第4話
シェリーが馬を走らせて二時間弱、スコジリエラの町のそばの林に着いた。
「お前はここで待っていてね」
林の入り口に馬をつなぐと、シェリーは林の中に入っていった。
「特に変わった様子は無いわね」
シェリーが林の様子を観察していると、人影に気付いた。
「あら、人がいるわ? どうしましょう……」
人影は、シェリーに気付いたらしく近づいてくる。
「お嬢さん、こんなところに一人で来たら危ないですよ? ここは国境のそばですし」
大きなリュックを背負った青年が、シェリーに話しかけた。
「あなたは?」
「私はジル。錬金術師です。今日は林に生える薬草を取りに来たんですよ」
「まあ、そうでしたの。私はシェリー。馬に乗って散歩に来たんです」
ジルはシェリーの服装を見て、困ったような笑顔を浮かべて言った。
「お嬢様は貴族の方でしょう? ここは時々魔物も出ますから早くお屋敷に帰った方が良いですよ」
「……そうですわね。ありがとう、ジル」
シェリーはそう言うと急いで林を抜け、スコジリエラの町に向かった。
町は古い建物が建ち並んでいて、空き屋も多かったが、特に変わった様子は無かった。
「ちょっと飲み屋さんによってみましょう」
シェリーは町に一件だけある飲み屋に入ると、カウンターに座りビールを頼んだ。
「ねえ、マスターさん、最近変わったことは無い?」
「そうですね。特にありませんが、最近トラモンタ国の錬金術師がよく顔を出すようになりましたね」
「錬金術師? そういえば、林であった人も錬金術師と言っていたわね……」
シェリーが一人で呟いていると、入り口のドアが開いた。
「こんにちは。おや、また会いましたね、シェリーさん」
「……ジルさん」
ジルはマスターにワインを頼むと、シェリーの隣に座った。
「一人で飲んでいらっしゃるんですか? 危ないと申し上げたのに」
「ビールの一杯くらいでは酔いませんわ」
シェリーは愛想笑いを浮かべて、ごまかそうとした。
「そうではなくて、年頃のお嬢様が町の飲み屋にいるのは、問題がありませんか?」
ジルが真面目な顔で注意すると、シェリーは俯いた。
「ちょっと、町のお話を聞きたかっただけです」
「色々と冒険をしたいお年頃かも知れませんが、何かあってからでは取り返しが付きませんよ?」
「……何をしようと、私の自由では無くて?」
シェリーはムッとした様子でジルに言った。
ジルはため息をついてから、微笑んだ。
「お子様ですね、シェリーさん」
「まあまあ、その辺にしときなさい、ジル」
喧嘩になりそうなところをマスターが止めに入った。
「私、そろそろ帰ります。マスターお会計を」
「150ギルです」
「えっと、細かいお金を持っていないので、これでおつりを頂けますか?」
シェリーは宝石の付いたブローチを外し、マスターに渡そうとした。
「いけませんよ、そんな高価な物を簡単に手放しては。ここは私が支払いましょう」
「え? はじめて会った方にそんなことさせられません」
「それでは後日、お金をお持ち下さい。私はトラモンタ国の錬金術師、ジル・スウェードです」
シェリーはジルにお礼を言うと町をでて、林につないだ馬に乗りスオロの屋敷に帰ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます