第30話 「蒼条海は聖夜に誓いたい③」
「ぺぺぺ、オラを倒すッペンか? 随分イキった奴ッペン!」
「イキっているのは貴様のほうだ。ゆるキャラの分際で随分でかい口を叩くな」
「ゆるキャラ? ぺぺぺ、ふざけるなと言いたいところだッペンが、なるほどなるほど。この見た目ならそう言われても仕方ないッペンな。そろそろオラの真の姿を見せてやったほうがいいッペン!」
――なんだ?
いきなりペンギンがいきなり全身を踏ん張り始めたぞ。まるでウンコでもするのかと思ったが、どうやらそういうわけではないらしい。
次第にエンペラーペンギンアクジョの身体が大きくなっていく。背がすらっと伸び、胸も大きくなっていく。人間の形になったかと思ったら、髪も伸びていく。
数分後、赤いサンタ服を着た、黒髪の女性がそこに現れた。眉が何故か麿のように太いが、顔は美人だ。そしてサンタ服のスカートの下からは、かろうじてペンギンの要素とも言える青黒い尻尾がはみ出している。
「だ、誰だお前?」
「ぺぺぺ、驚くのも無理はないッペン。これこそオラの真の姿だッペン」
いや、変わりすぎだろ。普通にこういうサンタ服着た女性とかどこかの売れないグラビアアイドルとかにいそうな感じだぞ。
俺はしばらく唖然となっていた。
「う、ん……、そうじょう、くん……」
――おっと、いけない。
早くしないと川辺や他の女性たちが危ない。俺は心を落ち着けて構えた。
「大丈夫だ、川辺。すぐに助けてやる」
俺がそう呟くと、川辺の瞼がピクピクと動いてゆっくり見開いた。
「そうじょう、くん……、じゃ、なくて、あなた、は……」
そうだ。今は川辺の目には蒼条海ではなく、オトメリッサ・マリンが映っているんだった。
「俺……、じゃなくて、私はオトメリッサ・マリン」
「まり、ん? そうじょうくんは?」
「あ、えっと、その……。頼まれたんだ、蒼条海に」
「えっ……?」
――逃げたと誤解させたか?
俺は一旦軽く咳ばらいを挟んで再び彼女を見た。
「いや、大丈夫。逃げたわけじゃない。私が彼を安全な場所に誘導しただけだ。そして、私がきっと君のことを守ってみせる。約束する」
俺がそう言うと川辺は安心しきった表情で、
「そっか、無事、なんだ。良かった……」
そう呟いて――、再び、目を閉じて意識を失った。
俺はしゃがんで彼女の頬にそっと触れた。大丈夫、どうやら気絶しているだけみたいだ。ほっと安堵のため息を吐くと、立ち上がって再びエンペラーペンギンアクジョを見据える。
この場から離れることはできない。となると、この場から攻撃するしかない、か。
「ぺぺぺ、話は終わったみたいだな。これでも喰らえッペン!」
エンペラーペンギンアクジョが大きな麻袋の口をこちらに向けた。するとそこから大量の卵が次から次へと俺のほうに発射されていく。
懐から一本のルージュを取り出し、自分の唇に塗った。
「マリンルージュ!」
艶めかしい青色のGODMSが俺の身体に集中していった。
槍の先端が八本に分かれ、自我を持ったかのように次から次へと卵に攻撃していく。一瞬で何発も発射された卵は地面に叩き落され、割れた。
「まだまだだッペン!」
更に卵が発射される。再び叩き落としていくが、まだどんどん発射されていく。
――このままじゃ埒が明かないな。
卵に攻撃するのが精一杯で、奴に攻撃を当てることができない。槍を投げる間もない。卵を飛ばしてくるスピードがあまりにも早すぎる。何とかして当てるタイミングを見つけないと。だが、そんな暇がない。
そう思っていた矢先、
「横がガラ空きだッペン!」
――マズい!
槍の攻撃を上手くすり抜けた卵の一球が、俺のほうへと向かっていく。
このままだと俺と川辺に当たってしまう。流石にこれを撃ち落とす暇はない。
「ぐっ……」
諦めかけていたその時、
「漢気大解放ッ!」
誰かの叫び声と共に、何かが卵を弾き落した。これは、葉っぱ?
ということは、もしかして……。
「オトメリッサ・リーフ、なのか?」
俺の目前に、緑色の髪のオトメリッサ――、オトメリッサ・リーフが葉っぱの盾を構えていた。
「大丈夫ですか、マリン!」
「あ、あぁ。しかし……」
何故ここにコイツが? 俺が戸惑っていると、
「ちょっと、僕たちもいるよ!」
「はっはっは! 待たせたな!」
「コイツが今回の闇乙女族か。ったく、また変な奴が来やがって」
ウイング、クロー、インセクトも現れた。
「どうしてここに?」
「どうしてもこうしても、やっぱり気になってついてきちゃった」
「ケッ、リア充どもばっかじゃんよ! あー、うぜぇうぜぇ!」
「ホントよ!」灰神の声も聞こえてきた。やっぱりお前もいたのか「なあに、彼女を守る騎士様気取っちゃってんのよ! あーあ、暑い暑い! 冬なのに暑い!」
――オイ。
俺は頭が痛くなってきた。要するにコイツらはつけてきたのか。
まぁ、結果オーライと言ったところか。みんなが揃ったこの状況ならば、勝てる見込みはある!
「ペ……、一人だけかと思ったら、ワラワラと湧いてきやがってッペン!」
「覚悟しろ! もう貴様に勝ち目はないぞ」
「苦戦していた癖に偉そうだね」
――やかましい。
「こうなったら……」エンペラーペンギンアクジョは歯を食いしばって、「逃げるが勝ちッペン!」
エンペラーペンギンアクジョは背後に逃げて行った。
「あっちのほうは行き止まり……」
「いや、違う!」俺はふとこの公園の構造を思い出した。「あそこにあるのは……」
俺が気付いた瞬間――、
ドボン!
と勢いよく音を立てて、エンペラーペンギンアクジョが海に飛び込んだ。
この公園が海に面していることを忘れていた。その上、奴はペンギンなので当然泳げるということを失念していた。くっ、と俺は苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべる。そんな単純なことに気が付かない自分に腹が立った。
「ちょっと、逃げちゃったよ!」
「このままだとマズいぞ! アイツを早く倒さないと、皆が……」
――そうだ。
あのまま逃がしてしまっていては川辺たちがエンペラーペンギンアクジョとなってしまう。
これ以上被害を拡大させないためにも、早く追いかけないと。
「でも、海の中……」
「問題ない。俺の漢気を大解放して、皆に共有すれば――」
「だけど! 今、海さんは……」
この場を離れることはできない。無理に動こうとすれば強烈な痺れに襲われる。他の四人に任せるのが適任だが、奴は強い。オトメリッサ・インフィニティゴドムスで一気に片を付けたほうが確実だ。
こうなったら、ひとつしかない。
「追いかけるぞ!」
「でも……」
「関係あるか!」
俺は川辺から離れた。
ビリッ、と痺れが全身に迸る。正直、一歩でもかなり辛い。
だが、関係あるか! 俺は一歩、更に一歩、海のほうへと追いかけていった。
「蒼条くん!」
「灰神……、川辺のことを頼む! 漢気、大解放ッ!」
俺は漢気を大解放して、一気に海へと飛び込んだ。
「こ、根性……」
「海さん、いつも根性論は嫌いって言っていませんでしたっけ?」
「なぁに、奴も漢だ。時には根性を見せなきゃいけないときもあるもんだ! それよりも、俺たちも行くぞ!」
そう言って他の四人も海に飛び込んでいった。
水中は夜だから薄暗い。漢気を大解放したところでそこは変わらない。
俺は全身の強烈な痺れを堪えながら、水中を進んでいった。
しばらく泳いでいくと、見たような赤い帽子が見えた。薄暗いが、奴の赤い服が幸いして目立っている。
「ぺぺぺ、ここまで来たら、もう大丈夫……」
「ほう、何が大丈夫なんだ?」
「ペ……、まさか!」
エンペラーペンギンアクジョは俺のほうを見た。流石に奴も素っ頓狂な表情に切り替わって、顔を引きつらせた。
「な、な、な、な、なんで! 痛くないのかッペン!」
「痛いさ。凄く、な……」
ふっと強がる笑みを見せて、奴を威圧した。
これ以上、進むことは辛い。ここで奴を仕留めるしかない!
「おーい、海さん!」
奥の方から桃瀬の声が聞こえてきた。どうやら皆一緒みたいだ。
「ったく、遅いぞ!」
「うるせぇ! お前こそ身体がキツそうだぞ!」
「無理だけはしないでくださいよ」
「よし! ここまで頑張った蒼条のためにも、いっちょやるぞ!」
そういって、
俺たちはルージュを手に持ち、上方へと掲げた。
「や、やめるッペン!」
「「「「「漢気、超解放ッ!」」」」」
ルージュに俺たちのGODMSが、まるでレンズに太陽光が集まるかのに一同に集まっていく。
そこから一気に、俺たちはルージュをエンペラーペンギンアクジョに向けた。
「「「「「オトメリッサ・インフィニティゴドムスッ!」」」」」
集まったGODMSは大きな矢へと変化していった。
俺たちは更に、力を振り絞った。
「ぐああああああああああああああッ!」
「はあああああああああああああああああッ!」
やがて、GODMSの粒がルージュから放たれて――、
「あああああああああああああ! クリスマスなんて、だいっきらいだッペンンンンンンンンンンンンンンンッ!」
エンペラーペンギンアクジョを貫き、影も形もなく消滅していった。
「や、やった、みたい、だな……」
疲れた。
身体の痺れは消えたが、体力はかなり消耗したみたいだ。
「海さん!」
「無茶しやがって……」
――あぁ、本当にそうだな。
疲れ切った身体を波に任せて、俺はそのまま、気を失ってしまった――。
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