第7話

 カルロスとシェリーは、日を改めてトラモンタ国のジルを訪ねに行くことにした。

「一体、いくら借りたのですか? シェリー」

「……150ギルです」

「そうか、外に出たことはあっても、シェリーがお金を使ったことは無かったからな」

 カルロスとシェリーは特にそれ以上話すことも無く、無言のまま馬車はトラモンタ国に近づいていった。


 トラモンタ国の国境に着くと、兵がカルロスに身元を尋ねた。

「私はスオロの国の辺境伯、カルロス・ホワイトだ」

「カルロス様、どうぞお通りください」

 国境を抜けると、立派な壁に囲まれた町が見えてきた。


 宮殿に着いた二人は、馬車を降りた。

 カルロスが王宮の門の傍に立っている兵に声をかける。

「スオロの町の辺境伯、カルロスと申します。王宮錬金術師のジル様はいらっしゃいますか?」

「少々お待ちください」

 しばらくして出てきたのは執事のマーヴィン・メイラーだった。


「こちらへどうぞ」

「ありがとう」

 マーヴィンの後についてカルロスとシェリーは歩いて行った。

 見事な中庭が途中、目に入った。

「綺麗なお庭ですね」

「ありがとうごさいます」


 しばらく歩いて、マーヴィンに応接室に案内された。

「少々お待ちください」

「はい」

 カルロスとシェリーは勧められた席に腰掛けると、ジルが来るのを待った。

「お待たせ致しました」


 栗色の髪を後ろに縛った、青い目の若い男性が現れた。

「これは、ユリアス様、大きくなられて」

「お久しぶりです、カルロス様」

「こちらは私の娘のシェリーです」


 シェリーはカルロスの紹介をうけ、お辞儀をした。

「シェリーと申します。はじめまして、よろしくお願い致します」

「ユリアスと申します。よろしくお願いします」

「家のジルがまた何かしでかしたようで……」

 ユリアスが物憂げに言うと、シェリーは首を振った。


「いいえ、あの、私を助けてくださったのです」

「そうですよ、殿下。人聞きが悪いなあ」

 ジルがいつの間にか扉を開けて、すぐそばに立っていた。

 黒い髪を短く切って、茶色の瞳が輝いている。


「お嬢さんは、辺境伯の娘さんだったんですね。でも、良くないなあ、あんな所に行くなんて」

「あんな所?」

 ジルの言葉にカルロスの眉がピクリと上がった。

「場末の飲み屋でお会いしたんですよ」


「シェリー!? 一人でそんなところに行ったのか!?」

「ごめんなさい、お父様。情報を得るには飲み屋さんに行くのが手っ取り早いと思ったので」

 シェリーは俯きながら、横目でジルを見た。

 ジルは悪気もなく、にっこりと微笑んでいる。


「で、お代に高価なブローチを渡そうとしたので奢ってあげたんですよ」

 ジルの言葉に、カルロスはため息を着いてからお金を渡した。

「それでは、お借りした150ギルをお返しします」

「わざわざ、150ギルぽっちのためにここまで来たんですか? 義理堅いなあ」

 ジルはカルロスから150ギルを受け取ると、恭しくお辞儀をした。


 カルロスはジルとのやりとりが終わると、ユリアスに話しかけた。

「最近、トラモンタの国がやけに静かですが、何かあったのですか?」

「いえ、大したことは無いのですが、北にあるギアチの国に魔物が現れたとのことで、警戒しているんですよ」

「そうでしたか」


 カルロスはユリアスと少し世間話をして、国に帰ることにした。

「シェリー様、お一人でのお散歩はあまり遠くまで出歩かないようにね」

「ジル様、ご忠告ありがとうございます」

 シェリーが憂鬱な表情をしているのを見て、カルロスはジルとユリアスに言った。

「シェリーには帰ってから、私から重々注意しておきます」


「そうですね。何かあってからでは遅いですから」

 ユリアスはそう言って微笑んだ。

 シェリーは顔が赤くなるのを感じた。

「それでは失礼させていただきます」

「ご足労いただきまして、ありがとうございました」

 ユリアスがそう言うと、ジルは手を振った。

「またねー」


 カルロスとシェリーは馬車でスオロの屋敷に帰っていった。

「シェリー、おてんばもほどほどにするように」

「……はい、お父様」

 シェリーは心の中で、ジルが告げ口をしたことに文句を言っていた。

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