第12話
セリシア王女は軽い足取りで中庭に向かった。シェリーも後に続いた。
「あら、もうお茶の準備が整っていますわ」
中庭の隅に設けられたティーガーデンには、ケーキとスコーン、ティーポットが置かれていた。
「セリシア様、シェリー様、おかけ下さい」
「ありがとうございます、ええと……」
「当家の執事のメイラーですわ」
セリシアが紹介すると、メイラーは礼をした。
「さあ、めしあがれ。そして、私と色々お話をしましょう! 王宮って退屈なんですもの」
飾らないセリシア王女の言葉に、シェリーの頬が緩んだ。
「それにしても、貴方は男性を見る目が無いのね」
「え!?」
「ジルから聞きましたわ。婚約者が新しい女性と駆け落ちした上に、貴方には婚約していたことを黙っているように言っていたとか」
シェリーは顔が赤くなるのを感じた。
「そんなことまで、ジルは伝えていたの!?」
思わず言葉が荒くなったシェリーは、ため息をついて紅茶を一口飲んだ。
「そんなつまらない男性より、家のお兄様の方がずっと素敵よ」
「王子様なんて、身分が違いすぎます。それに、一度お目にかかっただけですし」
セリシア王女は目を細めて、シェリーをじっと見た後に言った。
「……そうね。貴方にはジルの方が合うかも知れないわ」
「それは嫌です!!」
シェリーが答えたとき、背後から声がした。
「うわー。傷つきますね、シェリー様に嫌われているとは……」
シェリーが振り向くと、芝居がかった動きで胸を押さえたジルが、わざとらしくうなだれていた。
「ジル様! 聞いていたのですか!?」
「ええ、この耳は飾りではありませんから」
ジルとシェリーのやりとりを見て、セリシア王女は吹き出した。
「ところでジル、シェリー様が国境の町で一人で酒場に居たというのは本当?」
「ええ。一人でお酒を飲んでいらっしゃいました」
「まあ! 素敵!!」
セリシア王女は目を輝かせている。
「セリシア様、危険なことはやめておいた方が良いですよ?」
「まあ、シェリー様。私も町の酒場に行ってみたいと思っているのが分かったのですか?」 シェリーはセリシア王女の言葉を聞いて、苦笑いをした。
「ほら、シェリー様が周りを心配させていたのがよく分かったでしょう?」
「……そうですね。ジル様」
「まあ、二人で私を責めるつもりですか?」
セリシア王女はそう言ってはいたが、大して気にしていない様子でスコーンを口に運んだ。
「シェリー様、スコーンは熱いうちに食べた方が美味しいですよ」
「そうですね、頂きます」
シェリーもスコーンをかじる。スコーンにのっていたクリームがシェリーの口の周りについた。
「おやおや、お口を汚して。私が拭いて差し上げましょう」
ジルがナプキンでシェリーの顔についたクリームを拭った。
「……子ども扱いしないでくださいませ、ジル様」
「うふふ。やっぱり二人はお似合いですわ」
シェリーはセリシア王女の言葉を聞いて、頬を膨らませ黙ってしまった。
「セリシア様、ご冗談が過ぎますよ。私はかまいませんがシェリー様は傷心の身なのですから」
それを聞いて、シェリーは目を丸くした。
「傷心ですって? もう、あきれ果てて涙もでませんわ。当分、恋愛はしないと思います」
セリシア王女は楽しそうに笑ったあとに言った。
「お兄様にも同じ事をおっしゃるのかしら? シェリー様は」
「……ユリアス王子はセリシア様より、もう少し穏やかな方でしょう? 私の婚約破棄の話を聞いたら青ざめてしまうのでは無いでしょうか?」
シェリーの言葉にセリシア王女は頷いた。
「そうですわね、きっと」
たわいの無い会話を楽しんでいると、メイドが駆け寄ってきて三人に言った。
「セリシア様、シェリー様、ジル様、そろそろホワイト辺境伯がお帰りになるそうです」
「セリシア様、ジル様、楽しい時間をありがとうございました」
「こちらこそたのしかったですわ。シェリー様、今度は狐狩り……」
セリシア王女はジルの視線を感じて、一呼吸置いてから言い直した。
「ではなくて、湖にピクニックがてら遊びに行きませんか?」
「王女様がお出かけなんて、大丈夫ですか?」
シェリーは気軽に誘うセリシア王女を心配した。
「ええ、ジルがいれば大丈夫ですよ。湖はお城のすぐそばですし」
「私も美しいシェリー様のためなら、何時でも予定を開けておきますよ」
シェリーは笑って言った。
「心にも無いことをおっしゃるのね、ジル様は」
「それでは、ごきげんよう。またお会いしましょう」
「ありがとうございました。失礼致します、セリシア様、ジル様」
「私が送りましょう」
そう言って、ジルは歩き出した。
シェリーはジルの後について来た道を戻り、ホワイト辺境伯の元にたどり着いた。
「シェリー、セリシア王女に失礼なことをしなかったかい?」
「大丈夫です、ホワイト辺境伯。すっかりうち解けて、次に会う約束までされていました」
ジルがそう言うと、ホワイト辺境伯は微笑んだまま頷いた。
「そうか、それなら良かった」
「それでは、帰ります。本日はありがとうございました」
「お気を付けてお帰り下さい」
王たちが見送る中、シェリー達は馬車に乗り、トラモンタの国を後にした。
「お父様達は、何をお話ししていたんですか?」
「ああ、大したことは無いが、少し北のギアチの国で問題が起きているそうだ」
父親の言葉にシェリーが表情を曇らせると、母親が言った。
「貴方が心配することはありませんよ、シェリー」
「……はい、お母様」
シェリーはセリシア王女のことを思い出していた。
「楽しい方でしたわ」
そして、ジルとお似合いだと言われたことも思い出し、一人でため息をついた。
「あのガサツなジル様とお似合いだなんて、失礼では無いかしら?」
「何か言ったかい? シェリー」
「いいえ、何も。お父様」
三人を乗せた馬車は、スオロの国に向かって走り続けた。
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