第5話



 シェリーはスコジリエラからスオロに帰る途中、馬車とすれ違った。


「まあ、こんなところに馬車が来るなんてめずらしいこと」


 シェリーがなにげなく馬車の中を覗くと、そこにはアルバートと、小柄で清楚な服を着た若い女性が楽しげに話をしていた。



「なんてことかしら。お父様の命令で国境を警戒しにきたのかしら? それにしては女性を連れてくるなんて……」


 シェリーが馬を止めて呆然としていると、馬車も止まった。


 すると、馬車からアルバートが降りてきた。



「こんにちは、シェリーお嬢様。こんなところで何をしてらっしゃるのですか?」


「それは私の台詞ですわ、アルバート様。しかも女性を連れていらっしゃるのですね」


 アルバートは後ろを向き馬車に手を振った。


「国境の偵察は一人で行くよりも、カップルで行った方が怪しまれないと思いまして」


「そうですか? 仕事にしては楽しそうですこと」



 馬車の方から鈴の音のような可愛らしい声がした。


「アルバート様、お知り合いの方ですか?」


「ああ、ちょっとした知り合いです。お気になさらず」


 それを聞いたシェリーは眉をひそめた。



「ちょっとした知り合いですって?」


 アルバートはシェリーにお辞儀をしてから言った。


「スノー様には、婚約していたことは言っておりません。ご内密にお願いします」


 シェリーはアルバートの図々しさにことばを失った。


「それでは失礼。仕事に戻ります」



 シェリーは何も言わずに、アルバートとスノーを乗せた馬車が去って行くのを見つめていた。


「私、なんて愚かだったのでしょう! こんなに不誠実な人に愛を誓っていただなんて……」


 シェリーはため息すら出なかった。


「早く家へ帰りましょう」


 シェリーは馬を走らせると、スオロの町に向かって帰って行った。

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