アレ、断っといてね?
先生が永遠と一人語りする日本史の授業を終え、昼になる。
「透矢は今日も食堂か?」
「そうだな……今日は購買のパンで済ませようと思ってる」
「なら一緒に行こうぜ」
「おう」
「購買行くなら俺も〜」
鞄から財布を取り出した時、ポケットに入ったスマホが揺れた。
『今日一緒に食べよ』
依子からそんなメッセージが来た。
「わりぃ。今日は購買も行かないわ」
「もしかして……」
2人して、ニヤニヤと俺の方を見る。
「……察したなら購買に行ってくれ」
「くぅ、羨ましいっ。あの三好さんと仲良いとか!」
「後で感想教えろよ!」
「何の感想だよ」
羨ましそうにする友達を見送り、依子の教室を覗く。
こちらでも同じようなやり取りが繰り広げられていた。
「依子さん、一緒にご飯食べません?」
「誘ってくれてありがとう。でも、今日は別の人と食べるから」
「そっかぁ〜、残念」
「また誘ってもいい?」
「あ、うん……」
じゃあねー、と誘った女の子たちは自分たちだけで机を合わせて食べるようだ。
依子が教室から出てきた。
「なにその目。まるでアタシごときが、お昼ご飯一緒に食べるの誘われてるとか珍しいって目」
「んな目してねぇわ。いつもあんな感じ?」
「まぁ、たまに。でもアタシって1人でゆっくり食べる派じゃん」
「え、じゃあ俺はなんなの? まさか空気?」
「そーゆボケめんどくさいし。なに? 好きな人とお昼ご飯食べたいって思っちゃダメなの?」
「っ……」
またこの子はそういう事を言うぅぅ!!
「ダメじゃないですけど……けど別にあの子たちと食べて良かったんだぞ? せっかくなんだし」
「あのね、それじゃアタシがなんのためにわざわざ透矢を呼び出した意味がなくなるのよ」
「ま、まさか……」
「そう、そのまさか。全く、そういうのは鋭いよね」
久々の……こりゃ楽しみだ。
静かな場所を求めた結果、屋上にたどり着いた俺と依子。
今日は天気が良く、身体に当たる日差しもいい具合。
今座っているレジャーシートにはお弁当の包みが2個が置かれている。
そう、依子がお弁当を作ってくれたのだ。
「はい、どーぞ」
「おー!!」
弁当の蓋が取られ、中身がオープン。
食べ盛りの男子高校生の鼻腔をくすぐる美味しそうな匂い。
昆布とシャケが乗ったおにぎり。牛肉としめじ入りきんぴら炒め、ポテトサラダ、カニカマとネギ入り卵焼き……俺が好きだと言ったメンチカツも入っている。
「めちゃくちゃおかず充実してるな! 作るの大変だっただろ」
「別に。自分のついでだし」
と言いつつ、依子の方の弁当の中身が異なっていることに気づかないほど鈍感ではない。触れてほしくなさそうなので、そのままにしておこう。
「ありがとうな。じゃあ早速……いただきます!!」
「どーぞ」
どれから食べるか悩むこと数秒。まずは卵焼きから箸を伸ばす。
「ん! うめぇぇ!!!」
ふわりとした舌触り。噛み締めると、中のネギとカニカマが卵とマッチして美味しい。
「そんな? 大袈裟すぎじゃない?」
「大袈裟じゃねーよ。本当に美味い!」
食欲に火がついた俺は、どんどんおかずを食べ進める。
「うん! 美味い!美味い!」
「……そのくらい、アタシの片想いも素直に進んだらいいのに」
「ん? なんか言ったか?」
「なんも言ってないし。てか、勘付かれてないでしょうね」
そう言われ、箸が止まる。
『後ろの首下に2本くらい赤い線がついてるぞ』
『引っ掻き傷じゃね?』
背中の傷の件は言わない方がいいよな。この後の展開が目に見える……。
「あ、当たり前だろ! そう言う依子はどうなんだよ?」
「あ、アタシも大丈夫。完璧だしっ」
互いに慌てふためく。
ん? 依子もなんかあったのか?
気を抜くとまた昨日のことを思い出してしまいそうで、弁当を食べることに集中しようとする。
「ま、まぁこの調子でみんなには勘付かれないようにしよう……。あと、アレ。断っといてね?」
「ん? アレ……?」
弁当を食べ終わり、例の友達を空き教室に呼び出す。
「は!? 無理!?」
ガーンという効果音がつきそうなぐらい、口を開けたまま硬直している。
「な、なんでだよ! 透矢、お前承諾してくれただろ!!」
「俺が承諾しても、肝心の依子がOKしてくれないとダメだろ」
「……ってことは」
「ダメだった」
俺のこの言葉がトドメとなったのか、ガクンと膝をつき、
「なんでだよぉぉぉぉーーーっ!!」
床に向かって叫んだ。
逆にここまで一途というか、ちゃんと自分の気持ちに真っ直ぐなのって凄いかもしれない。対して俺は……
「なんでって……アタシが嫌だから」
「「!?」」
背後からの声に振り向く。そこには依子が。
瞬間、察する。
「お、おい三田……やめとけよ?」
コイツはまだ、依子を諦めきれてないはず……。
「お前にはもう用はない! はじめまして三好さん。俺、三田健と言います!!」
ひでぇな、おい。
「どうも。で、その三田くんとやらは、他人づてでアタシに何の用なの?」
「その……俺と2人で遊びに行きませんかというお話で……。というか、好きです! 付き合って——」
「嫌」
「ください、え……?」
「だから、嫌だ。初対面の人と、遊びに行くのも嫌だし、告白もNOで」
依子の言葉で今度こそトドメを食らったとばかりに崩れ落ちた。と思えばすぐに立ち上がり、
「こ、告白の件はそうですよね……。まだ仲が深まってないというか、なんというか……。で、でもそのための遊びに行くのはなんでダメなんですか! 透矢とはよく遊びに行くって聞きますよ! な、なんでコイツが良くて俺はダメなんですか!!」
俺に指を差し、まだまだ納得いかないと食いつく。てか、三田の俺へ扱いがどんどん酷くなっている気が。それだけ好きな人に盲目、必死かのかもしれない。
依子は話を聞き、はぁと一息。そして、
「今の言葉が答えだってこと、分からない? それとも君も鈍感なの?」
ん? 今の言葉? 三田のが?
分からず、三田に視線を向けると何やらわなわな震え、
「やっぱそうですよねぇぇ!! 返事ありがとうございました!! ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
三田は納得したような口調で、走って去ってしまった。
「なんだったなんだアイツ……」
「アタシが聞きたいよ。でも透矢よりは理解が良かった」
「俺より?」
「だって、さっきの会話の意味分かってなかったでしょ」
「ま、まぁ……」
「はぁ、全く……これだから困るよ、鈍感は。それともまた身体で教えないと分かってくれないの?」
そう言われ、ぐうの音も出ない。
「まぁいいよ。それでこそ透矢だし。今に始まったことじゃないし。放課後も一緒帰ろう」
「お、おう……いいけど」
てか俺に頼むより、依子が直接言った方が早かったな。
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