第11話 クラス
「歓迎会、負けたんだって」
歓迎試合が終わったあとの月曜日。
剛と矢瀬と昼飯を食べていると、秋羽が、席に来た。
「俺は、一点も取られてない」
「野球って、無失点でも負けた?」
分かっているだろう。
野球は、ゼロ点だと勝てもしないけど、負けもしない。
秋羽は意地が悪い顔をしている。自責点はないぞ。
「矢瀬、説明しておけよ」
「第一打席で、三振したから、負けたな」
「あの打席で打っても、点は足りない」
「梓ちゃん、悠星は、6回から投げたから」
よく言った剛。
「なぁーんだ。つまらない。ズタボロに高校の洗礼でも受ければよかったのに」
「矢瀬、妹の教育を頼む」
「妹が、楽しそうでなによりだ」
「自由放任だな」
「それで、今年は、甲子園行けそうなの」
気が早い。高校三年のときにでも聞いて欲しい。
悠星は、昼飯を食べながら、黙る。食事中は、沈黙が許されている。
「俺が点を取って、こいつが打たれなければ」
「じゃあ、いけそう?」
「ああ、そうだな。矢瀬が全打席ホームランなら、考えてもいい」
「無理言うな」
「矢瀬もな」
秋羽は、くすくすと笑う。一週目は、もっとクールな印象だったのに。
イメージというものは、勝手に作り出してしまうものだが。
「もう、甲子園とか言ってるの」
夏弥が、食事を終えて、こちらの席に来た。
さっきまで、同じクラスの友達と食べていたようだ。
「秋羽がな」
「悠星も、甲子園中毒でしょ。相性良さそうだね」
「夏弥、知らないだろうけど。秋羽は、なかなかにいい性格しているぞ」
「いいよね。こう反発しあっている二人が。いつか恋に――」
そんな少女マンガ的な展開は、必要ない。
見ろ、秋羽がすごい嫌そうな顔をしている。
「そういえば、この前、陸上部の男子と仲良く――」
「ああ、あれ。ただ――」
「はい、夏弥さん、悠星くんの顔を見る」
ん、夏弥、なんだよ。
ぎこちない愛想笑いのような表情だ。
「ということで、わたしは、こんな分かりやすい男と、恋愛ゲームにいそしむ気はありません」
「悠星って・・・・・・嫉妬深いんだ」
「そんな顔してない」
「昴は、どう思う」
「男の嫉妬はみっともない」
「おいっ。違う」
「てか、付き合ってなかったのか」
剛は、自然と、そんなことを口走った。
「ううん、妹にも同時に告白してたからなぁ」
「・・・・・・」
「剛、お前の、その顔はなんだ」
「呆然と唖然。今、少し軽蔑が混じり始めてる。裏山爆発しろ」
意味が分からない。
「あっ、甲子園に行けたら、わたしは一週間ぐらい恋人やってもいいよ」
秋羽が、ニヤニヤとして言った。
「はい。夏弥さんもムッとした。分かりやすい」
「ねえ、悠星。いい性格しているみたい」
「だろ」
「わたしは、甲子園より、高級焼き肉の方が行きたいけどなぁ。神戸牛」
「花より団子だなぁ」「甲子園は、西宮市だ」
剛と矢瀬の二人が答える。
前回は、野球部のマネージャーだったから、甲子園って言ったのになぁ。陸上は、インハイか。
「まぁ、わたしは、期待しない側にいようかな。悠星のプレッシャーにならないように。幼馴染としては、一回戦で負けて泣かないでね」
「せめて、もう少し、期待しろよ」
「よし、甲子園にいけたら、ロリコン認定を取り消してあげる」
なんだよ、それ。
期待が低いのに、報酬も低いんだが。
汚名が返上されるだけとは。
†††
夏弥は、会話に満足したのか、自分の席の方へと戻っていた。そして、中学の頃の友達と、話していた。
「幼馴染は、甲子園には、興味なさそうね」
「お前ら、二人が持ちすぎなんだよ」
「お前もな。甲子園は、球児の夢だろ」
「幻だと思ってたよ、俺は。悠星がこんなに投げれるようになると思ってなかったし、それに、矢瀬が同じ高校にくるとも思ってなかった」
「目が覚めた、あの変化球で。あやうく、明央に行くところだった」
「あれ、お兄ちゃん、その前から少し気にしてたでしょう」
「まぁな、少しはいいピッチャーだと思っていたよ、ストレートは。もしかしたら、悠星と同じ学校に行くほうが正しいのかもと思えるぐらいに」
「わたしが来ていて良かったでしょ。ビデオ撮ってあげたんだから」
ビデオも撮っていたのか。わざわざ、このブラコンの妹さんは。
「完全に討ち取られたのは、久々だった。気分が良かった」
「マゾ」
「スポーツ選手は、基本マゾだ」
「矢瀬、その偏見は、俺も含まれるのか」
「ピッチャーは、どう考えてもマゾの鏡だろう」
剛が、横からいらぬ口を挟む。
キャッチャーとは、もっと話し合いをしないとな。お互いについて。今、俺は、二股ロリコンマゾヒストというレッテルを張られているかもしれないから。
「でも、ピッチャー一人で投げ抜くのはキツいぞ」
「西岡先輩か。あと一年あるよ」
そう、西岡先輩は、あと一年ある。確か、一回目の人生も、そんなに悪くはなかった。今は、まだキレがないけど。西岡先輩が三年生のとき、悠聖は二番手だった。速球型ではないけど、緩急をまじえて、マウンド
「そういえばさ、なんで、矢瀬と秋羽は、名字違うんだ」
剛には、どうやら気を使う精神はなかったようだ。
突然、思いつきで喋るように、気まずいことを尋ねる。ホントに、キャッチャーかよ。
二人がいるときに聞いた方がいいと思って、今まで黙っていたのかもしれないけど。ここ、教室だからな。
「秋羽は、義妹だからな」
すんなりと答える矢瀬。
ほら、見ろ。やぶ蛇だ。
こういう問題に他人が手を出すべきじゃない。
「アニメみたいだな」
アニメみたいって――。
義妹ってことは、再婚とか養子とかってことだ。
現実だと、かなり、面倒なことがあったに違いないのに。
年齢近いし、双子のようにも見えないから、予想はついていたけど。
「そっちの幼馴染の方がよっぽどアニメだが」
「いや、幼馴染とその妹に、二股は、ちょっとアニメ的にやばいって」
「剛、人の人生をアニメ化するな」
「ロリコン変態に、主人公は無理でしょ」
秋羽があきれた声をだす。
共感しているのか、剛も首を縦に振った。
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