第47話 「妖精メパーはオトメリッサどもを信じているメ①」

「マズいわね……」

「あぁ、マズいな」

「うむ、これはマズい」

 雨が降りやまない、六月のある日。いつもの灰神家の地下室。

 だけど、いつになく重苦しい空気が室内に漂っていたメ……。


 いつもだったらこういう場合、

「マズい、これはマズいぞ……」

「なんてマズいんだ!」

「この安売りしていたあさりしぐれプリンパイ、クッソマズい! 誰よこんなの買ってきたのは!?」

 というオチになるんだメが……、

 今回ばかりは、どうもそういうわけにはいかないようだメ。


「桃瀬くん、黄金井くんに続いて、緑山くんまであんなことになるなんてね……」

 と、魔法少女オトメリッサは、それはそれは本当にマズい状況に陥っているんだメ。

「やはり、まだ立ち直れなさそうなのか?」

「柳田さんの件、彼なりに責任を感じているみたいなのよね。あれからずっと塞ぎこんだままよ」

「ううむ……。緑山は優しいからな。それが強さでもあり、弱さでもある」

 灰神、海、そして兜の三人はずっと顔を見合わせたままだメ。

「これまでは三人でなんとかやってきたけどね。流石に二人だけになってしまうとなると……」

「はっはっは! そこは心配ない! 俺と海ならばなんとか……」それだけ言って、瞬時に兜はため息を吐いて「と強がりたいのは山々なのだがな……」

「更に幹部勢が増えてしまったからな。これで闇乙女族の幹部は、サファイラ、トパーラ、そしてパールラの三人――、いや、まだ他にもいる可能性だって充分ある」

「ルビラだってなかなか苦戦したからね。あれと同等、もしくはそれ以上の強さだと思ったほうがいいわ」

 なかなかしっかり作戦会議をしているようだメ。

 ここにいるのは仮にも二十歳を過ぎた大人勢だメ。まだ高校生の爪と翼が喧嘩をして、小学生の葉が落ち込んでいる今、やはり頼りになるもんだメ。まぁ、影子一人だけだったらここまでシリアスにはなれなかっただろうがメ。

「……なんかメパーにすっごく腹立つこと言われた気がしたけど、まぁいいわ」

 なんで心が読めているんだメ。スルーされたから別にいいけどメ。

「とりあえず、これからどうする?」

「葉に関しては時間が解決するしかないだろう。こういう時は下手に励まそうとすると逆効果にもなりかねん」

 流石、兜は教師なだけあるメ。心のケアにも気を遣っているようだメ。

「そうね……。彼のお父さんと何度か話をしてみるけど、しばらく休んでもらうことにしましょう」

「となると……」

「問題は翼と爪だな」

「いい加減、あの二人を仲直りさせないと埒が明かないぞ」

 メ……。それなんだメ。

 翼が窃盗犯疑惑が出たのが今年の初め。かれこれ、半年近くあの二人はオトメリッサを休んでいる。最後に変身したのは確かバレンタインの時だったメ。あれはイレギュラーというか、非常にしょーもないことで揉めていただけだったメが。

「そうね。そろそろ仲直りさせましょう」

「そうだな」

「ここで、その前に……」影子は近くにあったホワイトボードをこちらに運んできた。「一度、魔法少女というものについて考え直していきましょう」

 ――メ?

「考え直す、とは?」

「つまりはここについて改めて考え直していこうと思うの」

 と、影子はホワイトボードにマジックで何か書き始めていくメ。真面目な話だったらいいけど……。


『こんな魔法少女は嫌だ』

 ――メ。

 言ったそばからこれだ、メ。

 ちょっとでも真面目な会議をすると思っていた数分前の自分を殴りたいメ。

「……どういう意味だこれは?」

 海が当然のツッコミを入れるメ。

 影子は腕を組みながら、

「つまり、魔法少女というものについて、こうあるべきという固定観念は皆それぞれあると思うの。そこを一度統一して、皆の意識を擦り合わせる必要があると思ったのよ」

 それっぽいことを言っているようで、全く意味が分からないメ。てか、それでいきなり大喜利始めるあたりが影子クオリティだメ。

「はっはっは! 確かに、魔法少女としてふさわしくない姿を意見交換するのも大事だからな!」

 ――うん。

 物凄く強引な解釈をしているメ。流石兜クオリティ、筋肉で思考回路が圧縮されまくっているメ。

「では始めていきましょう。誰か意見はあるかしら?」

 影子が尋ねると、そっと海の右手が挙がったメ。。。

「はい、蒼条くん」

「……全員男だ」

 ――オイ!

 いきなり自分たちのアイデンティティをダイレクトに否定したメ!

