第4話 決意の空気

エルフの少女は呼吸する。


「すぅー……。」


あっ、待っ、死……


「はぁー……。」


ふぅ……。

あぶない……。


また吸われ死ぬところだった。


「ああ……おいしい……!」


おいしいらしい。

舌、だいじょうぶ?


どうも、おいしく吸われて一週間で5度死にました空気です。

エルフっ娘から逃れる安全地帯をさがし、小部屋の隅々を動き回るのが日課です。


まあいいけど。

おかげで、レベル上がっちゃったし。


^^^^^^^^^^^^^^

名前 : 未設定◁

種族 : 空気

Lv. : 5  (Exp. 213/600)

SP : 135/200

スキル : 収縮 拡散 【未選択: 1 ▼】

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経験値。

空気の、経験? って思ったけど、収縮や拡散してみたり、移動だけでも地味に上がる。


吸われかけて生還しても、吸われて死んでも、がっつり経験値もらえるし。

なんでだろ。どういうシステム?


ちなみに、減ったSPは吸われたやつです。

ゼロまで吸われたら死んじゃいます。


「はぅ、またしても……こんな部屋の空気が『おいしい』だなんて、わたし、おかしくなったのかしら? こうしてる間にも、王国は……わたしの民は……。」


見目麗しきエルフの少女。

大きな目には、じわりと涙が溜まっている。


閉じられた部屋。

古びた椅子と粗末なベッド。

運ばれてくる1日3食の粗末なメシ。

用を足す桶。


つまり、どこぞの王女さまらしいエルフっ娘は、軟禁の憂き目に遭っている。


「ああ、なんてこと……せめて魔法が……この腕輪さえ無かったら……!」


右手首を見つめ、なにごとかぶつぶつ呟いたり。

唯一持ち込んだらしい宝剣を振って鍛錬じみた運動をしたり。


魔法を封じているらしい金色の腕輪を、壁にがしがし叩きつけたり。

たまに歩き回っては俺を吸いこみそうになったりする。


他には、やることも、できることも、あまり無いような感じだった。


……え?

王女サマが用を足すとき、おれはどうしてるかって?お嬢ちゃん、そいつは聞くだけ野暮ってもんだぜ。なにも見えない。聞こえない。空気だもの……。


(……でも、なんか。なんか、なんとか、してあげたいなぁ。)


日に日に弱々しくなる独り言。

おいしくなさそうに食べる表情とか、寝顔とか。この子がいつか、笑顔になってくれたら、嬉しいな。


こんなに長く、誰かと……しかも、女の子と一緒にいたことなんてなかったから。これが、情が移る、っていうやつか。


自分から人の役に立とうなんて、おれらしくない。けど……せっかく生まれ変わったんだから、ちょっと頑張ってみようかな。


(よし……。やるか……!)


空気なおれの、ちいさな決意。

空気だし、どうせ気づいてもらえないけど。

くだらない人生。少しくらい、ドラマがあったっていいじゃないか。


【未選択】ってなってるスキル。

なにか、ヒントがあるかもしれない。

空気の指で、おれは光る▼をタップした。


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スキル選択:

 【旋風】旋風を生む

 【暖気】暖気を生む

 【吸息】空気を吸い込む


残ポイント:1

※ スキル選択は進化に影響

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ふむ……。


なるほど……。


手持ちのスキルで、どうやってお姫様を救うか考えると……これ、一択だな。


おれはふたたび指を伸ばして、スキルのひとつをタップした。

見えない気体からだを満たすように、熱い力が注がれた。


あっ……。


あっ、あっ……。

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