第18話 「桃瀬翼とオトメリッサどもは新しい力を見せつけたい」

 ついに戻ってきましたよ、僕たち。

 いやぁ、長かったな~。作中の時間としては一日ぐらいしか経っていないけどさ。

 影子さんが四話分も語りで頑張ってくれた分、ここからは僕たちが巻き返していかなきゃね。


 っと、メタ発言はここまでにして……


 僕たちは武道館を襲ったルビラと、岡田さんが変えられたホークアクジョ、そして一応ゴミウン以下略もどきのダークメリッサ? だっけ? アイツらの元へ戻ってきた。

 その間、影子さんがなんとか足止めしてくれたおかげで、無事に時間を稼ぐことができて――、


「魔法少女、オトメリッサ! 参上!」

「奪われた漢気――」

「取り戻させていただきます!」


 僕たちは再びオトメリッサに変身をして、奴らと対峙をした。

「ふふふ、ふふふっふふふうふふふふふふふふ」

 なんかルビラは気が狂ったように笑っている。

「さて、覚悟しておけよ」

「あーっはっはっは! ナメんじゃねぇよクソオスどもがッ! 我ら高貴な闇乙女族の真の底力、思い知らせてやるわよォォォォォォォォォッ!」

 半狂乱になったルビラの高笑いと共に、地面の土がどんどん盛り上がってくる。と同時に、その姿は女性のような、それでいて顔はのっぺらぼうのように無機質な物体に変わった。

「シャドロウ……」

「シャドロウ……」

「シャドロウ……」

 次から次へと現れる。その数、十や二十どころじゃない。多分、五十……それ以上はあるだろう。

「いくらあなたたちでも、この数を相手にできるかしらぁッ!?」

 ――はぁ。

 なんか本気を出したかと思ったらこれか。

「ドロオトメを増やしたところでなぁ……」

「算数もできないようだな。ゼロに何を掛けてもゼロだということを知らないのか」

「神聖な武道館を肥溜めにする気? やめてよね」

 僕たちは思い思いに悪態を吐いていく。

「ほざいていられるのも今のうちだ……」

「ちょっと、アナタたち。本当に大丈夫なの?」

 影子さんが心配そうにこちらをみてくる。

「はっはっは! 心配するなッ! 俺たちだって、捕まったとはいえ手ぶらで帰ってきたわけじゃないぞ! きちんと土産も持ってきたから安心しろ!」

 兜さんが落ち着いた様子で影子さんに話した。

「それじゃあ、みんな!」

「おう!」


 そう言って、皆は一斉に右手を上空に掲げた。


「「「「「漢気、解放ッ!」」」」」


 それぞれの手にGODMSの粒が集中して、やがて各々の武器に変化していった。

「と、そして僕は……」そう言って僕は目を閉じて、「漢気、大解放ッ!」

 GODMSの粒は今度は僕の背中に集まる。そして、やがて大きな鳥のような羽へと変貌していく。

 僕だけじゃなくて、他の皆も同様に――。

「おっ! 俺にも羽が!」

「うん! 折角みんなに共有できるんだし、有効活用しないとね!」

 そう、あのカプセルから脱出したときのように、みんなの背中にも羽を生やすことが出来た。

「へっ、だったら俺もッ!」爪くんが同じように目を閉じて、「漢気、大解放ッ!」

 またも全員に、GODMSの粒が集中していく。

「……何も変わった感じがしないようだが」

「今のところはな。だが、短時間だけならスピードが上がるぜ」

「なるほどッ! そいつぁいいッ!」

 うん、これなら勝てるッ!

 僕たちの戦闘態勢が整い――、

 待っていましたと言わんばかりにドロオトメたちが一斉に僕たちのところに飛び掛かってきた。

「シャドロウッ!」

 五体ほどのドロオトメが僕に殴りかかってきたが、


 ――ひゅん!


 と僕は特に何もなく上空へ飛び上がった。

 僕だけじゃない。他の皆も背中の羽で虚空へと舞い上がっている。

「飛べたからなんだっていうのよ!」

「そんじゃ、そろそろアレやりますかッ!」

 上空で兜さんが合図を出すと、爪くん、海さん、葉くんが揃って頭を抑えた。。

「……やっぱアレ使うのか」

「仕方ないけど、一気に片付けるには使うしかないよね……」

「ええい、こんちくしょう!」

 兜さんを除いた他の三人は渋い顔を浮かべながら、ブレスレットを掲げた。

 GODMSがブレスレットに集まっていく。

「一体、何をするつもりなの……?」

「まぁ黙って見てくださいな」

 僕は地上の影子さんににっこりとアイコンタクトを送った。

 しばらくすると、ブレスレットに集まったGODMSが何か小さいものに変化していった。

「あれは……」

「口紅、メ?」

 小さい筒状の物がみんなの掌にすっぽりと収まっている。

「……何で口紅なんだろうな」

「知らないけど……、やっぱり使うのがちょっと恥ずかしいかも」

「うむ……。まぁ、リップクリームみたいな物だと思えば」

「女になった今となってはどうってことない、か……」

 あぁ、もう! 今すっごい良い場面なんだからゴチャゴチャ話している場合じゃないよ!

