第10話

 シェリーは部屋のカーテンを閉めて、ベットに寝転んでいると、ドアをノックする音がした。

「シェリー様、サンディーです。お客様がおみえになっています」

「……いないと言って頂戴」

「今、姿を見て手を振っていらっしゃったので、嘘をついても仕方ないですよ?」

 サンディーの言葉に、シェリーは渋々頷いた。

「……わかりました、今行きます」


 シェリーは一応身だしなみを整えてから部屋を出た。

「シェリー様、ジル様がいらっしゃってます」

「分かってるわ。賑やかな声が私の部屋にまで届いていましたから」

 サンディーの後について、シェリーは館の中を歩いて行った。


 シェリーが庭に着くと、カルロスとジルが談笑していた。

「シェリー様です」

 サンディーはそれだけ言うとシェリーを残し、館の中へ入っていった。

「お待たせ致しました」

「お待ちしておりました。首がキリンになっちゃうかと思いましたよ、シェリー様」

 ジルは相変わらずの軽口をたたいた。


「それで、ご用件は何ですか?」

「シェリー、そこに座りなさい。お客様相手にそんな言い方は無いだろう?」

 父親のカルロスがたしなめるように言った。

 シェリーは軽く会釈をしてから、空いている椅子に腰掛けた。執事がシェリーの分の紅茶を入れる。

「お父様とずいぶん親しくお話ししていらっしゃいますわね」

「はい。お転婆娘のお世話は大変だという話で盛り上がっていました」

 カルロスは咳払いをしてから、ジルに言った。

「人聞きがわるだろう? ジル。シェリー、トラモンタ国の王女セリシア様も行動力のある女性だとお聞きしていたところだ」


「セリシア王女ですか?」

「ええ」

 ジルはここだけの話というように声を潜めた。

「シェリー様のように馬を乗りこなし、男ばかりの狐狩りにも参加しているんですよ」

「まあ」

「ね、気が合いそうでしょ?」

 ジルはニコッと笑ってウインクをした。


「そんな訳で今度セリシア王女が、シェリー様にトラモンタの国まで遊びに来て欲しいとのことです」

「……そうですか」

「何やらつまらない婚約者の話も聞きたいようですよ」

「!! そんなことまで報告しているのですか? ジル様は!?」

「ええ、聞かれたので答えたまでです」

 ジルの悪びれない様子に、シェリーは思わず吹き出した。


「やっと笑いましたね、シェリー様。やはり笑顔の方が素敵です」

「一体何人にその言葉を言ってるのでしょうね、ジル様は」

 シェリーは紅茶を一口のみ、ため息を着いた。

「シェリー様の元婚約者よりは少ないかと存じます」

「その話はもうお終いにして下さいませ」

 ジルはしまったという表情を浮かべた後、付け加えるように言った。

「シェリー様なら、素敵なお相手と巡り会うこともあるでしょう。口を閉じていれば」

「まあ! また失礼なことをおっしゃいますわね」

 シェリーはジルをジロリと見た。


「無理も無いな、シェリー」

「お父様までそんなことを言うのですか?」

 シェリーはぐいっと残っていた紅茶を飲み干す。

「私、いそがしいのでこれで失礼致します」

「セリシア王女の件は忘れずにいて下さい。来週末のお茶会にいらっしゃって下さいとのことですから」

「……わかりましたわ」

 シェリーは早足で自分の部屋に戻っていった。

「それではまた、お会いしましょう。シェリー様」

 ジルの言葉に振り返らず、シェリーは歩き続けていた。

 

 

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