第8話

 家に着くと、母親が心配そうな顔でシェリーとカルロスを出迎えた。

「シェリー、失礼なことはしていないでしょうね」

「グレイスお母様、大丈夫ですわ。安心して下さいませ」

 カルロスはそれを聞いて、首を横に振った。


「……シェリーは一人で辺境の街に行き、あろうことか一人で酒場に入ったそうだ」

「まあ! シェリー!? 貴方はまだ若い娘なのですよ? しかも貴族だというのに」

 シェリーは両親から咎められて、返す言葉が無かった。

「……もう、致しません。お父様、お母様」

「しばらく、街から出ないように! これは命令だ」


 シェリーが黙って俯いていると、母親が返事をするよう促した。

「分かりました。しばらく街からは出ません」

 さすがのシェリーもしょんぼりとして、自分の部屋に入り部屋着に着替えた。


「シェリー、もうしばらくしたら夕食ですよ」

 グレイスの言葉に、シェリーは返事をした。

「はい、お母様」

 シェリーは部屋を出て、食堂に向かった。


 いつものように食事が始まった。

「ところでシェリー、アルバートが女性と一緒に馬車に乗っていたというのは本当か?」

「ええ、お父様」

「それでは、アルバートの父親のトニー伯爵に話をしておかなくてはいけないな」

 シェリーはもう、アルバートをかばうことは無かった。

 

「ユリアス王子と会えたのは良かったな、シェリー」

「……どういう意味でしょうか? お父様」

 カルロスは咳払いをしてから、シェリーに言った。

「王子に見初められると言うこともあるかもしれん」

「まあ! 私、しばらくそう言った話題は遠慮したいと思いますわ」

 シェリーはそう言うと、薄切り肉を一口食べた。


「シェリーはおてんばが過ぎるから、王子様は驚かれてしまうのでは無くて?」

 母親のグレイスがチクリと言うと、カルロスは苦笑いをした。

「……私、そろそろお腹がいっぱいですわ。ごちそうさま」

 シェリーは母親の言葉を無視して、食堂を離れた。

 部屋に戻ると、ベッドに潜り込み、一人で文句を言った。


「ユリアス様は素敵だったけど、恋愛なんてもうこりごり! それにしても、ジルはなんで要らないことまでお父様に言ったのかしら!? おかげで街の外に出られなくなってしまったわ!!」

 シェリーは枕を抱えて、プンプンと怒っていた。

「黙っていれば、ユリアス様とは違う綺麗な顔をしているのに……」

 シェリーはジルのことを思い出しているうちに、いつの間にか眠りについていた。

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