第73話 採寸
シェリーとアシュトンが広間に着くと、ドレス職人のバリーと二人のお針子が待っていた。
「シェリー様、おまちしておりました。はじめまして、アシュトン・クラーク様。バリーと申します。この度はおめでとうございます」
「初めまして、バリーさん。ありがとうございます」
アシュトンはバリーに右手を差し出し、握手をした。
「さあ、シェリー様。ドレスのイメージ画をお持ちいたしました。シェリー様のお好みに合うものがあれば良いのですが……」
バリーはそう言うと、大きなスケッチブックを取り出し、机の上に広げた。
ドレスのイメージ画のなかでシェリーが気に入ったのは、タイトな胸元の下からスカートがふんわりベルのように広がったもの、体の線に沿ったマーメイドスタイルのものの二つだった。
「私はこの二つが素敵だと思うのですが……アシュトン様はどちらがお好みですか?」
アシュトンは口元に手を当ててむつかしい顔をした。
「どちらもシェリー様に似合いそうですね。正直、えらぶのは難しいですが……」
「ベールはどのようなものをお考えですか?」
バリーがシェリーに尋ねた。
「ベールは細やかな花の刺繍があしらわれた、可憐なイメージのものをお借りする予定です。……そうですね、ベールと合わせて考えると、最初のベルの形をしたドレスが良いかしら」
「かしこまりました。アシュトン様のフロックコートのお色はいかがいたしましょうか? シェリー様のドレスを引き立たせるのはこちらのお色などがおすすめですが」
バリーは小さな布が束ねられた、生地の見本帳から明るい色の生地をいくつかアシュトンとシェリーに見せた。
「ブラウンがいいかしら……あら? この色は? 華やかで素敵ですわ」
「シャンパンゴールドですか?」
バリーの言葉を聞いてアシュトンが戸惑った。
「少し、派手ではありませんか?」
困った顔で微笑むアシュトンに、バリーは笑顔で答えた。
「いえいえ。結婚式は初秋のご予定と伺っております。その季節にピッタリのお色だと思いますよ」
「アシュトン様、この色にいたしませんか? きっとお似合いになるわ」
シェリーの言葉を聞いて、アシュトンは少し考えた後で頷いた。
「それでは、ドレスのデザインもアシュトン様の服の生地も決まりましたので、シェリー様のお仕事は以上になります。後はアシュトン様の採寸をさせていただければ」
「よろしくお願いします」
アシュトンはバリーの後について広間の隅に歩いて行った。
「それでは、私は部屋をでますね。よろしくお願いしますね、バリーさん」
シェリーが広間を出ると、グレイスが待っていた。
「シェリー、結婚式の衣装は決まりましたか?」
「ええ。お母さま。今はアシュトン様の採寸をしていますわ」
「そう。出来上がりが楽しみね」
「ええ」
少しして、アシュトンが部屋から出てきた。
「お待たせいたしました」
バリーが頭を下げ、言った。
「それでは、二か月後に仮縫いができましたらドレスとフロックコートをお持ちいたします。日程は追ってご連絡いたします」
「よろしくお願いします」
採寸が終わると、アシュトンはカルロスに呼ばれた。
「これからシリル様と狩りに行こうかと思うのですが、アシュトン様もご一緒にいかがですか?」
「……ええ、喜んで。急いで準備をします」
アシュトンは部屋に戻り、狩猟のための服に着替えると、先に着替えていたカルロスとシリルのもとに現れた。
「それでは馬をお選びください」
カルロスはシリルとアシュトンを厩舎に案内した。
「忙しいですわね」
シェリーは少し心配そうに、アシュトンを見送った。
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