を吐いて、「でも、爪くんがどう思うのかな?」

「バレンタインのときは一緒に戦ったメ」

「あれは利害が一致しただけだからね」

 あはは、と苦笑いを浮かべながら翼は教室の前にたどり着いた。

「メ……、それじゃあボクはこれで」

「うん。また放課後話そう」

 そう言って、翼は静かに教室に入っていったメ。


 それからチャイムが鳴り、今日の授業が始まったメ。朝は降っていなかった雨も、昼になって急に雲行きが怪しくなって時々にわか雨が降り出して、また止んでの繰り返しだったメ。

 ボクは雨に濡れないように、雨宿りしながらずっと外から翼と爪の授業風景を眺めていたメ。全く視線を合わせないようにしている二人の姿が、見ていて居たたまれない感じがしたメ。

 そうこうしているうちに、今日の授業が終了したメ――。

「なんだ雨かよ。今日の部活は中止だな」

「わたしもー! テニスの試合近いのにサイアクー!」

 雨はまた降り出し、生徒たちは口々に愚痴を言い出しながら帰っていくメ。

「桃瀬さんも今日は部活ないの?」

「あ、うん。陸上部の練習もこの天気じゃ無理そうだからね」

「だったらさ、帰りどこか一緒に……」

「ごめん! 今日は日直だからさ、日誌とか片付けとかやらなきゃ」

「あ、そっか。うん、じゃあまた今度ね!」

翼は友達を見送ると、教室に残って黒板を消したり日誌を書いたりと卒なく日直業務をこなしていったメ。

「そろそろボクも行くかメ」

 翼の仕事が一通り終わったかというタイミングを見計らって、ボクは翼のほうに向かっていったメ。

「あ、メパー」

「お疲れ様だメ。日直の仕事は終わったメ?」

 せめてもの労いの言葉を掛けて、ボクは翼の近くに飛び寄ったメ。

「うん。今から帰るところだよ」

 翼はよいしょ、と鞄を持って席から立ちあがったメ。

「それで……、今朝の話の続きなんだメが」

「それだよねぇ。爪くんに謝りたいけど、聞く耳持たないって感じだもんね。そもそも僕自身が窃盗犯なのか記憶にないのが問題なんだよね」

 それだメ。

 そもそも、元々翼の記憶がないのにオトメリッサにスカウトした影子にも責任はあるメ。結果的にはいい働きをしてくれているんだメが。影子ももっと責任持ってくれメ。

「なんとか話だけでもしたいところなんだメが」

「どうしよう……」

 ボクと翼は首を傾げながら、昇降口にたどり着いたメ。

 翼が靴を取り出そうと下駄箱を開けた、その瞬間――、


 ダバダバダバッ!

 と、下駄箱から何かが大量に溢れ堕ちてきたメ。

「な、何これ……」

「何が入っているんだメ?」

 ボクは雪崩てきたものをじっと眺めると、パッケージには

『あさりしぐれプリンパイ』

 ――いや、これって。

「爪の仕業だメ……」

 そういえば今朝話しかけた時に、影子から押し付けられたあの紙袋を持っていたメ。まさか、ここに入れるために持ってきたのかメ。

「……一体どういうこと?」

「さぁ、メ……」

「これってお菓子、だよね?」

 翼が封を開けて、おもむろに口に頬張ったメ。

「メ! それを食うな……」

「うん、これはなかなか……」と最初は笑顔だった翼の顔つきが段々険しくなっていき、「な、がっ……」

 あーあ……。

「頬張っちゃったメ」

「醤油の味わいと、プリンの甘み、砂抜きされていないあさりのじゃりっとした風味……、これは、マズいとかそんな次元じゃない……ぐっ、がっ……」

 すっかり青ざめた表情でその場にへたり込んでしまったメ。

「言わんこっちゃない」

「早く言ってよ……。こんなの常識的にあってはならない食べ物だよ」

 ――やれやれだメ。

 ボクは頭を抱えたまま、ふと地面を見ると、そこには激マズパイの山に紛れて一枚の封筒が落ちていたメ。

「何だこれメ」

 ボクはそれを拾い上げると、そこに書かれていたのは、

『果たし伏』

 ――ホントに何だこれメ!

 果たし状って書きたかったんだろうけど、なんてベタな書き間違いを……。こういうところで抜けてるあたりが爪クオリティというか。

 けど、そこに突っ込んでいる場合じゃないメ。果たし状とはただ事じゃないメ。一体爪は何を考えているのかメ……。

 と、そんな揚げ足を取っている場合じゃないメ。これはただ事じゃないメ。ボクはとりあえず果たし伏とやらを開いてみたメ。

『放課後、最初に出会ったあの河川敷に来い。全ての決着をつけてやる』

 メ……、とボクは呆れ果てたメ。ちなみに外はまだかなり雨が降っているメ。

「なんなの、何なのこれ……」

 翼は果たし状、もとい果たし伏を見て顔を引きつらせているメ。

「翼……」

「ねぇ、一体何なの!? 『はたしふせ』って何!?」

 ――お前って奴は。

 字面のまま受け取る翼に対しても、ボクはひたすら呆れ果てたメ。

「……ちったぁ自分で考えろメ」

 ――とにかく、河川敷のほうに行くしかない、メ。


 雨の中、傘を差して歩く翼の肩に乗りながら、待ち合わせの河川敷に着いたメ。

「ねぇ、あそこ……」

 翼が指差した先には、背中を向けながら佇む生徒の姿が一人。あの金髪、間違いなく爪だメ。

「チッ、やっと来たか」

「爪くん……」翼は心配そうに近寄り、「風邪引くよ?」

 ――それな、メ。

 傘も差さずにずぶ濡れになりながら佇んでいる爪。カッコつけているつもりだろうけど、正直見ていて痛々しいことこの上ないメ。

「うっせぇッ! ックシュン!」

 ほら、言わんこっちゃない。

「こんなところで待っているから。それで、ここに呼び出した理由は何なの?」

「ハッ! 決まってんだろ!」

「ごめん、全く分からない……」

 翼の天然っぷりに、爪の顔が段々険しくなっていくメ。

「どうやらてめぇお得意の記憶喪失らしいな。“果たし状”の意味も理解していないとはな」

 “果たし状”の字も理解していない奴が何かほざいているメ。

 と、呆然とボクが見ていると、


「オトメリッサチャージ・レディーゴーッ!」

 突然、爪はブレスレットを掲げてきたメ。

 そして、身体がどんどん柔らかく、胸も自身に合った大きさに形成させていったメ。

 彼に纏わりついた黄色い光が消えると、上下に分かれたセパレート状の衣装を纏ったツインテール少女に変身して――。

「悪を切り裂く爪、オトメリッサ・クロー!」

 魔法少女オトメリッサ・クローの姿がそこに現れたメ。

「ちょ、爪くん……」

「てめぇもオトメリッサに変身しろ。そして、俺と戦え!」


 ――やっぱり、こういう展開かメ。

「戦うって、どうして……」

「うるせぇッ! ここでてめぇと決着付けてやるッ! 覚悟しろッ!」

 戸惑う翼を余所に、オトメリッサ・クローはしっかりと睨みつけてきたメ。


 ――ど、どうしようメ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る