第12話 買い物

 日曜日、部活が終わってから、バッティンググローブを買いに来ていた。ちょうど、夏弥も陸上用のシューズを買いたいらしく、一緒に、スポーツショップに行くことになっていた。川沿いの大きめの道路に沿った形のスポーツ店。比較的大きく、スポーツ用品ならば、だいたいそろっている三階立てで、三階は、キャンプ用品やジムトレニーニング用の商品になっている。球技系は、だいたい二階にある。一階は、運動用のジャージなどの服や健康グッズ、陸上や水泳などのレパートリーとなっている。


 せっかく一緒に来ているので、別れることなく、一緒に回る。

 まずは、夏弥の陸上のシューズから。


「シューズでも女子っぽいよな」


 ピンクや寒色系の色を使った女子らしい鮮やかなシューズ。赤や黒の男子でも使そうな色合いのもあるが、当たり前だが、ほぼ男子にはサイズ的に無理だ。

 壁の棚にシューズが、いくつも並んでいる。床には、靴用の段ボール箱が積み重ねられている。


「靴フェチ?」

「そういう感想が返ってくるのか」

「シューズはやめない。かなりヤバい人みたい。上履きとか盗まないでね」

「幼馴染への信頼」

「冗談だって」

「最近、夏弥は、俺を変質者にしたがっているのか」

「眼鏡フェチとかなら、ギリギリ」

「悩むな」

「あ、そっか。悠星は、筋肉フェチだよね。鍛えているし」

「なんでもフェチに向けようとするな。シューズを選べ」

「はいはい」


 しばらく座って待っている間に、夏弥が気に入った靴を二つ持ってきた。

 よく見るスポーツブランドのマークがデザインされている。


「二つ」

「そっ。長距離用と練習用のね。どっちが好きとか聞かれたかった」

「俺は靴フェチじゃないから」

「あはは、服も一着買うから。シャツは選んでもいいよ。とりあえず、履いてみるから。その間にでも選ぼうか」

「自分でな」

「せっかく、悠星の好みを理解してあげようと思ったのに」


 陸上のランニングウェアが売っているエリアへ。女子の服売り場は、レディースシューズの売り場より、居心地が悪い。男子がいることが、場違いに感じる。


「どう」


 身体の前にシャツを置いて、訊いてくる夏弥。

 

「タンクトップもあるのか」

「ノースリーブ。陸上は、こういう薄手のユニフォームだよね。セパレートで、さらに危ういのもあるけど。うーむ、思春期で、エロに目覚めたと思ったけど、普通の反応」

「おい、変なリトマス紙を使うな」

「とりあえず、練習用だからTシャツでいいけどね。こういうのもあるよ」


 夏弥は、裏に、言葉が書かれたTシャツを見せる。

 『全力疾走』『一歩一歩』とか書かれている。ふざけた言葉が書かれてあるのも。


「面白Tシャツか」

「『飲んだら走るな。走ってから飲め』『ダイエットじゃない、だが脂肪は落ちろ』『走ってるところは見ないこと、太りにくい体質です』『前のやつは、周回遅れ、俺が一位』『ランニングマシーン』『止まったら、負けだと思っている』『己の敵は、己自身』、あはは、面白いね」


 夏弥が次々に、Tシャツをめくっていく。

 ひとしきり見終えて――。 


「よし、これかこれか、どっちがいい」

「結局、普通のか」

「そういう悪ふざけは、男子の仕事。街中走るときも使いたいし。面白Tシャツは、部活以外は、寝間着になっちゃうよ」


 普通の黒に黄色の流線模様が横に沿うように描かれたもの。

 パステルな水色のカラーのもの。

 正直、どちらでもいい。


「あ、選べない人だ。まあ、妹にも同時に告白したしなぁ」

「・・・・・・俺、本当に、二人のこと好きだよ」

「そっ。――いつから、うちの幼馴染はプレイボーイに。で、どっちにする」

「とりあえず、黒の方で」

「なんで」

「見慣れてるから」

「新しい方向も、またオツなもの」


 そういって、黒の方を棚にもどす。


「あまのじゃく」

「はっはっはっ、女の子は、新しいもの好きなのだよ」


 なんで、してやったりみたいな顔をしている。

 完全に後出しジャンケンのようなものなのに。逆を選択する予定だったんだろう。

 悠星は、夏弥をおいて、さっさと二階に向かおうとする。

 待ってよ、と後ろからすぐに追いかけてくる。

 ん、そういえば、シューズを付けたままか。


「待つんだ」

「紳士だから」


 シューズは、どうやら問題ないようだ。いつのまにか、二足とも履いていたみたいだ。階別の会計を終えて、二階へ。


「バッティンググローブかぁ。ショッキングピンクとか」

「あんまり特徴ないぞ。それと、白とか赤だな、よく見るのは」

「消耗品だよね」

「陸上のシューズとどっちが持つんだろうな」

「さぁ、どれくらい走るのかにもよるし」

「こっちも素振りとか握り方次第だな。ボロくても、使おうと思えば使えるし。耐久性の高いのもあるし」

「まあ、機能性重視だよね。シューズと一緒で」

「サイズがあって、あとは、バットを持ったときの感触だな」


 グリップをもった時の違和感は、結構気になるからなぁ。

 グローブとバッドが並んでいるところの奥に、いくつかバッティンググローブが置かれている。

 

「結構おしゃれじゃない。変身ヒーローみたいで」

「それは、褒めているのか。遠回しにダサいと言われている気になるが」

「邪推だよ。もっと手袋みたいなデザインかと思った」

「練習とかだと、代わりに軍手使うやつもいたけど」

「それは、シンプルに、ダサいけど・・・・・・」

「練習だからな」

「白鳥だもんね」

「見るなよ。俺が軍手使ってたの知ってるな」

「他人の、友達の友達の話だよ、うん」


 ふざけた言葉を交わしながら、自分に合ったバッティンググローブを選ぶ。店においてあるバッドでグリップ感を確かめながら――。

 

「それで夏弥は、どれくらい走ってるんだ」

「さぁ。部活を除くと、適当だからね」

「ランニングウォッチとか使わないのか」

「ん、なにそれ。ストップウォッチのこと。まあ、時間は30分から45分だし、軽くジョグは7,8キロぐらいだとは思うんだけどね」


 そうか。まだ、GPSがそこまで浸透してないし、わざわざ走るのに時計をつけたりする時代じゃないか。


「もしかして、悠星は、マラソンコースの測り方とか気になるタイプ?結構ビックリするよ」

「ん、普通に地図とかで」

「自転車のタイヤを実際にコースで回して測るんだよ。陸上の小ネタ。まぁ、長距離走とマラソンは別だけど」

「じ、人力だったのか」

「同じく人がワイヤーで測るという手法もあるけどね。――で、悠星は、結構、素振りはしているのかな」

「俺はピッチャーだからな」

「左手、マメだらけのくせに」

「職業病だ」

「ずいぶん、軽い病で」

「痛いけどな」


しっくりきたバッティンググローブを選び終える。白のスタンダードなグローブ。


「よし、帰ろうか。那雪も待ってるからね。昼飯食べに」

「幼馴染から、搾取するなよ」

「那雪がいるんだから、安いもんでしょ。目の保養になるよ。可愛いから」

「矢瀬も、たいがいだが、夏弥も、重度のシスコンだったなぁ」


 その後、紳士として、荷物をもって、喫茶店に向かった。

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