黄色いパンジー

@azumariku

第1話

初恋は小4の頃だった。その子は周りの人と比べて可愛い方だったと思う。

でも当時は不器用で、その子に好きを伝える方法すらわからない始末だった。

なので綺麗な花をあげればいいのか?なんて考え、家の花壇に生えていたパンジーを渡した。

渡された彼女は少しキョトンとしてから、弾けるように笑った。

その顔を見るのが妙に照れ臭くて、顔を逸らした。


その後、その子は不登校になった。理由はイジメだったらしい。

そんなことを気づけない自分が、今では恥ずかしい。

彼女がたまに学校に来ると、手首に縞模様が入っている。

何も知らなかった俺は、

「なにそれ?ペイント?」

と言ってしまった。そのときの彼女の顔が、怒っているのか、泣いているのかわからない顔をしていたことを覚えている。


中学に上がってからはめっきり会う機会が減り、喋る機会すらなくなっていった。

学校で、彼女のことを話す人は誰もいなくなっていった。あれだけかわいいと言われていたのに。

まるで存在してなかったのように、消えていっている気がして、気味がわるかった。


やがて月日が経ち、受験についての心得を長ったらしく先生が説いていた、受験生だなんて現実味がなかった頃だ。


彼女が自殺したと、朝の会で言われた。

先生は

彼女が自殺した理由について知っているものは、この紙に書くように

とだけ言い、A4サイズの紙を配って教室をあとにした。

先生が出ていったあと、クラスでは、

誰?知ってる?   

しらねぇw

学校一回も来たことないらしいぞ    

え、マジ?やばw

自殺するなんて馬鹿がすることだろ

おいやめとけ、怒られるぞ

なんて声が、聞こえた。

あぁ、誰も彼女のことを覚えていないんだ、あれだけかわいいと言っていたあの子のことを。

あのときの笑顔を、悲しげな顔を、未だに引きずっていた俺だけが、覚えていたのか。

その事実に、心が沈んだ。深く、深く沈んだ。


しかし時間とは無常で、1週間経てば周りは彼女のことなんて忘れてしまい、元の日常に戻っていった。

でも俺は忘れない、死なせない。

それで俺が死んだら今度は謝らせてほしい、あの時はごめん、と。

その決意を胸に今日も生きていく。


黄色いパンジーが今日も咲いていた。

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