010:余所でなら、どうなろうとも、ご自由に


 ――ドンッ!


 どこからともなく、大きな音が聞こえる。

 そして、その音のした方から黒い煙が立ち上っていくのが見えた。


「ユノ姫がまたやらかしたか?」

「間違いないでしょうね」


 カイム・アウルーラ職人街の一角。

 とある工房の工房長が、自分の工房の窓からその黒煙を見上げ、自身の口からも紫煙を吐き出す。

 その横で、この工房の従業員の一人が、コーヒーを啜りながらうなずいた。


 このあたりで爆発音というのはそう珍しいものではない。

 そういう品を取り扱っている工房だってあるし、趣味で何らかの実験をし、結果として爆発を伴うことだってある。


 今回は十中八九、後者であろう。


「懲りないねぇ……とは、口が裂けても言えねぇけどな」

「爆発しないだけで、親方も思いつきであれこれやっては失敗してますからねぇ」


 職人街にはそういう輩が多いから、多少の迷惑もお互い様で済んでしまうのだ。


 今回だってそうだろう。

 本当に助けが必要な時は、即座に周囲の工房に助けを求めるはずだ。

 あとは、後日にユノと顔を合わせた時にでも、何をやらかしたのか聞けばいい。


「さて、吸い終わったし、そろそろ戻るか」


 短くなったタバコを灰皿に押しつけ、親方が部下へと視線を向ければ、彼も手元のコーヒーを一気に呷った。


「はい!」


 ――と、その時である。


 コンコン……と、窓がノックされる。


「あん?」


 そちらへと視線を向ければ、ひょろりとした見た目の男がいた。


 シルエットだけ言えば、キノコ。

 細身の身体ながら、頭部の存在感がハンパない。爆発ヘアーというべきか。もじゃもじゃに縮れてボリューミーな焦げ茶色の髪のインパクトがすごい。


 そのくせ、何か研究職でもしているのか、白衣を着ているのだから、謎の人物にしか見えない。

 少なくともこの辺りでは見ない頭――もとい、顔の男である。


 部下と顔を見合わせ、首を傾げあってから親方は顎で窓を示す。それに心得たとうなずいて、部下が窓を開ける。


「何の用だ?」


 親方が訊ねると、彼は丁寧な仕草で頭を下げてきた。


「あ、はい。開けていただいてありがとうございます。自分は、こういうモノでして」


 窓越しに差し出された名刺を親方が受け取り、部下がそれを脇から覗き見て――二人は同時に眉を顰めた。


「芸術する爆発家?」

「そうッ、わたしこそがかの有名な芸術する爆発家のバーボン・サレックと申しますッ!」

「胸を張って名乗ってるところ悪いんだがな」

「聞いたことありませんよ」


 意味が分からない。特に肩書きというか職業というかが、意味不明すぎる。


「正しくは有名になりたい芸術する爆発家、ですけど」

「希望かよ」

「まだ有名じゃないんですね」


 何なのだこいつは――上司と部下が揃って半眼になっていると、居心地が悪くなったのか、彼は慌てて、分かっていますと言いたげにうなずいた。

 

「やっぱ有名になるには語尾があった方がいいですかね? それらしいやつ。ドカンとか。私もそう思ってたところなんですッ! ドカンっていかにも、って感じですよね?

 芸実する爆発家のバーボン・サレックと申しますドカン! みたいなドカン」

「すこぶるどうでも良いんだが」

「でもやっぱり、ドカンってどうなんですかねドカン。土管とかと勘違いされたら困るって言うかドカン」

「人の話を聞いてください」

「そうなると、ズガン! とか、ガッコーン! とか、スギュルベロラベキロバキドガーン! とか、プチリ……とか、するべきかも……」

「最後の爆発か?」

「怒りが爆発する寸前の様子を的確に表した言葉かと思ってますスギュルベロラベキロバキドガーン」

「そうかい」

「採用するのはそっちなんですね、っていうかそれも爆発なんですか?」

「爆発は芸術なのですよスギュルベロラベキロバキドガーン。ゆえに芸術たる爆発だと思えば、その爆発は爆発なのですスギュルベロラベキロバキドガーン。つまりマイ爆発。いつも胸にマイ爆発の精神ですスギュルベロラベキロバキドガーン。そうすればそれが自分の、そしてあなたの爆発ですスギュルベロラベキロバキドガーン」


 親方と部下は似たような表情で、深く深く嘆息する。

 そして、親方が顎で窓を示すと部下は心得たとばかりにうなずいて、窓を閉めた。


「え?」


 自称、爆発家だか芸術家だかという男は、それに目を丸くしたが、知ったことではない。


「仕事、再開すっか」

「うす」


 そうして二人は、よく分からない男を無視して、仕事へと戻っていくのだった。

 


     ♪



 職人街にある、フルール・ユニック工房。

 その地下室から、大きな爆発音が聞こえたと思ったら、もくもくと黒煙が昇ってくる。


「ちょっとユノ!?」

「ごめんッ、地下の換気扇だけだと間に合わなっ……ケホケホ」


 その工房に居候しているユズリハが慌てて地下へ向かって声をかければ、工房の二代目当主のユノが煙に咽せながら返事をしてくれた。

 ユノが無事であることに安堵しながら、ユズリハは彼女が言い掛けた言葉の意味を正しく理解して、ドラと一緒に家中の換気扇にマナを巡らせて回る。


 余談だが、ドラは舌をのばして花導具フィオレの起動部に触れて動作させるという器用なことをやっていた。



 ややして、煙のせいか、黒く煤けたユノが階段を上ってくる。


「ユノ、無事?」

「なんとかね……」


 久しぶりの大失敗やらかしたわ――と、肩を竦めた。


「汚れちゃってるから、シャワーでも浴びてきたら?

 愚痴とか言いたいコトはその後で、ってことで」

「……そうする」




 そうして、ユノがシャワーを浴び終えた後、お昼がまだだった為に二人は外へと出ることにした。

 ドラはお留守番である。


 職人街にある大通り――ガーベラストリートを歩きながら、ユズリハはユノに視線を向ける。

 ユノは先ほどから、落ち着かない様子で服を引っ張ったり撫でたりしていた。


「ユノって仕事着やローブ以外の私服って、質素な雰囲気だけどすごい質の良い服を揃えてあるんだね」

「そうね。貰い物ばっかりだけど」


 ユズリハの言葉に興味なさげに返して、やはり落ち着かなそうにしている。


「普段着ない服だから、落ち着かない?」

「それもあるんだけど……それ以上に……」


 ユノは自分を見下ろし、小さく嘆息しながら、答えた。


「普段着てる服って、一種の花導具フィオレと言えるレベルに目に見えない加工をしまくってるのよ……。

 だからあの見た目で、下手な鎧よりも防御力が高いの。対花術処理も施してあるから、そっち方面の防御力も高いわよ」

「……つまり、何も施してない服を着るのが怖いの?」

「当たり前でしょ? どこから花術フーラ飛んでくるかわからないしッ! すれ違い様に知らない人に刃物で服を着られたりするかもしれないじゃないッ!」

「普通は無いよそんなのッ!?」


 なにやら物騒な妄想をしているユノに、思わずユズリハがツッコミを入れる。少なくとも裏街サレナと呼ばれるような区画――いわゆるスラムだ――であっても、そういうことは少ないだろうとユズリハが告げると、ユノは驚いた顔をした。


「え? 普通の人ってしないの? そういうコト?」

「しないね。むしろそれが普通ってあり得ないと思うけど」

「学術都市で生活してる時、良くあったんだけど」

「叡智の集まる街って、そんな物騒なの?」

「研究成果盗まれたり、書き上げたレポートが姿を消したりしょっちゅうよ?」

「うーん……」

「だからレポートとかって完璧な自分用のやつと、盗まれるの前提の穴だらけのやつ……常に二つ用意してるのよね」

「そ、そう……」


 これ以上この話を広げるのはよろしくない気がする。

 ユズリハは遠い目をしたくなる衝動をグッと堪えて、話題を変えた。


「まぁ、いいけど。

 それでユノは、地下で何をしてたの?」

「ん? ああ――爆発する組み合わせって言われてる花術紋フルーレムの組み合わせで、無事に花導具フィオレ作り上げるコトに成功したら、すごいコトになるんじゃ……って思って、とりあえず組んでみたら爆発しちゃったのよ」

「うん。意味が分からない」


 こっちの話題もこっちの話題で理解しづらかった。

 元々爆発すると言われている組み合わせで構築しようとすれば、そりゃ爆発するだろう――と、ユズリハは思うのだが、ユノの中ではおそらく違うのだろう。


 やっぱ爆発しちゃうのよねぇ――と失敗を反省しているようだが、表情は服の話題よりも明るい。

 一応、話題の変更は成功したのだと、喜んでおくことにしよう。


 と、そこへ――


「そこの人」


 見知らぬ男に声をかけられた。

 声のした方に視線を向ければ――


「なに……あれ……?」


 声を掛けてきたインパクトある男にユノがうめく。


 濃い灰色のシャツに、スラックスという格好は問題ない。その上に白衣を着てるのも何ら問題はない。問題があるのはその頭部だ。あまりにも個性的な――そう、まるで爆発してるかのような丸モジャ髪が、頭の上に乗っているように見える。


 その髪型に心当たりのあるユズリハが答えた。


「確か、大陸南側のお祭り好きの民族の間で一時期流行ってたアフロって髪型だったかと」

「おお! そこな少女はこの芸術する爆発ヘアことアフロを知っておいでかスギュルベロラベキロバキドガーン!!」

「今ほど知らない方が良かったと思ったのは初めてです」

「ずぎゅる……何?」


 この男、関わると絶対にロクなことではない――ユズリハの直感がそう告げる。

 そのまま視線だけ動かし、聞き慣れない言葉に首を傾げてるユノを見た。


(いざとなったら、ユノの手を引いて逃げよう。うん)


 胸中でそう決意して、アフロ男をみる。


「それで、何なのアンタ?」

「ああ、申し遅れたスギュルベロラベキロバキドガーン。私はこういうものですスギュルベロラベキロバキドガーン」


 半眼になりながら、差し出された名刺を見ると、芸術する爆発家バーボン・サレックと書かれていた。


「バーボンさん」


 その名刺を見て、ユノが半眼のまま名前を呼ぶ。


「なんだいマドモアゼルスギュルベロラベキロバキドガーン」


 それにバーボンが応えると、ユノはいきなりぶっちゃけた。


「そのズギュルなんちゃらって付けないと喋れないの?」

「有名になるには特徴的な語尾が必要だと思ってねスギュルベロラベキロバキドガーン。だから特徴的な語尾にしてみたんだけどスギュルベロラベキロバキドガーン。お気に召さないかなスギュルベロラベきょ……」

