第7話 仇敵の空気
気づけば俺は走っていた。
衝動のままに大地を蹴る。
ぼんやりと立つ
「ヴリ……トラァァァッッ——!!」
スキル【
おのれの種族を現す技は、大いなる自然の暴力だ。
小さな
知る限り、あいつは究極だ。だったら、水も空気も、あいつが食らう生命すら無い宇宙はどうだ? 重力圏を外れるまで吹き飛ばす。昔から、究極は宇宙に追放するものって決まってるんだ……!
(吹っ飛、ばすっ……!)
微笑みを浮かべて
「【
響く声。光。衝撃。熱。痛み。例えるなら、雷鳴かなにかで殴られたかのようだった。
(うぐっ……はっ……!?)
力が——抜ける。束縛されない空気の体が、自由を奪われ地に墜ちる。くそっ……だめだ……ため息ひとつほども動かせない。
「あらあら……元気な風さんね? お顔を見せてはくれないかな?」
何……言って……?
「あれぇ? お話できないかな? しょうがないなぁ、暴れないでね——えっと……【
言いながら、平伏す
全身に不思議なしびれが走る。気づけば俺は精霊体に戻り、動けないまま転がっていた。
なん……だよ、これ……!?
女はしげしげと
「ふむふむ、なかなか強めだね? 【
「おま……え……、なん……で?」
「え? なんでって? お墓参りに理由が必要?」
なんなんだ。
自分が
「おい……ヴリトラ! お前が滅ぼしたこの国で、何言ってんだ!」
「……えぇ? 何って……?」
少女は口をぽかんと開けると、首をかしげて3、4秒ほど固まった。
「ぷっ……うふふ……」
そして笑った。春風のように。
「あははははっ! ヴリトラぁ? あっははは……!」
「ふざけんな! なにが可笑しい!」
「だって……だって……ひぃー、ひぃー、ふぅー、ふふ……はは、はぁ……。」
不意にぴたりと笑いが止まる。
「だって、あいつは、ヴリトラは……」
やわらかい笑み。
しかし黄金の瞳には、どろりと
「……ヴリトラは、わたしの敵だから。父さまの
穏やかな陽光を背に受けて、金色の少女は剣を抜いた。あの日あの部屋で見たのと同じ、美しく輝く刀身だった。神話に残る英雄のように。剣を構えて少女は言った。
「わたしは、アーシェ。アーシェ=スヴェルガ=アマルヴァティ。聖王アスラの娘にして、王国の正統後継者。滅びた国の、ただ一人の愚かな生き残りよ……!」
——王国の。俺のせいで滅びた国の、生き残り?
あと、名前。ア……アーシェたん……だと?
色んな意味で目を合わせられず、たまらず俺は顔を逸らした。そのときだった。
「あれぇ? お師さまぁ、どうしたの? 地面に寝ちゃって……グソクムシごっこ?」
無邪気な微風の幼精霊——マルテがひょこりと顔を出す。
「きもちわる……ていうか、お師さま……薄くない?」
……んん?……あっ……えっ……?
あっ……なっ……ちょっ……
あっ、あっ……消え……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます