第17話 「灰神影子はオトメリッサたちに後を託したい」
来てくれた……。
これは見間違いなんかじゃない。
絶体絶命のピンチかと思ったその矢先に――。
「メ……、みんな本物か、メ?」
「あぁ、正真正銘本物だ」
「影子さん、メパー……。頑張ってくれたんですね。ありがとうございます」
――こんな。
――こんなことって。
「あなたたち……」
「はい……」
私は感極まって、
息を大きく吸い込んで、
顔をしっかり見つめて――、
「よおおおおおおおおっくもノコノコ帰ってこれたわねえええええええッ! ていうか、いきなり敵の本拠地に殴りこみに行く奴があるかああああああああッ!」
アイツらの鼓膜を破ってやるくらいの気持ちを込めて、大声で怒りを露わにした。
「いやぁ、あはははは……」
「とっとと片付けたかったし……」
「レポート……」
「水族館の約束……」
「バスケ部の試合が……」
――全く、コイツらは。
と、そんなことをしている場合じゃなかった。
桃瀬くんはじっと目の前にいる闇乙女族のほうを見つめている。その中には先ほどのダークメリッサたちも含まれている。
「それにしても、あのダークメリッサたちは一体誰なんだメ……」
「あぁ、あれはだね……」
と、桃瀬くんは瞳を尖らせて、不敵な笑みを浮かべると――、
ダッ、と素早い動きでウィングの姿をしたダークメリッサのほうへ駆け出した。そのまま素早く、相手の鳩尾に一発、拳を思いっきり入れる。
その瞬間、ザァ、っという音を立ててダークメリッサは崩れ去った。
「これは一体……」
「見ての通りだ。コイツらは俺たちの姿をした、ただのドロオトメだ」
「ったく、俺たちの劣化コピーなんざ作りやがって」
「ホント、ウンコで僕たちを作るとか失礼にも程があるよね」
――なるほど。
ようやく私は合点がいった。話を聞く限りだが、彼らが入れられたというカプセルは彼らのDNA情報を吸いだすためのものだったのだろう。より精巧なコピーを造ろうとしたのだろうけど、所詮ベースがドロオトメだから一発殴られれば崩れ去るぐらい脆いわけで。
――だったら戦えばよかった。
力を使い果たしたとはいえ、ドロオトメ程度の雑魚だと分かっていればとっとと倒すことが出来たのではないか……。
と、今更後悔しても遅い。
「ぐっ……」
流石のルビラも物凄く悔しそうな表情を浮かべている。これこれ、この顔が見たかったのよ。いい気味だ、と私は嫌味ったらしく笑い返してやった。
「それにしても、一体どうやってあのカプセルを脱出したメ?」
「そ、そうよ……。貴様らは私の毒で麻痺させたはず……」
「あぁ、あれ?」桃瀬くんはドヤ顔で、「いやぁ、ホントに危なかったよ。だけど、みんなのおかげで助かった~」
「みんなの、おかげ?」
「そうそう、まずは葉くんがね……」
そう言って桃瀬くんは緑山くんに視線を送った。
「僕が漢気大解放で作る葉っぱの盾……、あれ実は周囲の人たちを回復させる力があるみたいなんです」
――なんですって。
「そういうこと。確かに麻痺させられた直後は立つことも出来なかったけど、なんかあっという間に回復しちゃったってわけ」
そういうことだったのか。納得した。
私も彼らの力を完全に把握しきれていない。あの盾にそんな効果もあったのか。
「だ、だが……。確かにあのカプセルに入れたはず……」
「ふっ、それも教えてやろう、愚か者め」今度は蒼条くんが口を出してきた。「俺の漢気大解放した能力は知っているな」
「う、うん……。水の中で自在に動けるようになる力でしょ?」
「俺はあの中で気絶したフリをしていただけだ」
「なっ……」
あの一瞬で、漢気大解放したというの?
「勿論、俺だけじゃない。ここにいる全員、あのカプセルの中で意識を失った演技をしていただけに過ぎない」
「まぁ、このアホはずっとグースカ寝ていたけどな」
黄金井くんが桃瀬くんを呆れるように睨むと、桃瀬くんは「てへっ」ととぼけた表情を浮かべる。
「でも、蒼条くんはともかく、他の四人はそんなことが……」
「あれ? 知らなかったんですか?」
「知らなかったって、何が?」
私が尋ねると、桃瀬くんは眉間に皺を寄せながら、
「大解放した漢気の力、短時間だけなら僕らで共有できるんですよ」
――えっ?
