第11話

 ジルの告げた、お茶会の日になった。

 シェリーは早朝から、両親と正装をしてトラモンタの国に向かった。

「シェリー、失礼の無いよう言動には気をつけるように」

「はい、お父様」

「それでは、参りましょうか」

「はい、お母様」


 馬車が走り出す。

 春の天気の良い日だった。馬車がガタガタと揺れる音も、楽しげに聞こえてくる。

「トラモンタ国のセリシア王女は、どのような方なのでしょうか?」

「さあ。ジル様の話では、シェリーと同じくらい向こう見ずのおてんばという事らしいが」

「……失礼な方ですわね、ジル様って」

 シェリーはぷいと横を向くと、窓の外を眺めた。


 馬車はもう町から離れ草原を走っている。

 草原の向こうには、かすかに国境の町が見えた。

「あそこで出会わなければ、こんなことにもならなかったのに……」

 シェリーはため息を着いた。

「シェリー、国王様や女王様、王女様の前でため息など付かないように気をつけなさい」

「……はい、お母様」

 シェリーは愛想笑いをして、またボンヤリと窓の外を眺めた。


 しばらくして国境の門に着くと、馬車が止まった。

 国境を守る兵士は、父親と少し話をした後、門を開いた。

「それでは、お気を付け下さい。ホワイト辺境伯」

「ありがとう」

 国境を抜け、トラモンタの国に入る。

 改めて見るトラモンタの国は、シェリーの目に新鮮に映った。


「そろそろ王宮に着く。失礼の無いよう、おとなしくするんだぞ、シェリー」

「分かりました、お父様、お母様」

 王宮に着くと、兵士達が並んでいた。

「ホワイト辺境伯、お待ちしておりました」

「本日はお招きありがとうございます」

「こちらへどうぞ」


 父親のカルロスを先頭にして、案内係の兵士の後について歩く。

 城の中は美しい絵画や彫刻が飾られており、置いてある家具なども重厚で美しかった。

「素敵なお城ですね、お父様」

「ああ、でもシェリー、静かにしているように。何か失礼があっては困るからね」

「はい、お父様」


 謁見の間に通されると、すぐにトラモンタ王と女王、王女がやって来た。

「遠いところまでよくいらっしゃいました、ホワイト辺境伯」

「お招き頂いて光栄です、トラモンタ王。こちらは妻のグレイスと娘のシェリーです」

「シェリー様、はじめまして。当家にも子どもがおりましてね。ユリアスは仕事でいないのですが、娘のセリシアが……ほら、あそこで覗いております」

 トラモンタ王はセリシアを呼んだ。

「セリシア、出てきなさい。そして、ご挨拶をしなさい」


「はーい」

「セリシア王女?」

 シェリーは声がした方を見た。 

 そこには豪華なドレスをまとった、人形のように整った顔と大きな目をした、可愛らしい女性が立っていた。

「はじめまして、ようこそいらっしゃいました。セリシア・ウィルソンですわ」

「はじめまして。カルロス・ホワイトです。こちらは妻の……」

「先ほどから聞いておりました。グレイス様にシェリー様ですね」

 セリシアはくりくりとした目を輝かせて、微笑んだ。


「初めまして、セリシアです。よろしくね、シェリー様」

 セリシアはにっこり笑って言った。

 トラモンタ王が言った。

「私たちは大人同士の話がある。セリシアはシェリー様と中庭でも散歩してきなさい」

「それじゃ、私たちはお茶でも飲みましょう? ね、シェリー様」

「素敵ですわね」

 シェリーはセリシアの後について、中庭に向かった。

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