「はっはっは! だったら俺からいくぞ! インセクト・ルージュ!」

 そう言って、兜――オトメリッサ・インセクトはその口紅を塗った。

 黒光りする艶やかな色合いと共に、周囲にGODMSが集中していく。武器である拳の周りにどんどん集まっていく。

「漢気奮発ッ! 蜘蛛スパイダー!」

 インセクトの掛け声と共に、GODMSが糸状へ変化していく。指先から放たれたその糸は、地上にいるドロオトメたちの身体に絡まっていき、

「ドロッ⁉」

「うおりゃあああああああああッ!」

 インセクトが引っ張り上げた後に思いっきり地面に叩き落とした。

 数体のドロオトメと、インセクトもどきのダークメリッサは声もなく土へと還っていく

「あれは、一体……」

「はっはっは! どうだ見たことか!」

「な、貴様……」

「だったら次は僕の番! リーフルージュ!」

 今度は葉くん――オトメリッサ・リーフが口紅を塗る。

 淡い緑色の艶やかな色合いと共に、またもGODMSが集中していった。

「漢気奮発ッ! 蒲公英ダンデライオン!」

 リーフの掛け声と共に現れたGODMSが次々とタンポポの綿毛に変化していく。ゆらゆらと地上に降り注いでいき、そして――、ドカン、と音が鳴り響いた。

「ドロッ!」

 というドロオトメたちの無様な断末魔と共に、爆発していく。

 地上のドロオトメ、そしてリーフの姿をしたダークメリッサもその爆発と共に土へと還っていった。

「あなたたち、これは一体……」

「次は俺だッ! マリンルージュ!」

 そう叫びながら海さん――オトメリッサ・マリンが口紅を塗った。

 艶めかしい青い色の色合いと共に、再びGODMSが集中していく。

「漢気奮発ッ! オクトパス!」

 マリンの掛け声と共に手に持った槍がどんどん伸びていき、八股に先端が別れていく。更にその先端が伸びて、まるで槍が自我を持ったかのように次々と地上のドロオトメたちを攻撃していき――、

「ドロッ!」

 そして、ドロオトメと、マリンの姿を模したダークメリッサも槍の攻撃にやられて土へ還っていった。

「ぐぐぐ……貴様ら、いつの間にそんな力を……」

「蜘蛛、蒲公英、蛸……。これって貴方たちが今まで戦った闇乙女族の……。まさか!?」

「そっ。いやぁ、僕たちが捕まっていたあの部屋を物色していたらさぁ、なんか棚の中に今まで戦っていた闇乙女族の遺伝子サンプルが見つかったんだよねぇ。それが上手いことブレスレットと反応しちゃってさ。その力をなんとか引き出せそうなものないかな~って思っていたら、化粧台のところに口紅があるじゃん。それを使ってパワーアップアイテムとして勝手に作らせてもらったよ」

「なッ⁉」ルビラが目を丸くして驚いている。「貴様ら、あの部屋を勝手に漁ったのか……。大体、棚には鍵を掛けておいた――」

「あ、なんかテキトーにピッキングしたら開いた」

 と、僕が教えてあげるとルビラは、

「貴様ら……、大事な遺伝子サンプルと口紅を……」

「ちなみに、アイテムを作ったのはなんと! 黒塚さんです!」

「はっはっは! 伊達に化学の教師やっているわけじゃないからな!」

「知ったことかあああああああああッ! 絶対に、絶対に許さんぞおおおおおおおッ! このドロボウどもがああああああああああああッ!」

 けたたましい叫びが、周囲に響き渡った。

「るせぇなぁ、人様の漢気奪っている奴が偉そうなこと言ってんじゃねぇよ」

「うーん、これってもっと驚く場面じゃない? 絶対みんな体育の先生だと誤解していただろうに……」

「ふむぅ、ここまで反応が薄いと複雑な気分になるな……」

「複雑な気分はこっちだっての!」爪くんが目を細めて睨みつける。「テンポが崩れたけど、いい加減俺もやらせてもらうぜ!」

 そう言って、爪くん――オトメリッサ・クローも口紅を塗った。

 鮮やかな黄色い色と共に、彼の周りにGODMSが集中していった。

「漢気奮発ッ! タイガー!」

 爪くんのGODMSは彼の身体を包み込んでいき、黄色い光を放った。

 ――ひゅんッ!

 一瞬のうちに、彼は上空から地上へと舞い戻っていく。

 と思いきや、

「ドロッ!」

 地上にいたほとんどのドロオトメ、そしてクローの姿を模したダークメリッサも土へ還った。

「オトメリッサ……、これ以上、好き勝手にはさせない」

 ホークアクジョが睨みつけながら、上空へと舞う。

 クローは相手をしっかり見据え、はぁ、とため息を吐いた。

「てめぇの相手は……、俺だッ!」

 ――ひゅんッ!

 再び空を切り裂く音が聞こえたかと思うと、いつの間にかクローは上空に舞い上がっている。

 と思った瞬間、既に彼はホークアクジョの背後にいた。

 そして……、

 薙ぎ払った剣を、静かに鞘に戻していた。

「ぐ、ぐぐぐぐぐぐ……」ホークアクジョがけたたましい声を挙げ、「ぐああああああああああああああああああああッ!」


 一瞬のうちに、地上へと落ちていった。


「……すまんな、岡田」 

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