――なっ?
「なんですってええええええええええッ!?」
本日何度目のなんですってえ、になるだろうか。
「……その様子だとマジで知らなかったみたいだな」
「ま、僕らもなんとなくやったら出来た感じだったもんね」
そんなノリで私が知らなかったことをやってのけたのか、コイツらは。
自分への情けなさと、彼らの底知れぬ行動に私は段々頭が痛くなってきた。
「で、今度は俺の出番ってわけだ」黒塚さんが口を挟んできた。「俺も同じように、漢気を大解放してみんなに共有した。んで、ルビラたちがいなくなった隙を見計らって思いっきりの馬鹿力であのカプセルの蓋を開けて脱出した、ってわけだ!」
「ったく……。あの液体マジで臭かったから死ぬかと思ったぜ」
――そういうことか。
気が付くと、私は笑っていた。力を使い果たした脱力感とは別の、よく分からない脱力感に襲われていた。
「本当に、アンタたちって人は……」
「えへへ……」
桃瀬くんは微笑んだ後、再びルビラのほうを睨みつけた。
「な、なるほど……。なかなかやるわねぇ。流石魔法少女と言うだけのことはあるわね」
ルビラが皮肉めいた台詞を吐き出してくる。が、額から垂れている汗から、余裕がないことは良く分かる。
「アンタに魔法少女の何が分かるんだよ」
「魔法少女、魔法少女……、まぁ、魔法少女! かわいそうに! キャラクターの変身アイテムの販促のために生みだされ、小さな子どもの親御さんの目を気にしながら萌え豚どもに媚びなければならないなんて大変よねぇ」
「いや、僕らは――」
「ですよねぇ、すぐにおやめなさい。闇乙女に繋がることができますよ――」
――何を突然言い出したのやら。
私は呆れて物も言えなかった。
「あ、お断りします」
ナイス、桃瀬くん! あっさりと断ってくれた。
「……脱出したからって、調子に乗るなよ小僧ども」
ルビラの口調が段々乱暴になっていく。これが彼女の本性なのだろう。
「あっれー、怒っちゃった?」
「てめぇこそ、ナメた真似しやがって。女だろうと容赦はしねぇ。本気でぶっ潰してやんよ!」
「俺たちの邪魔をした報いは受けてもらうぞ。貴様が思っている以上の恐怖でな!」
「植物たちは教えてくれたよ。『自分のルールは自分で作れ。そして、そのルールはしっかり自分で責任を取れ』ってね」
「はっはっは! そういうわけだ! こっからは俺たちのルールで行かせてもらうぞ!」
――みんな。
「どうやら、私の視点でストーリーを進めるのはここまでのようね」
「このタイミングで唐突なメタ発言ですね」
「後はあなたたちに託すわよ、オトメリッサ!」
私はようやく立ち上がった。
そして、しっかりと彼らを見据えて、「うん」とアイコンタクトを送った。
「それじゃあ、みんな、いくよ!」
「おう!」
「ふっ!」
「うん!」
「押忍!」
「オトメリッサチャージ、レディーゴーッ!」
強い掛け声と共に、それぞれのブレスレットから淡い光が溢れ出していった。
そして、身体がどんどん柔らかく、胸もそれぞれに合った大きさに形成させていった。
黄金井くんは黄色い光が消えると、上下に分かれたセパレート状の衣装を纏ったツインテール少女に――。
蒼条くんは青い光が消えると、白と水色のスカートが付いたレオタード状の衣装を纏ったサイドテールの少女に――。
緑山くんは緑色の光が消えると、緑色のチューブトップ状の衣装にストールを羽織ったポニーテールの少女に――。
黒塚さんは黒い光が消えると、黒いチャイナドレス状の服を着たショートヘアの少女に――。
そして、桃瀬くんはピンクの光が消えると、白とピンクのセーラー服状の衣装を着たロングヘアの少女に――。
それぞれ変身していった。
「未来への翼、オトメリッサ・ウィング!」
「悪を切り裂く爪、オトメリッサ・クロー!」
「溢れる知識の海、オトメリッサ・マリン!」
「癒しの草花、オトメリッサ・リーフ!」
「力の甲虫、オトメリッサ・インセクト!」
「魔法少女、オトメリッサ! 参上!」
「奪われた漢気――」
「取り戻させていただきます!」
全員の名乗り口上と共に、オトメリッサどもが姿を現した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます