第27話 「桃瀬翼はハロウィンを楽しみにしている④」
『メメメ! 大丈夫かメ!』
ブレスレットからメパーの通信が入った。多分、今までの会話も筒抜けだっただろう。
「大丈夫じゃないよ……」
『また先走って捕まったのかメ! 全く学習しないメ!』
「いや、今回は催眠を掛けられて……」
『言い訳無用だメ!』
メパーに怒られた。うぅ、面目ない……。
「あ、でもこっちの世界と通信できるんだな」
そういえば、確かに――。
別空間とは言っていたけど、どうやらあっちのほうにいるメパーと通信することができるみたいだ。どういう理屈かはさておき、としておこう。
「だったら他のみんなを呼んで……」
「無駄ですよ」パンプキンアクジョが間に入ってきた。「この空間に来られるのは悪しき心と漢気を持った者だけです。見たところ他のオトメリッサの方々は漢気はあっても悪しき心はそこまで持ち合わせていないようですね。残念ですが、それではこちらに来ることはおろか、あの馬車を見ることすら叶いません」
――うっ。
どうやらダメみたいだ。相手はかなりオトメリッサのことを調べているらしい。
「だったらオトメリッサじゃなくていいから、漢気があって悪いことやってる奴を誰か呼ぶしか……」
「そんな奴いるわけねぇ……」
――はっ。
僕はふと、気が付いた。
「いるね」
「いたな」
『いるメ』
三人とも、同じ人物を思い浮かべたみたいだ。
「おい、急いでアイツ呼べッ!」
『メ……』
僕らのやり取りを見て、パンプキンアクジョは怪訝な顔を浮かべた。
「漢気と、悪しき心を持ったお方? まさか、あなた方のお仲間にはもう……」
「それがいるんだよねぇ」
僕は笑った。そして、爪くんもほくそ笑んだ。
「残念だったな、結構俺らのことをリサーチしていたようだが、不十分だったようだな」
「ありえません、わたくしの調べが不十分だったなどと……。そんなハッタリが通用すると思いまして!?」
『ハッタリじゃないわよ』
ブレスレットから声が聞こえてきた。
「意外と早い到着だったね」
『全く……、メパーに呼ばれて裏路地に行ったら変な馬車があるわ、それに近付いたら急に眠くなってこんなところに来させられるわ……。まぁ、おおむねあなたたちの報告通りなんだけど』
「流石、やっぱ来ると思ったぜ」
うん、きっと来てくれると信じていたよ、影子さん。
彼女は以前、僕らが捕まっている間にオトメリッサとして戦ってくれたことがある。そこまで長い時間は持たなかったけど、それなりの漢気は持ち合わせている。
それに、悪しき心だって……、
「何せ、前科持ちだもんね」
『あれは冤罪でしょうがッ! しかもあんたたちのせいでッ!』
通信先の影子さんが怒鳴った。
「じゃあなんでこっち来れてんだよ」
『知らないわよ、そんなこと!』
『メ……。そんなことより早く助けにいくメ、影子ッ!』
メパーが急かすと、影子さんは「やれやれ」と呟いた。
『まったく、仕方のない子たちね』
「あ、でもまだ城の中には入らないで。どこかにこの空間を壊す突破口とかないか探して……」
『ふーん。まぁ大体見当はついているけどね』影子さんはため息を挟んだ『ここはどうやらシンデレラ城みたいね。ってことは魔法を解くカギなんてひとつしかないでしょ』
『もったいぶらずに早く動くメ』
『ふふふ、こんなこともあろうかと思って持ってきた物があるのよ』
「持ってきた、物?」
何だか嫌な予感がした。
『テレレレッテレ~! あーす・ぶれいく・ぼむうううううううううううううッ!』
突然影子さんは声色を濁声に変えて叫んだ。
通信からじゃ何を取り出したのかはよく分からないけど、それってまさか……。
「って、オイてめぇッ! それってヤバい奴だろ色んな意味で!」
『ウフフフフ、大丈夫、威力は数憶分の一くらいに抑えてあるのさ』
「つーかそれただの爆弾じゃねぇかッ! あとさっきからモノマネ全然似てねぇッ!」
あー、これモノマネだったのか。多分あの猫型ロボットの――。
とか考察している場合じゃない。
「ええい、急いで表に迎いなさい! ドロオトメたち!」
「ドロ……」
騎士の恰好をしたドロオトメたちが一斉に部屋の外へ飛び出していく。
『遅いわよッ! テレレッレテレ~! ばんぶーコプター!』
またしても濁声で何か叫んだ。色々ヤバい道具を取り出したことは理解できる。
「分かった。そういうパチモンをやたら平然と造っているからこっち来られたんだ」
――うん、納得した。
ていうか、普通に爆弾とか所持していたもんね。そりゃあ悪しき心として認識されるよ。
『メ……、空を飛んで何をする……』
『決まっているでしょッ!』何やらブーンという鈍い音と共に、影子さんが叫ぶ『あの大きな時計をぶっ壊すのよッ!』
「なっ、そ、それだけはやめ……」
パンプキンアクジョが唐突に狼狽えだした。
なるほど、そういうことだったのか――。
『さぁ、行くわよ! ゆーめのばっくだん、うっちあっげろおおおおおおおおおおおッ!』
またもや色々アウトな歌と共に――、
どごおおおおおん、と大きな音がブレスレット、そして、城の外から同時に鳴り響いた。
「ああああああああああああああああッ! わたくしの、城がああああああああああああああああああああッ!」
突如――、
ガラスが粉々に瓦解するかのように、周囲の景色が崩れていった。
キラキラした破片の光が落ち着くと同時に、先ほど見た裏路地の景色が僕たちの目前に広がった。
あと、僕たちを縛っていた蔦もいつの間にか解けていた。
「わ、わわわわわ、わたくしの、城……」
放心状態になっているのか、パンプキンアクジョは頭を抱えている。仮面越しだから分からないけど、多分あの下は目が真っ白になっているに違いない。
「おおい、お前ら!」
向こう側から誰かの声が聞こえてきた。あれは、黒塚先生の声だ。
「だ、大丈夫でしたか!?」
「一体何があったんだ!?」
葉くんと海さんもやってきた。
「んー、色々あったからどこから話せばいいのか……」
「説明している暇はねぇよ」爪くんはアイコンタクトでパンプキンアクジョのほうを見据えた「とりあえずアイツを倒すぞ。アイツが今回の騒動を引き起こしていた闇乙女族だ」
「う、うむ……」
他の三人は混乱気味に怪訝な表情を浮かべている。
とりあえず僕たちはブレスレットを掲げた。
「オトメリッサチャージ・レディーゴーッ!」
強い掛け声と共に、それぞれのブレスレットから淡い光が溢れ出していった。
そして、身体がどんどん柔らかく、胸もそれぞれに合った大きさに形成させていった。
爪くんは黄色い光が消えると、上下に分かれたセパレート状の衣装を纏ったツインテール少女に――。
海さんは青い光が消えると、白と水色のスカートが付いたレオタード状の衣装を纏ったサイドテールの少女に――。
葉くんは緑色の光が消えると、緑色のチューブトップ状の衣装にストールを羽織ったポニーテールの少女に――。
黒塚先生は黒い光が消えると、黒いチャイナドレス状の服を着たショートヘアの少女に――。
そして、僕はピンクの光が消えると、白とピンクのセーラー服状の衣装を着たロングヘアの少女に――。
それぞれ変身していった。
「未来への翼、オトメリッサ・ウィング!」
「悪を切り裂く爪、オトメリッサ・クロー!」
「溢れる知識の海、オトメリッサ・マリン!」
「癒しの草花、オトメリッサ・リーフ!」
「力の甲虫、オトメリッサ・インセクト!」
「魔法少女、オトメリッサ! 参上!」
「奪われた漢気――」
「取り戻させていただきます!」
僕たちは思い思いのポーズを取った後、ビシッと相手に向けて指をさした。
「よぉし、もうこうなったらインフィニティゴドムスで一気に片付けるよ!」
「えっ……、いきなり?」
「おい、あれ使ったらまた真っ裸に……」
「それなら心配ご無用」
影子さんが僕たちに向けてルージュを手渡してきた。
「これは……?」
見たところ前と大してルージュに変わった様子はない。
「きちんと改造しておいてあるわよ。これなら前みたいなことにはならないから安心して」
「ホントだろうな?」
ファングは訝し気に影子さんを睨む。
「だ、大丈夫だって! 天才の私を信用しなさい!」
――本当かな?
