ダウナー系の女友達
靴箱前に急いでダッシュする俺。近づくにつれ、待ち人が退屈そうにしている顔が見えてきた。
「お待たせ!」
「……遅い」
「悪りぃ。ちょっとあってさ」
手を合わせ謝ると、彼女はため息をつきながらも許してくれた……はず。うん、いつもなんだかんだ言いながら許してくれるし。
今ではこうやって弛む仲だが、最初からこうだった訳ではない。
きっかけは些細なもの。
1年のクラス。その隣の席が、
「隣、よろしくな」
「……しく」
その一言で会話は終了。もはや会話のレベルなのか?
最初は暗いな子だなという印象だった。
だが、それも一瞬。
関わっていくうちに、共通のゲームが好きだったり、本気を出せばめちゃくちゃ料理上手だったりと、色んな魅力に溢れた。
「アタシといても楽しくないでしょ」
話すようになってきた頃、依子の口癖はこれだった。
「じゃあ俺がその不安を抱かないくらい楽しませてやるよ」
「ふーん、随分な自信じゃん」
「当たり前だろ。友達を楽しませるなんて朝メシ前よ」
と、大見えを切ったが内心はカッコつけすぎたと思った。
それからも弛み、いつしか、依子はその言葉を言わなくなった。
そしてその関係は2年に上がってクラスが別になっても変わらない。
のちに3回もヤってしまう原因となってしまったのは、恐らくアレだろう。
そして話は今に戻る。
「んで、アタシとこうやって帰ろうと誘った理由は?」
「まぁそれは……ラーメンの屋に行きながら話そうぜ」
「温玉とチャーシュー追加トッピング、そして替え玉。アンタの奢りだから」
「へいへい。そのくらいお安いのようですよ」
これから頼み事を聞いてもらうからな。
校門を出て、しばらく歩いた時、俺から今日一緒に帰ろうと言った理由を依子に言った。
「……は? 男友達と2人っきりで遊んでほしい?」
俺の言葉を復唱する依子。
「ああ、そうだ」
「あーなるほど。はい、いいですよー……ってなるか!」
「あいてっ!」
かなりの力を込めたチョップを頭に受けた。
「そもそもアンタの友達のこと知らないし、初対面の男子とか無理だっつーの」
「俺は?」
「アンタはいい。てか初対面じゃない。それに男は基本、透矢としか関わらないし……」
嬉しい言葉を言ってくれるじゃないか、親友よ。
うーん、確かにそうだな。初対面と遊べと言われたら俺でさえ、戸惑うな。
けど……
『頼む透矢! 三好さんとセッティングしてくれ!』
『えー、でもアイツ男苦手だって言うし……』
『だからお前に頼んでるんだよ! 三好さん、お前から頼んだら多分、引き受けてくれるだろ?』
『俺が土下座すれば確かに聞いてくれるかもだけど……何故そこまで依子に?』
『んなの好きに決まってるからだろっ! 一目惚れだよ、一目惚れ!!』
依子はあまり性格が明るい方じゃないし、人付き合いも活発な方ではない。しかし、それをなんなくカバーする容姿の良さがある。
ぱっちりとした瞼に若干色素の薄い瞳。鼻筋はしゅっとしていて、かなり端正な顔つきだ。髪の毛は薄く青みがかった黒のウルフカットで、どちらかというと、ボーイッシュな印象を与える。
サイズが合ってないのか、学科指定のブレザーは萌え袖状態。クールさとのギャップもあって、密かな人気を持つ。
『頼むよ透矢〜。三好さん、お前としか関わらなくて、全然脈ない事は分かっているが……この際これで恋は諦めていいと思っている! だから最後に2人っきりで遊びに行きたいっ!』
『そう言われてもなぁ……』
そこでふと、俺は考えた。
これから先、高校を卒業すれば依子は俺と別れ新たな人たちと関わることになる。その時に少しでも男慣れをしといた方がいいのではないか?
俺が後ろから見張りとしてついていけば安全は保証されるし。
ということで依頼を引き受けたのだ。
「どーせその友達から頼み込まれたんでしょ。一目惚れでお近づきになりたいからとか言われて」
「ゔっ、その通りでございます……」
さすが依子。俺の事になると人一倍鋭い。
「だが、お前の1番の友達で俺が見極めた男なら信用できるだろ。それに後をつけて見守るから安心だ!」
「確かに透矢のことは信用してるけど……あーめんどくさい、めんどくさい。……そこまで分かってんなら、なんで透矢が……」
「え、なんか言ったか?」
「チッ、この鈍感野郎。ムカつくし。そんなに言うなら受けてやってもいいけど、1人は嫌だから」
「女友達同伴ってことか?」
「は? 依頼引き受けた透矢しかいないでしょ。3人で遊びに行くのなら受けてやってもいい」
「せっかくの空間に俺が入るのはなぁ……。それに依子、お前俺以外の男ともし少しぐらい接触持った方がいいぞ。高校を卒業したら俺たち、離れ離れになるかもしれないんだからよ」
笑いかけて言ったものの、依子はムッとした顔になった。ちょっと怒ってる……?
「やっぱラーメン屋は変更」
「え、じゃあマルドナルド?」
「違う。アタシんち。ほら、行くよ」
「え、おいちょっ……」
依子に強引に手を引かれ、俺は家に連れて行かれた。
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