歩み寄り
「……」
カイさんからの真剣な眼差しと熱い信念を受け取ったベスは、黙ったまま瞳を閉じた。自分の考えと食い違う主張をされれば即否定する彼女がそんな反応をするということは、今の話に何か思うところがあったのだろう。
「……お主はどうする」
「え?」
急に話を振られたので、間抜けな声を出してしまった。
「……僕は元々カイさんに協力するつもりだったから、お前次第じゃないのか? ただまあ、ベスが動かなくても、何かしらの形で手を貸せればと思ってるよ」
「予想通りの答えじゃな、全く。相も変わらず人がいい奴じゃ」
褒められているのか貶されているのか、若干後者のニュアンスが強そうな言い方をして、ベスは肩をすくめる。
「目の前に助けを求める相手がおれば、理由なくそいつのために動こうとする……お主にとっては、カイも困っている人間の一人というわけじゃな」
「……それが無責任だっていうなら、気を付けてはいるよ。今のところ成果はないけど」
「無論、その葛藤と努力は知っておる。じゃがまあ、どこまでいってもお主は他人優先で物事を考えてしまう人間なのじゃよ。儂と違ってな」
「……」
確かに、先程までのベスの言い分は他人を慮る気持ちと真逆なものだった……でも、こいつはこいつで、僕のことを想って行動してくれているのだ。
「お主やカイの思想は、儂と絶望的なまでにかけ離れておる。それをわざわざ擦り合わせるつもりはないが、多少の歩み寄りくらいはしてやってもいいじゃろ」
言って、彼女はゆっくりとカイさんの目を見つめ返す。
その表情は穏やかなもので、敵意を剥き出しにしていた雰囲気は影を潜めていた。
「……それはつまり、ラウドたちの討伐に力を貸してくれるということかい」
「不本意ではあるがな。儂とお前の思想は対立しておるが、しかし矛盾しているわけでもない……弱き者を守ることを否定する程、薄情なエルフではないんじゃ、儂は」
「そうか……助かるよ。エリザベスくんの力を借りられれば、これ以上力強いことはない」
カイさんは心の底から安堵したように微笑んだ。三大ギルドのマスターを務めていた男と正面切ってやり合うには、ベスの力が必要不可欠なのだろう。
「儂が手を貸すからには中途半端な結果は求めんぞ。やるなら徹底的に叩き潰す……あの男は中々に厄介な魔力をしておったからな、儂が直々に戦わねばならんじゃろ」
「そう言ってくれると助かる。正直、あいつに対抗する魔力を持つ者はこの国の軍に存在しない……故に、『
「まー、儂最強じゃし? そんな大役を担えるのは儂くらいのもんじゃろ」
いきなり調子に乗り出して非常に面倒臭いが、ベスが最強であるのは揺るぎのない事実だ。カイさんもそれを分かっているので、特に突っ込んだりはしないようである。子どもを見る目で笑っていた。
「では、詳細は追って連絡しよう。恐らくウェインやジンダイと共に行動してもらうことになるとは思うがね。彼女たちなら今回の作戦に見合う実力を持っている」
「それはまあ、その通りじゃろうな……話の終わりついでに、一ついいか?」
「なんだね? 何か要望があるなら、最大限聞こう」
ベスは目線を逸らし、カイさんに向けて一つの要望を伝えた。
「その、エリザベスというのをやめろ。ベスでいい」
彼女がそう呼ばせるのは、自分が気に入った相手だけである。
「……わかったよ、ベスくん」
どうやら、出会ってからあんまり仲の良くなかったこの二人が。
ようやく少しだけ、歩み寄ったようだ。
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