僕も段々自信がなくなってきた。何せ影子さんだからなぁ……。
とはいえ、ここまできたら一気に片を付けた方が手っ取り早いし、インフィニティゴドムス使って決めてしまいたい。
――うん。
まぁ、いっか。裸になるぐらい。
「いくよ、みんな!」
僕が高らかに叫ぶと、
「おう!」
「……しゃあねぇな」
「致し方あるまい」
「……前みたいなことになりませんように」
そんな思い思いの気持ちを呟きながら、
僕たちはルージュを空に向かって、大きく掲げた。
「「「「「漢気、超解放ッ!」」」」」
ルージュに僕たちのGODMSが、まるでレンズに太陽光が集まるかのに一同に集まっていく。
そこから一気に、僕たちはルージュをパンプキンアクジョに向けた。
「「「「「オトメリッサ・インフィニティゴドムスッ!」」」」」
集まったGODMSは大きな矢へと変化していった。
僕たちは更に、力を振り絞った。
「ぐああああああああああああああッ!」
「はあああああああああああああああああッ!」
やがて、GODMSの粒がルージュから放たれて――、
「あああああああああああああ、私の、私の舞踏会がああああああああああああああああああああああああああッ!」
パンプキンアクジョを貫き、影も形もなく消滅していった。
――ふう。
ようやく、倒せた。
「よくやったわ、オトメリッサたち」
影子さんは変身の解けた僕たちを見て、にこやかな笑顔を向ける。
周囲の砂埃が晴れていく。
みんな、元のハロウィン仮装姿に戻っている。良かった、今回は服が消えるようなことはなかったみたい……。
――あれ?
「おい、影子」
「ダメじゃないですか」
「なぁにが天才だ、てめぇッ!」
そういえば……。
僕の身体だけスースーする。さっきまでドレスのゴワゴワした感じが全くしない。
――あぁ、そうか。
「僕だけ、また服が消えたみたいだね」
胸元を見ると、またもや肌色一色だ。
「うーん、改良を加えたつもりだったんだけどねぇ。まだ足りないみたいね」
「そうですね……。次は服消えないように頼みますよ」
「改良できるように検討を加速しておくわね」
「いや、すぐ改造しろッ! ってか冷静にやり取りしている場合かッ! 急いで服持ってこい、服ッ!」
爪くんが照れながらメパーに指示をする。
「あ、メパー。念のためにもう一着拵えたドレスがあるから、それを持ってきてね。で、それを着たらまたハロウィンフェスに戻りましょう」
「……その前にアンタはまた警察に行くか?」
「いやいや、これは不慮の事故だからさ、ねッ!」
「……うぅ、まだこんな戦いが続くんですか?」
「はっはっは! まだまだ俺たちの戦いは終わらない、ってやつだな!」
何だかんだで大団円、って感じになってきたみたいだ。
やれやれ、と僕はため息を吐いた。
――そういえば。
『この空間に来られるのは悪しき心と漢気を持った者だけです。見たところ他のオトメリッサの方々は漢気はあっても悪しき心はそこまで持ち合わせていないようですね。残念ですが、それではこちらに来ることはおろか、あの馬車を見ることすら叶いません』
パンプキンアクジョが言っていたあの言葉をふと思い出した。
あそこに入れるのは漢気と悪しき心を持った者だけ――。
漢気はともかく、何で僕はあの空間に入ることができたんだろう?
「悪しき、心?」
――記憶を失う前に何かやったのかな、僕?
そのことだけが少々心の中で引っ掛かりつつも、
「まぁ、いっか」
その一言で片づけてしまう僕であった。
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