親友といわれてもう喜べない体になった

 アタシはクラスでは浮いている女だ。


 誰とも話さず、1人で過ごしているタイプ。クラスカーストでいう不思議ちゃんとかそこらへんだろう。


 周りが自己紹介なり、元から友達だったりで会話をしている中、窓際の席なのでボーと外を眺めていた。分かりやすいコミュニケーション拒否である。


 アタシ自身、コミュニケーションは得意ではない。相手が男となればなおのこと。


 そのまましばらく、ボーッとしていると、


「隣、よろしくな」


 アタシが1人だから気を遣って挨拶してくれたのだろう。隣の席の男子が話しかけきた。


「……しく」

 

 無視するもの悪いので、返す。


 会話はこれで終わり。

 無愛想な女だと思われてもう関わってこないだろう。


 そう思っていたが、男子はそれからも話しかけきた。


 関わっていくうちに、共通のゲームが好きだったり、弁当を忘れた時に分けてやったら喜んで食べてくれたり……とにかく、なんだが居心地が良かった。


「アタシといても楽しくないでしょ」


 話すようになってきた頃のアタシの口癖はこれだった。

 

 ぶっきらぼうで愛想は良くないし。


 勉強も運動も何事も気が向いたら時にやるというタイプだった。

 常にネガティブ思考。こういうのをダウナーとか言うらしいけど。


 そんなアタシといて楽しいのかと不安になる時だってある。


 透矢はポカーンと呆気に取られていた様子だったが、やがてニカッと笑い。


「じゃあ俺がその不安を抱かないくらい楽しませてやるよ」

 

 言った。まるで当然とばかりに。


「ふーん、随分な自信じゃん」

「当たり前だろ。友達を楽しませるなんて朝メシ前よ」


 内心期待はしてなかったけど……ムカつくけど、楽しかった。


 一緒にいて、会話して、遊んで……。特別な事なんてないのに、楽しかった。


 いつしか口癖なんて言わなくなっていた。


 そんなある日。


「なあ」


 2人で帰ろうとした時、声をかけられた。声の方を向くと男子生徒2人がこっちを見ていた。


「お前ら付き合ってんの?」

「「………は?」」


 アタシと透矢は同時に素っ頓狂な声をあげた。


 この男は何を言っているんだ。男女が話していたらすぐに色恋沙汰扱いか、お前は女子か。


 チラッと透矢の方を見る。コイツはアタシの事をどう思っているのか。


「俺たちは親友だからな。仲良くしてるのは当然だろ?」

  

 その時は透矢の言葉に頷いた。


 今はというと、親友じゃ喜べない体になってしまった。


 透矢にとって、アタシは割と仲のいい女友達。付き合っている、という程ではないが一緒に遊びに行ったり食事をしたりする程度の仲だろう。


 アタシにとっては……親友以上なのに。

 そんな悶々とした想いを抱きながら日々を過ごしてきた。


「……は? 男友達と2人っきりで遊んでほしい?」


 そして今日、透矢にそう頼まれた時、何かがキレた。




 

 ラーメン屋じゃなくて自宅に行くと依子が言い出し、それから彼女が住んでいる賃貸に着いたのは、20分と少し経った頃だった。

 

「ココア淹れてくるから、座ってて」

「おう」


 依子の言葉に従い、テレビの前のソファに腰を下ろす。


 依子の両親は海外に行っていて、彼女は現在、1Kの賃貸に一人暮らし。なので大体室内で遊ぶってなると依子の家になる。

 

 そのまま待っていると、やがてがキッチンから戻ってきた。


「ん。お待たせ」

「お、ありがとう」

 

 依子が2つ持ったカップの片方を手渡しながら、隣に座ってくる。


 いつもよりちょっとだけ距離が近いのは気のせいか?


「それで、話の続き。やっぱり気が変わった」

「え、てことは依頼受けてくれてくれないのか!?」


 それは困る。なんとか依子を納得させないと……。


「依頼には答えてやりたい。親友の頼みだし。けど、その前にやる事があったわ」

「ほう、やる事?」


 依子はさらにズイッと距離を詰めてきた。肩と肩が触れ合う。


「アンタがアタシを異性とて見てくれないのはムカつく。だからさ——」


 ゆっくりと依子の顔が近づいてきて……





「だからさ——親友、やめていい?」

「え? んっ……!?」


 アタシに口を塞がれ、透矢の目が見開かれた。

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