「あ、噛んだ」


 口を押さえてうずくまるバーボンを下目に見ながら、ユノは大きく息を吐く。


「……で、何なのアンタ?」


 そういえば声を掛けられてから一切、本題が始まらないな――と思いながら、ユズリハもユノに倣って下目使いで見遣る。


「…………」


 しばらく口を押さえていたバーボンだったが、やがて落ち着いてきたのか、立ち上がって答えた。


「爆発を崇拝し、爆発を愛し、爆発するコトに情熱と人生を捧げております」

「……つまり?」

「爆発サイコーッ!」


 ひゃっふー! と片手を掲げて飛び上がるバーボンに、ユノが半眼のままうなずいた。


「なるほどサイコなのね」

「その切り取り方をされると狂人のようなので勘弁願いたい」


 心底から心外だと言いたげな男に嘆息しながら、ユノは改めて訊ねる。


「それで、そんな爆発サイコな人が、何のようなの?」

「お二人が爆発の話題をしていたので、つい声をかけてしまっただけです。つまりはナンパですね」

「斬新すぎるナンパに理解が追いつかない」


 ユズリハが頭を抱えると、バーボンはグッと握り拳を作った。


「もちろん、お二人ではなく芸術的な爆発に対してのナンパです。そんな失礼なコトは致しませんよッ!」

「ああ理解した。ユノと同じタイプの変態さんか」

「待って」


 変な納得の仕方をするユズリハに、ユノがうめいた。


「同志だったのですかッ!?」

「断固否定するわッ!!」


 両手を広げて喜びを表すバーボンに、ユノが叫んで後ずさる。

 こんな意味不明なやつと、同一視されるわけにはいかない。


「まぁ同志であるなら、否定されても問題はありません」

「お願いだから人の言葉で会話をしない?」

「さっきからしてるじゃないですか?」

「……ああ、そう」


 純粋な眼差しで首を傾げられて、ユノは疲れたように息を吐いた。

 この男、色々な意味で理屈が通じないようである。


「何はともあれナンパでしたらお断りですので私たちはこれで失礼しますね」


 さすがにこれ以上の相手はしてられない。ユズリハはそう判断して、口早に断りを告げると、ユノとともにその場を立ち去ろうとする。


 だが、バーボンは二人の前を通せんぼするように立ちはだかった。


「実は爆発好きの同志のお耳に入れたいコトが」

「同志じゃないので聞く耳がないわ」

「何一つ問題はありませんな」

「問題しか存在しないって言ってるのよッ!!」


 すっかり目を付けられたらしいユノが大声を上げるが、真に聞く耳を持たないのは男の方であるらしい。

 あーもーッ!! と、地面を蹴りまくって苛立ちを露わにするユノに対して、さして気にした風もなく、バーボンが勝手に語り始める。


「今度、南住宅街の第六区で、爆発コンテストをするのです」

「爆発コンテスト?」


 聞き慣れぬ言葉に、ユズリハは思わず聞き返してから、しまったと渋面を作る。


「そうですッ! 真に芸術的な爆発を競い合う祭典ッ! 弾ける花導具フィオレッ! 響く爆音ッ! 舞い散る火花にッ、飛び散る血ッ!」

「血が飛び散るのはまずいでしょ」

「爆発には付き物ですよ?」


 キョトンと小首を傾げられ、ユズリハは息を吐く。

 ちなみにユノは、弾ける花導具フィオレという言葉に反応して、機嫌がさらに悪くなっている。


「そう、飛び散る血! 爆発物を抱きかかえて飛び上がる君が好きーッ!」

「やっぱサイコじゃないのッ!」


(水と油どころじゃないなぁ……これ……)


 本気で頭痛がしてきて、ユズリハはこめかみを押さえた。


「第六区の区長の許可も出ましたからねッ! 元々地味で見栄えのない六区の新名物になればと、意外とノリノリでしたッ!

 こちらとしても芸術する爆発の素晴らしさを人々に伝えたいと常々思っているので、利害の一致による賛成からの開催ですッ!!」


 話の分かる素晴らしいお爺さんですよね――と、同意を求められたが、ユノもユズリハもうなずく気はない。


 ……と、そこへ。


「おや。ユノちゃんじゃないかい」

「噂をすれば……」


 ちょうど今、話題になっていた第六区の区長たる老人がそこにいた。


「実は今、フルール・ユニックに顔を出そうと思っててなぁ」

「どうかしたのかしら?」

「うむ。実は、倉庫に眠っていたストーブを見つけてんじゃが……試しにマナを巡らせて火を付けたら、突然爆発してしまってなぁ……」

「爆発……ッ!?」

「うっさいッ、黙れッ!」


 爆発という単語にギラリと目を光らせて飛びつこうとするバーボンを、ユノがすかさず蹴り飛ばした。


「あーあ、ついに手が出ちゃったかぁ」


 実際出たのは足ではあるが、ユズリハはしみじみとうめく。


「それで、そのストーブがどうかしたの?」

「う、うむ――わしにはちと重くて担いで持ち運べんので、見に来て貰いたくてな。修理すればまだ使えるようなら、今年の冬までに使えるようにて欲しいのじゃよ」

「いいわよ。明日の午前中なら空いてるけど」

「それでよろしく頼むわい」


 そうして、ユノが仕事の依頼を引き受けたところで、バーボンが立ち上がった。


「ところで、区長殿」

「おや? ああ――蹴り飛ばされたのはバーボン殿でしたか」

「先日のコンテストのお話、どうなっておりますでしょうか?

 開催日などの詳細は詰めてから、後日――というコトでしたが」

「いや、うむ……」


 期待に満ちたバーボンの眼差しに反して、第六区区長の表情はあまり明るくない。


「その、申し訳ないんじゃがな……」

「……まさか……ッ!?」

「う、うむ――なかったコトにして貰いたい」


 まるで冤罪にも関わらず死刑宣告されたかのような絶望的な表情を浮かべ、バーボンは膝を折ると、整備された石畳に両手を付いた。


「な、なにが……」


 それでも、完全に屈してはなるまいとでも言う顔で、両手をついた時とは逆回しの勢いで身体を持ち上げながら、疑問を口にする。


「……爆発コンテストのッ、何がいけなかったというのですかッ!?」


 涙ながらに訴えるバーボンに、第六区区長はそれはもう、とてもとても申し訳なさそうに、その理由を告げた。


「ストーブが爆発した時にじゃな、思ったわけじゃ」

「……ええ」

「間近で花導具フィオレが爆発するとマジ怖いし危ないしケガしそう、と」


 単純明瞭で分かりやすい答えに、ユノとユズリハは、納得しかない。

 意味不明な催しの開催が中止になったのであれば僥倖ぎょうこうである。


「区画のそこかしこであんな風な爆発が起こったら、危ないしうるさいしで、むしろ周囲から怒りを買いそうじゃからな。区内が盛り上がる前に目の敵にされるワケにはいかぬ。すまぬな」


 これほどまでに分かりやすい理由を口にしても、バーボンは納得できないらしい。

 瞳に必死な炎を灯らせて、ユノへと向き直った。


「ど、同志よ! 貴女からも何か言っていただきたいッ! 爆発は素晴らしい、と! 世界の合い言葉は爆発ッ! と!!」

「いやあたし別に同志とかじゃないし」


 ユノの両肩を掴み、ガクガク揺さぶりながら必死に訴えてくるが、彼女からすれば知ったことではない。

 それに何より――


「っていうかさ、アンタ……花導具フィオレが弾けるとか言ってたわよね?」


 両手を掴む手を払いのけ、ユノが据わった眼差しでバーボンを見遣る。

 その瞳に危険な物――それこそ破裂寸前の爆発物のようなものだ――を感じたユズリハは、六区長の手を引いて、ユノの背後へと移動していく。


「それが何か? そもそも花導具フィオレとは爆発するもでしょう?

 花導具フィオレとは爆発する為にあるものですッ! 完璧な物だからこそ、爆発して散る瞬間がもっとも美しいッ! ビバ爆発ッ! 形あるものいずれ壊れるというのであればその散り際は、花咲くように爆発をッ!」

「…………」


 口にしながら気分が乗ってきたのか、バーボンは拳を握りながら力説する。

 そんな彼を見据えるユノから、プチリ――……という音が聞こえた気がした。


「そう――わかったわ」

「おお! 理解していただけましたかッ!」

「理解ついでに……あたしからアンタに二つほど爆発をプレゼントしてあげる」

「本当ですかッ!?」


 どこに隠し持っていたのか、ユノは一輪の赤バラを取り出すと、それをバーボンへと向ける。


「まずッ! あたしの怒りッ!!」

「おお! 怒りの爆発ですね! それもまた芸術する爆発の一つですよねッ!」

「始まりは握り固められし大気、次章は膨張する焔罪えんざい!」

「ところでなんで怒っているのでしょうか? もしかして語尾を忘れてたからですか? 確かに忘れておりました。舌噛んで痛かったんで止めようかなってでもそのせいで怒っていらっしゃるんでしたら復活させましょうスギュルベロラベキロドガーン。これでよろしいですかスギュルベロラベキロ……」


 ユノの詠唱コールに併せて、空気がスギュルベロラベキロ……と音を立てて、バラの先端に集まり、圧縮され固まっていく。


「重ねて二つッ、は原初の怒りを担う者ッ!!」」

「え?」


 惚けた声を出すバーボンを無視して、詠唱コールによって方向性を与えられたマナが、花銘ワーズと共に形を作る。

 ユノの怒りともに赤バラより放たれた透明な火球は、バーボンの足下に吸い込まれるよう着弾する。

 瞬間、ドガーンという爆音と共に、そこで初めて花術の火球はバラと同じ色を持つ。その爆炎は膨張するように広がると、彼をその悲鳴ごと飲み込むのだった。


 それは、ユノが送った二つ目の爆発。即ち――


「いっそ芸術ともいえる古典的な爆発オチ、お見事」

「……ったく、時間を無駄にした気がするわ」


 状況が理解できず呆然とする第六区区長の横で、ユノとユズリハはようやく解放された、と安堵するのだった。


=====================


ある意味で自分の原点とも言える作品達をオマージュ&リスペクツ。ちょっとやり過ぎたかもしれません。だけども反省するも後悔はせず。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る