第10話 「妖精メパーは彼らを信じている、けど……」

 たたたたたたたたたたたたた、

「大変だメェェェェェェェェェェェッ!」


 こんなことになろうなんて思ってもいなかったメ!

 急いで影子に知らせないとメ!


 ボクは急いで武道館へ向かって飛んでいったメ。

 はぁ、はぁと息を切らしかけていたところ、ようやく目的の大きな建物に着いたメ。市民からの税金を叩いて建てたという武道館は、この街でも一際目立つから間違いないメ。

 武道館の門の前に、影子の姿が見えたメ。いつもの薄汚い白衣を着回しているから間違いないメ。てか、こんなところでその恰好はかなり目立つメ。

「メエエエエエエエエエエエッ!」

 ボクは影子に向かって大声で呼びかけたメ。

「メパーッ!? アンタ、昨日から見かけないと思ったらどこに言っていたの!?」

「メ! 実は、オトメリッサたちが……」

「そうよ、それよそれ! アイツら全員、ボイコットしやがったんだけど! あれだけ昨日言ったのに、あの流れなら普通心を入れ替えて『待たせたな』とか言いながら五人揃うのが王道ってもんじゃないのッ!?」

「メェ……」

 影子は怒っていたメ。当然だといえば当然だけど……。

「ホンット、ありえない‼」

 なんだか段々デートにすっぽかされた彼女みたいに見えてきたメ。

 ボクはため息を吐いて、

「影子……。実は彼らにも事情があるんだメ……」

「あん? アンタ、何か知っているの!?」

 影子の目がどんどん怖くなってきたメ。これは正直に話さないと後が怖いメ……。

「メ……。実は……」

 ボクはこれまであったことを正直に話すことにしたメ。



 皆が解散した後、ボクはこっそり抜け出したんだメ。

 こんな状況で、果たして皆はやってくるのか……。どうしても不安になったんだメ。

 特に気になったのが、桃瀬翼――オトメリッサ・ウイング。さっきは気丈に闇乙女族と戦うと言っていたけれど、それが果たして本心なのか。そして、彼は一体何者なのか。メンバーの中で一番素性が分からないから、こっそり後をつけていったんだメ。

 夕暮れの町を抜けて、しばらく進んで行くと、大きなホテルの前で翼は立ち止まったんだメ。

「はぁ……」

 彼は中に入っていこうとしたんだメ。

「つばさあああぁぁぁぁぁッ!」

「……ん? おや、メパー?」

 翼は僕に気付いて振り返ったんだメ。

「気になってしまってついてきたんだメ。それにしても、ここに泊まっているメ?」

「あぁ、うん。記憶がないからさ、行く当てがなくて……」

「お金はあるメ?」

「あぁ、それは大丈夫。最初はないと思っていたんだけどさ、なんかポケットにペンダントが入っていて、それを売ったら凄いお金になったんだよね」

 そう言って財布を取り出す翼。

 メ……、確かにそこにはずっしりとお札が入っていたんだメ。翼って一体何者なんだメ?

 ボクと翼はホテルにチェックインして、そのまま部屋に入っていったんだメ。翼はベッドに横になるなり、ふぅっと何か考え込んだんだメ。

「やっぱり、無理なのかなぁ……」

「何がメ?」

「みんなと協力して戦うこと」

 さっきまでとは違い、翼は弱気な声で言ったメ。

「メ……、きっとそんなことはないメ」

「そんなことあると思う……」ゴロン、と翼は向きを変えたメ。「僕ってほら、記憶がないじゃん。素性も分からない、何のために戦っているのかさえもよく分からなくなってきちゃって」

 ――そんなこと考えていたメ。

 天真爛漫な奴だと思っていたけど、意外と色んな事を考えていたんだなって感心したメ。

「だけど、こないだ君は……」

「あのときは成り行きみたいな感じで戦ったけど、今日こうやって皆が戦っている姿を見て、改めて考えさせられちゃってさ……。記憶も目的もない、空っぽの僕が戦う理由って何だろうって」

 メ……。

 いや、他の四人も大概成り行きで戦ったような気もするけどメ。

「魔法少女としての勇気と“漢気”、かぁ……。僕にそんなものが果たしてあるのかなぁ」

「あるメ!」

 ボクは少し苛立ちながら怒鳴った。

「メパー……」

「ボクはきちんとこの目で見たメ! 君があの時タイガーアクジョと戦った、あの漢気は本物だメ! それに、初めて会った爪とも絶妙なコンビネーションだったメ! あの時のことをしっかり思い出すメ!」


 ――そうだメ!


 ボクは信じているメ。

 あの時の、君が戦ったあの“漢気”は本物だって――。


「そっか……」翼は天井を仰いだメ。「少し、考えさせてもらっていいかな」

「メ。今日はゆっくり休むメ」

「うん……。おやすみ」

 そう言って部屋の明かりが消えるのを見届けて、ボクはホテルから外に飛び出したメ。


「他の皆はどうなんだろうメ……」

 ボクは気になって、彼らの様子を見ることにしたメ。

 データに彼らの住所は登録しておいたから、ボクは飛び回ってそれぞれの家の近くへ向かったメ。


「クソッ! 岡田ッ! 俺は、俺は……」

 爪は歯を食いしばりながら、部屋の壁を何度も殴っていたメ。

 多分きっと、彼なりにジレンマを断ち切ろうとしているんだろうメ。

 殴る音が近所迷惑なレベルで五月蠅いけど、ボクは黙ってそこを去ることにしたメ。


「もう少しだ……。なんとしても土曜日までには完成させる」

 海は眠い目をこすりながら、ひたすらレポート作成に励んでいたメ。

 土曜日までに完成させる。つまり、彼も本心では力になりたいと思っているのかも知れないメ。

 床にエナジードリンクの缶が十個以上転がっているけど、そのへんでやめておいたほうがいいメ。余計なお世話かもしれないけど。


「お父さん? うん、ごめんね。折角お休みを取ってもらったのに、日曜日にずらしてもらって……。うん、うん。僕は大丈夫だよ。お休みなさい――」

 葉は電話越しに、申し訳なさそうな声で会話していたメ。

 戦いに巻き込んでしまって、こちらのほうが申し訳ないメ……。

 絶対、アイツらを倒してお父さんと心置きなく遊べるようになって欲しいメ。


「千五十一、千五十、に……」

 兜は何度も腹筋をしていたメ。

 彼なりに戦いに備えてくれているのかも知れないメ。

 まぁ、コイツはいつも通りな気がするけど。多分ただの筋トレだメ。考えすぎだメ。


 ――でも、間違いない。


 彼は、いや、彼らは間違いなく、魔法少女オトメリッサにふさわしい“GODMS”を持ち合わせているメ!

 きっと彼らは、戦いに参加してくれるメ!

 僕は、信じているメ!



 翌朝――。


「おはよう、メパー」

「おはようだメ!」

 ボクは再び翼の元へやってきたメ。

 ちょっと眠そうだけど、昨日のような憂いた表情はなくなっているメ。これはもしかして、もしかすると、メ!

「あのさ、メパー……」

「メ!」

「結論、出たよ」


 ――メ!


 ボクが信じていたとおりになったかも知れないメ!



 身支度を整えた翼は、ボクを抱きかかえながらどこかへ出かけていったメ。そういやコイツは記憶喪失中だから学校とかも行っているわけじゃないんだなと今更ながらに気付いたメが、そこは気にしないことにしたメ。

「どこへ行くメ?」

 ボクがそう尋ねても、翼は黙って歩いていくだけだったメ。

 歩くこと三十分、辺りの景色は次第に山の中へと変わっていったメ。ここには見覚えがあるメ。ここは、もしかして……。

「あっ!」

 翼がようやく、何かに気付いたかのように声を挙げたメ。

 そのまま、彼が走っていくとそこにいたのは――。


「やっぱお前も来たか」

「遅いぞ、ったく……」

「改めて、よろしくお願いしますね」

「がっはっは! いいぞ少年!」



 ――メ。


 ボクはジーンと涙が浮かんできたメ。


「お待たせ、皆!」


 桃瀬翼の他に、そこに集まったのは、


 黄金山 爪――。

 蒼条 海――。

 緑山 葉――。

 黒塚 兜――。


 みんながそこに、勢ぞろいしていたメ。

「みんな、ここに来たってことは、つまり……」

「おう! 決まっているってことよ!」


 ――みんな、みんな。


 昨日はあんなことを言いつつも、心はひとつなんだメ。


「やっぱり、考えることは皆一緒なんだね」

「当然だろう」

「僕も迷ったけど、これが一番いいかなって……。植物たちが教えてくれたよ、『最初に考えたことが、意外と一番の正解だったりする』って」


 ――魔法少女オトメリッサたちの心が、ようやくひとつになったメ。


「さて、そうと決まったら早速行くか!」

「そうだな!」

「うん!」

「まったく……」

「オッケーッ!」


 そう言って、彼らは歩き出した。


「いいか! 明日まで待っていられんッ! こうなったら直接闇乙女族の潜伏先に乗り込んで、奴らをぶっ叩くぞおおおおおおおおッ!」

「おおおおおおおおおおうッ!」


 皆が意気揚々と、高らかに腕を挙げて叫んだメ。


 ……。


 ……。


 ――って、

「何でそうなるメエエエエエエエエエエエエエッ⁉」


 ボクは忘れていたメ。

 コイツらの“漢気”と“破天荒さ”は、果てしないということを……。

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