第2話 密な空気

——やっべ、死んだ? ちょーウケる……って、やっべ、初期スキル設定し忘れてない?

 ……っと……詫び石も入れて、これでよしっ! セーフセーフ……。


女神は言った。


おれ、死んだらしい。

セーフじゃなくない?


(……あっ……あっ……あれ……?)


目を覚ますと、おれは相変わらず空気だった。

【拡散】する前の、男一人分の体積に戻っていた。


相変わらずの、牢屋みたいな部屋の中。

目の前には、光るウィンドウが浮かんでいた。


^^^^^^^^^^^^^^

名前 : 未設定◁

種族 : 空気

Lv. : 2  (Exp. 22/300)

スキル : 収縮 拡散 【未選択: 1 ▼】

^^^^^^^^^^^^^^


スキルが増えてる。

【収縮】ね。

収縮なしで、ただ拡散したからね。

密じゃなくなって死んだのね。


なんか、レベルも上がってない?

「詫び石」か。

ていうか、何? 空気のレベルって……。


辺りを見回す。

壁の端には、細長い鏡が立てかけられていた。

いわゆる姿見というやつだ。

古そうだなあ。


見つめていると、視界が動く。

鏡に向かって、気体からだが引き寄せられるのを感じる。

歩こうなんて思ってないのに、音もなくすぅっと移動したのだ。

頭の中で、スマホゲーのスティックを押すような感じ?

頭、ないけど……。


(幽霊みたいな感じかな……?)


鏡に映った自分を見る。

鏡には、うしろの壁が映っていた。

やっぱり、からだは映っていない。


ためしに部屋を歩き回る。

扉。窓。開かない。

壁。固い。


しかたないよね。

人間じゃないもの。

空気だもの。


(……そうだ……スキルは?)

【拡散】は封印。

消えるから。死ぬから。

それなら……


(【収縮】!!)

(見えないけど)手っぽい部分を意識して、スキルを発動。

なんとなく、密度が上がった感じがある?


ためしに壁を叩いてみる。


——ぽふっ。


音がした。


音が……した!!


それだけでした。


だけど、初めて……はじめて世界に影響できた。

そう、これは……


(ふっ、これは……わたしにとっては小さな一歩……しかし人類にとっては大きな一歩だ……って……あっ……あっ……?)


気体からだが薄まる。


なんで? 【拡散】してないのに……。


えっ……あっ……。


あっ、ちょっ……。


あっ……あっ……消え……

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