「いきなり自分たちのアイデンティティをダイレクトに否定した!」

 そして影子はボクと全く同じツッコミをしたメ。なんだか影子と同レベルみたいで物凄く悔しいメ。

「そんなアイデンティティ、クシャクシャに丸めて犬にでも食わせてしまえ」

「私の研究をそんな風に言いやがって……。まぁいいわ、次!」

 影子がヤケクソ気味に怒鳴ると、今度は兜の右てが挙がったメ。

「はい、黒塚さん」

「魔法少女なのに、物理攻撃がメインだ」

 ――メ。

 ――だから。

「アンタも自分のアイデンティティを根本から否定すんなッ!」

「ううむ、正直魔法少女というからにはもっと魔法っぽいものを使ってみたいところなのだがな。今のところどうも物理主体な気がしてならんのだ」

「そんなの魔力的なもん使っとけば魔法少女になんの! アンタたちの場合はGODMSだけど」

 あぁ、もうメチャクチャだメ。グダグダにも程があるメ。

「大体、魔法少女など一口に言っても色々あるだろう。敵と戦ったり、歌ったり踊ったりと」

「だな。製作者が魔法少女だと言えばそうなるのではないか?」

「……そうよ。大体そんなもんよ」

 影子は肩で息をしながら、二人を睨みつけた。

「つまり、結論としては魔法少女というものは何でもアリ、ということだな」

 それでええんかメ。一度、古今東西に存在する全ての魔法少女たちに土下座したほうがいいメ。

「創作っていうのは本来そういうものなのよ。誰でも自由な世界を描き出せて、創造できる。現実だってそうあるべきだと私は考えるわ」

 良いことを言っているようで、単なる思考放棄だメ。この大喜利……、じゃなかった、この会議に結局何の意味があったんだメ。

「……時間の無駄だったな」

 ――全くもって同感だメ。

「つまり、その、何が言いたいかって……」

 言葉に詰まる影子。何も考えていなかったのかメ。しっかりしろメ。これはお前が始めた物語だろメ。

「うむ、要するに全員の意識を擦り合わせるのは難しいってことだな。俺たちは性格も年齢もバラバラ。共通しているのは女に変身して戦う男たちだってことぐらいだ。だからこそ、それらがひとつになったときに生み出される力は未知の可能性がある。そういうことだな!」

 脳筋が無理矢理この内容を圧縮したメ! お前、今までで一番活躍しているメ!

「そ、そ、そ、そういうことよ! バラバラのものがひとつになった瞬間、どういう力が生み出されるか分からないからこそ面白いのよ!」

「……何も考えていなかったクセに」

 海には見透かされていたようだメ。

「うるさい! とにかく、オトメリッサは五人揃わなければ意味がないのよ! だから、いい加減に不貞腐れていないで戻ってきなさい、黄金井くん!」

 そういって影子は――、

 部屋の隅っこのソファーに寝そべりながら耳をほじっている爪に向かって、呼びかけた。

「……あん?」

 っていうか、いたのかメ。全然気付かなかったメ。

「うむ、お前が桃瀬と仲直りすれば済む話だぞ」

「うっせぇ! ったく、呼び出されて来てみりゃ、しょーもないことずっと話し合いやがって。黙って聞いてりゃ、てめぇらさっきから俺を置いて面白そうなことしてんじゃねぇッ!」

 いや、参加したかったのかメ、このしょーもない大喜利に。

「全く、お前は本当にガキだな」

「あん!? ああ、どうせ俺はガキだよッ! わりぃかッ!」

 あまりの剣幕に、爪は立ち上がって部屋を出ていこうとするメ。

「メ……、爪……」

「何そんなにカリカリしてんのよ。そんなに、桃瀬くんが指名手配犯だったことが許せないの?」

「あったりめぇだろッ!」

 うぅん、頑固だメ。話を聞かないって感じだメ。

「そう、仕方ないわね……」

「もうこれ以上話すこともねぇよ。俺は帰る」

 そう言って、爪は部屋から出ていこうとするメ。

「待ちなさい、黄金井くん!」

「あん!? まだ何かあんのか!」

「来たんなら、このスーパーで投げ売りされていたあさりしぐれプリンパイ、持って帰りなさい!」 

 影子は紙袋を二袋、爪の前に差し出したメ。

 ――本当に買っていたのかメ。てか本当にあったのかメ。

「チッ……」

 爪はしぶしぶその袋を受け取って、バツが悪そうに部屋を出ていったメ。

「ふぅ、これでよし。あのパイ、処分に困っていたから助かったわ」

 ――やっぱ押し付けただけかメ。


 こんな調子で、本当にオトメリッサは元通りになるのかメ……。

 ボクは不安になりながら、爪の後を追いかけることにしたメ。

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